ゆみゆみ

板倉 由美子 心にあかり 灯し人 歌詠み人 ともす農園園主/ともす農園食堂 フリー…

ゆみゆみ

板倉 由美子 心にあかり 灯し人 歌詠み人 ともす農園園主/ともす農園食堂 フリーランス「ともす」 国家資格キャリアコンサルタント 研修講師、カウンセリング、コーチング等

最近の記事

ともす横丁Vol.22 喪失するということ

半分の水が入ったコップを見て、どう思いますか?と問われることがあります。たった今の状態について答えるわけですが、これには時間軸がありません。もともとあふれるほど一杯だったけどこぼれて半分になったのか、何も入っていなかったところに半分注ぎ足されたのか、それによって受ける印象、動く感情は違うはずです。 私は長いキャリアの途上にいましたが、会社を辞めました。両親の余生が穏やかで和やかなものであるようにとの願いからです。 そのコップはあふれるほどだったけど、一気になくなってしまい

    • ともす横丁Vol.21 父の日記

       父の日記を読み始めました。私が1歳の頃から始まり、ようやく十八歳を迎えたところです。  父に生前、「日記どうしたらいい?」と聞くと不思議な顔をしました。嫌だと言わないこの表情は…もしかして読んで欲しいと思っているのではと思ったのです。  父が亡くなって間もなく二年。人の日記を読むなんてとんでもないと思うのがごく普通なこと。しかし、父は語らなかった人。日記は自分の生きた証、作品のひとつと思っているのではないか。はっきり言葉にするのは稀でしたから、よくわかりません。その曖昧

      • ともす横丁Vol.20 母の新しい靴

        母が新しい靴を手に入れた。 膝が痛いと歩くことを厭うようになった母。父が亡くなって気持ちは内に籠り、後ろ向きな気持ちに拍車がかかっていた。 どこかへ出かけようと誘っても足が痛いから出かけたくない、スーパーに買い物に行くのも買ってきてくれればいいと言い、生きる気力が乏しいのをどうしようもなく見守る日々が続いた。 痛み止めを飲んでも、膝の痛みを軽減するのに整形外科で保護具を作っても捗々しくなく、膝の痛みさえなければ私の人生はよくなるのに、と痛みを理由に絶望の淵に立っていた。

        • ともす横丁Vol.19 母の来客

          母は八人兄弟の七番目で、すぐ上の姉と末っ子の妹は三姉妹みたいに仲が良かったという。その姉が昨年の春、突然旅立った。歌いながら話しているような美しい人だった。 哀しみに暮れている間もなく、昨夏父が亡くなって、母のところに末っ子の妹が遊びに来るようになった。お互いにいいたいことを話したり聞いたり、気晴らししているらしい。 昨日、母を病院に連れて行ったとき、「明日、かんちゃん(妹)が来るだよ。」と話してくれた。「へえ、よかったね。お茶菓子とかいいの?」というと「かんちゃん、昨日

        ともす横丁Vol.22 喪失するということ

          ともす横丁Vol.18 母の口座名義

          父の遺産整理のため母と銀行に出向いたときのことだ。母が自分の口座名義が違うと言い出した。母の名前の一文字が旧字でなく新字になっているという。今さら何を言い出すんだろうと訝しく思った。 今のままでも送金するのに問題ない。今までよくてなんで今なの?と聞くと母は「お父さんがそれで(新字)いいと言ったからそうしたの。親からもらった名前だからその字を使いたい。」とうつむき加減に言う。父に主張できなかった母がそこにいた。 銀行の窓口の女性は、通帳の新字で書かれた名前に丁寧に抹消線を引

          ともす横丁Vol.18 母の口座名義

          ともす横丁Vol.17 母の葛藤

          父が亡くなり、母はひとり暮らしになった。 亡くなる直前、父の弱りようは目にも明らかだったのに、母は気づきたくなかったのかひどく鈍感だった。ひとりが現実になって、父のいないベッドや父の遺影を見ては消え入りそうに哀しそうな寂しそうな顔をして涙を流し、何度も何度も亡くなる前の話をして聞かせた。父のいないひとりの暮らしは耐え難いようだった。 ごはんを作る気力が失せ、今まであれほど手間をかけていたのにいい加減になった。母はずっと誰かのために料理を作ってきた人だった。母も気づいて何を

          ともす横丁Vol.17 母の葛藤

          ともす横丁 Vol.16 父の日記

          父の四十九日法要が無事に終わった。 法要が終わったらもう手の届かない人になってしまうような気がして、落ち着かなかった。 聞きたいことももう聞けない。どんな本を読んだらいいかも、悩んだ時どう考えたらいいかも、人生を歩む上での手がかり、道筋を示してくれる人がいなくなってしまった。父を頼りにしていたことをいなくなって思い知った。夜の闇は受け入れがたく、Netflexの楽し気なラブコメを見続けた。その時は別世界にいるようでどこか醒め、見終わると思い出しては泣いた。 生前、55年分

          ともす横丁 Vol.16 父の日記

          ともす横丁Vol.15 父との対話

          父は物静かで穏やかな人だ。争うことを好まず、声を荒げたこともない。上からものを言うようなことも力を誇示するようなこともない。 いつも本を読んでいて、どこかの何かの世界にいて、ここにいなかった。父とのつながりが欲しかったんだろう。中学生の頃、英語の問題を教えてもらおうと勇気を出して父に尋ねた。そうしたら、父は「そんなクイズみたいなことには答えられん。英語の本を読め。」と多少の苛立ちを持って言った。ショックだった。ようやく父と話せると聞きに行ったのに。それから一切尋ねることをし

