見出し画像

ともす横丁Vol.19 母の来客

母は八人兄弟の七番目で、すぐ上の姉と末っ子の妹は三姉妹みたいに仲が良かったという。その姉が昨年の春、突然旅立った。歌いながら話しているような美しい人だった。

哀しみに暮れている間もなく、昨夏父が亡くなって、母のところに末っ子の妹が遊びに来るようになった。お互いにいいたいことを話したり聞いたり、気晴らししているらしい。

昨日、母を病院に連れて行ったとき、「明日、かんちゃん(妹)が来るだよ。」と話してくれた。「へえ、よかったね。お茶菓子とかいいの?」というと「かんちゃん、昨日誕生日だっただよねえ。」「え、そうなの?じゃ、ケーキとかにする?」「それもいいかもねえ。」ということで、今日近くのケーキ屋さんをのぞくといい頃合いのホールケーキがあった。「かんちゃん、お誕生日おめでとう!」のプレートを載せてもらい、ろうそくは7と8を準備して、近所の書店で見つけたバースデーカードを母に渡すと、父からもらった色鉛筆でメッセージを書いてみようかなという。

私はかんちゃんが来たのを知らない。夕方、母を歯医者に連れていくのに迎えに行くと、後部座席の声がいつになく弾んでいる。「かんちゃん、こんなふうに祝ってもらったの初めてだって喜んどったよ。私もお祝いすることができて幸せだったなあ…あっちゃん(上の姉)が一緒だったらよかったけど…」と喜びつつも、途中から半ば涙ぐんで話す声が聞こえた。

母は姉とこんなふうに祝えたらよかっただろうな。妹と少なくなった姉妹とのひととき、あとどれだけあるのかわからないけど、そのときが心に残る一瞬でありますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?