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赤の魔法。《2018.9.19お昼の記録》

お友達と旅にきていて、どこか大きな川のほとりをのんびりお散歩していました。

空が青くて、川も飲めそうなくらい澄んでいて、広くて、キラキラで。全部がごきげんでした。

ひたすら道なりを突き進んでいくと、緑の小路に入り、さらに進むと少し開けて青いベンチが待っていました。

ごきげんとはいえお日様にやられて疲れはてていたので、ダッシュで着席。

少し伸びをして、何処まで行こうかと考えていたら、

「よっこいしょ。こんにちは。」

突然ちいさめのおじいさんが現れて、青いベンチに腰かけました。

「こんにちは。」

「買い物に行っててね、ここまで来たんだけど、疲れちゃってね。ひと休み。」

「そうなんですね。私たちもひと休みしてるんです。」

こうしておじいさんの長いお話がのんびりはじまりました。

もともと北の方にすんでいて電気屋さんしてたんだけどね、娘が年寄りの僕たちを心配して近くに越して来いってここに移り住んで十数年。

定年越えても仕事たのまれるからこんなに頑張ってきたけど、今はもう引退して写真に没頭してるんだ。風景のね。

僕の写真、今年と来年で合わせて全部で3つ、市のカレンダーの写真に選ばれてね。写真倶楽部の皆にはうらまれちゃったよ。

そこに大きな橋が掛かってるでしょ。あれが上橋。向こうにもひとつ中橋っていうのがあってね。その間が鮎のよく釣れるスポットになってるんだ。橋に青い電車が通った瞬間と釣り人を撮りたくてね、2時間くらいまって、やっと撮れたんだ。それが入選してね。

あともうひとつの写真はね、カタクリってピンク色の花がここ一面に咲くんだ。今は季節じゃないけどね。それを撮りにいったら、そこにいた管理のおじさんがいうんだ。「この一面のピンクのカタクリ畑のなかに、一つだけ真っ白のカタクリが咲いてるよ。見つけてみな。」

僕は無理だと思ったけど、カメラの望遠レンズを使って探したんだ。でも見つからなくて、ヒントを聞いたわけ。そしたら「あの木とあの木の間に咲いてるかもしれないよ」って。それでね、ついに見つけたんだ。ピンクの中に一つだけ真っ白のをね。それですぐ写真を撮ったよ、それも入選しちゃってねえ。

あ、そろそろ行こうか。同じ方面だから一緒に行きましょうね。

あっちにね、いま彼岸花が満開なんだよ。連れていってあげるから来なさいな。

こうして、腰をあげて、3人で川沿いを歩きはじめました。

上橋をこえて、中橋が見えだしたとき、あっと声をあげました。

真っ赤な真っ赤な彼岸花が視界にぶわっと入ってきました。

「こんなもんじゃないよ」

そういっておじいさんが歩くたんびに、増えていく彼岸花たち。すげえ!魔法使いみたい。

もう3日もすれば全て枯れてしまうんだ。

大きな木を守るように囲んで咲いていたり
ベンチの下から力強く一斉に咲いていたり
川を眺めるように首を伸ばして咲いていたり。

なんだか人みたいでした。

「じゃあ僕は家に帰るから。まだ生きてると思うから、いつかまた会いましょう。」

「さよなら」
「さよなら」

花が咲いて、たまたまここに来て、青いベンチに腰かけた。

もう会うことはないかもしれない。でも出会った私たちは真剣で、おじいさんはしっかり自分の物語を話してくれた。(すごくたくさん話すのに、すごく恥ずかしそうに小さく話すのが素敵だった。)

いつも、なにひとつ無駄なことはなくて、全部がどこかで生きているんだから、

毎日はおもしろい!

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