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2部隊合流!で見る「戦(いくさ)」と断層の深い関わり:「三方ヶ原の戦い」を地形・地質的観点で見るpart9【合戦場の地形&地質vol.5-9】

歴史上の「合戦」を地形・地質の観点で考えるシリーズ。

「三方ヶ原(みかたがはら)の戦い」は、徳川家康が武田信玄に大敗した戦として有名です。
武田軍の進軍ルートの地形を見ると、山県昌景率いる5000人の別動隊と武田信玄率いる22000人の本軍では明確な役割分担があったであろうと言うことが伺えます。
前回記事はコチラ👇

武田軍本体、別動隊とも、それぞれ遠江(とおとうみ:現在の静岡県西部)、三河(みかわ:現在の愛知県東部)の徳川領に侵入後は、怒涛の進撃で数々の城を陥落させます。
2部隊は途中で合流し、徳川家康の当時の本拠地である浜松城を素通りし、その動きにより「三方ヶ原の戦い」へ至ります。

今回は武田軍の徳川領内での進軍ルートと各城の位置関係を、地形・地質的観点で見てみましょう。


武田軍の快進撃

武田軍が徳川領内に侵入して以降は、かなりの電撃戦で次々に城を落としって行ったようです。
まさに「侵略すること火の如く」ですよね。
一般的に、支城(本城以外の城)を落とすのに1か月かかるところを、平均3日で落としたと言うことですので、レベルが段違いです。
徳川家康は相当な危機感を持っていたでしょうね。

ではまず、関係する城の位置関係を見ましょう。

三方ヶ原の戦いに関係する城の位置図:スーパー地形画像に筆者一部加筆

「三方ヶ原の戦い」に関係する城の位置関係です。

図の南部の浜松城が当時の徳川家康の本拠地です。

武田の別動隊である山県昌景隊は伊那盆地南西部から三河に入り武節城(ぶせつじょう)、長篠城(ながしのじょう)を攻略し、二俣城(ふたまたじょう)で本隊と合流します。

武田信玄本軍は青崩峠からほぼ真っすぐ南下し、犬居城(いぬいじょう)へ。この時に名将・馬場信春(ばばのぶはる)が本軍から5000人を率いて別れ、只来城(ただらいじょう)を陥落させ、二俣城へ向かいます。
その後、武田信玄本軍と馬場隊が再び合流し、長篠城を攻略した山県隊も合流して二俣城を包囲、陥落させます。

武田軍の侵攻ルート:スーパー地形画像に筆者一部加筆

想定される侵攻ルートです。
黄色矢印が山県昌景隊、ピンクが武田信玄本隊、青が馬場信春隊です。

こうして見ると、非常に見事な戦略だなと感心しました。
山県隊が武節城と長篠城を落とすことで、徳川の三河勢力と遠江勢力を分断し、次に二俣城を押さえることで掛川城(かけがわじょう)や高天神城(たかてんじんじょう)も分断して浜松城を孤立させています。

二俣城は交通の要衝だったようです。
確かに地形図を見ると二俣城は山間地域と平野部の境に位置し、天竜川沿いに位置します。
当時の物流は河川が主でしたから、二俣城を押さえられると、その下流域まで力が及びやすいのでしょう。
また平野部なので進軍も早く、だいぶ南まで影響力が及ぶようです。

実際に、二俣城を陥落させる前の段階でも馬場信春隊徳川の偵察部隊と遭遇し、図の「×」の場所で交戦しています。
これが「一言坂の戦い」であり、本多忠勝が命からがら退却してきた戦いでした。

侵攻ルートと断層の関係

武田信玄本軍は、遠江国に至るまで秋葉街道を進軍してきました。
秋葉街道は、日本屈指の大断層である中央構造線沿いにできた街道でした。
前回までの記事で、青崩峠までの道中を紹介しましたが、徳川領内の進軍においても、断層が深くかかわっていることが分かりました!

武田軍の侵攻ルート周辺の断層分布図:スーパー地形画像に筆者一部加筆

黄色点線が断層です。
青崩峠から徐々に南西に方向を変え、長篠城近辺を通っているのが中央構造線です。
古地図を見ると、断層に沿って南西方向に村々と街道が繋がり、長篠まで至っていました。
先行した山県隊が武節・長篠攻略に苦労するようであれば、このルートで援軍を送る用意もしていたかも知れませんね。

青崩峠のやや北から枝分かれして南へ延びているのが光明断層(こうみょうだんそう)と呼ばれる断層で、馬場信春隊が犬居城から只来城へ進軍した際は、この断層沿いの街道を通ったと考えられます。

そして青崩峠の南で分岐して南へ延びているのが赤石劣線(あかしれっせん)と呼ばれる断層。
天竜川は、この断層によって弱くなった地質を侵食して流れているのでしょう。大きな川で蛇行も激しいので、中央構造線沿いほどの歩きやすさはなさそうですが、村が点在し、街道もあります。
おそらく、武田信玄本軍は青崩峠を通った後、この赤石劣線沿いの街道を通り、犬居城へ進軍したと考えられます。

戦国時代の合戦をここまで見て来て、思った以上に「地質が関わっている」と分かりました。

次回以降では、上記の各地をもう少し詳しくお話ししていきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。


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