          ともす横丁Vol.15 父との対話

          ともす横丁Vol.14 苦手が消えていく

          クロスバイクに乗ろうと思う。あんなに苦手だったけど。以前はできないと思っていたことができる自分がいて、苦手が消えてることに気づいた。 自転車は小さい頃に転んで家族に笑われたりして恥ずかしさから苦手になったし、IT系は私にゃわからないって誰かにやってもらいたい気持ちが先立って、何か作ることもそんなのうまくできないしってできる人にやってもらおうとしてた。 たくさんあった苦手たち。苦手だと気づいていなかったこともあったと思う。見てみないふりしてたのかもね。できない私を見たくなく

          ともす横丁Vol.14 苦手が消えていく

          ともす横丁Vol.13 母の初夢

          母が初夢を見たと言う。「ひとりぼっちでね、すごく悲しい夢だったの。」と少し涙ぐんでいる。初夢がそれ??何も言えず、黙ってしまった。 そして「すごく悲しかったけど、これは神様から自立しなさいって言われてると思ったの。」と言う。前向きに捉えていることに驚いた。 母は、去年の今頃から父が先に逝くことを心配して不安になり、気落ちして、挙句の果てに家の中で転んで骨折入院。運よく車いすの生活は免れ、若者が働くリハビリ病院で元気を取り戻し、9月には自宅に戻ったものの筋力の低下から歩くの

          ともす横丁Vol.13 母の初夢

          ともす横丁Vol.12 鬼に光を

          私の中に鬼がいる。それはいつもは大人しくしているけれど、時々暴れることがある。 母は自由を渇望していた。だから私に由美子と名付けたそうだ。子どもたちには自立してほしいと願う母の厳しさは、鬼のように見えた。 家庭に隷属して何もできずにいる母を見ているのがつらかった。母を助けることはできなかった。無力だった。 ある時からそんな母に「お母さんみたいになりたくない」と反発した。母はさびしそうな顔をしていたが、何も言い返すことはなかった。 母の自由に生きてほしいと願いながら、近

          ともす横丁Vol.12 鬼に光を

          ともす横丁Vol.11 社外メンターのこと

          企業で働く女性の社外メンターをしている。2018年NPO法人アーチ・キャリア設立時、発起人である有冬典子さんからお声がけいただいて登録させてもらった。当時在職中だったため、マネージャーの経験に役立つものと勤務先に届け出。代表の井本七瀬さんからお声がけいただく都度、担当してきた。 なぜ引き受けたかと言えば、在職中、仕事のことで悩んだ時、社内の誰かに気軽に相談することが難しかったから。そんなことくらいで相談するの?という自分のジャッジの声がするし、相談したりすると自分が「できな

          ともす横丁Vol.11 社外メンターのこと

          ともす横丁Vol.10 大根のこと

          9月終わりに蒔いた大根が育ってきた。何にもしないのに、ここまでおおきくなるなんて。そう、無農薬、無肥料で。土壌のチカラはどこまで育てるのか試してみようと思って。 農人のゆうちゃん(吉原優子さん)の教えに従い、大根の種を蒔いた後、双葉が出たら、間引き、そのあとも何度か間引き、あとはそのまま。たまに少しは周囲の草取りくらいはしたけれど、それも適当で。なんかね、その小さな草たちも一生懸命生きてるよなと思うと抜けなくなっちゃって・・。こうして世界を構成しているんだから、その意味もあ

          ともす横丁Vol.10 大根のこと

          ともす横丁Vol.9 対話の場を産む

          ☆11/15 PCAGIP☆er Projectリリース!https://lifeactivatorco.wixsite.com/pcagiperproject 誰しも心の奥に悩みを抱えてる。ひとりで抱えるのは苦しくてつらい。視点がひとつだといつまでもそこに留まり、混迷は深まるばかりだ。もし誰かに安心して話せる対話の場があったなら・・。 そんな場を創ることで慈愛に満ちた社会にしたいと対人支援やビジネスの場で働いている仲間たちと意気投合。この2か月話し合いを重ねてきた。それ

          ともす横丁Vol.9 対話の場を産む

          ともす横丁Vol.8 高校でのキャリア教育

          過日、豊橋市内の高校一年生を対象にキャリア教育を担当する機会をいただいた。開催まで2週間という短い中、初めてのことへのチャレンジ、生徒さんの気づきや満足につながるのか、一瞬ためらったが、「やりたいんでしょ?ならやれば?」という心の声に素直に従うことにした。 このご縁は、宮地多佳さんからいただいたもの。数回の面識にもかかわらず突然私に連絡するのも勇気がいったことだろうと思う。その宮地さんが高校生一年生のタイミングで私に出会えたら素敵じゃないかとおっしゃっていただいたこと、とて

          ともす横丁Vol.8 高校でのキャリア教育

          ともす横丁 Vol.7 母のぬくもり

          私が生まれて8人家族になった。おじさんやおばさんたちがいて、それはにぎやかだった。その分、母は大変で、早朝から出勤するおじいちゃんや当時高校生だったおじさん、おばさんのお弁当4つ作って持たせていたらしい。 幼い頃、母が座っているのを見た記憶がない。いつも立ち働いていた。大家族の専業主婦だから、掃除、洗濯、食事の支度におおわらわ。たらいを使って洗濯してた時期もあって、凍りつくようなお風呂場で冷たい水を流しながら、たまに手伝ったのを覚えている。必死で一生懸命な後ろ姿だった。

          ともす横丁 Vol.7 母のぬくもり