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短編小説 : チキン南蛮の記録

6月1日 木曜日 くもりのちあめ

 きょうはバイトがあるのにぎりぎりに起きた、というよりは体がだるく、頭も重く、やっと起き上がれた、というべきかもしれない。
 やることはいっぱいあるのに、すべてが憂鬱で、何も手につかない。

 昨日、YouTubeでみたチキン南蛮をつくろう。そう思って近くのドラッグストアでササミや卵、マヨネーズ、チョコレートアイス、アーモンドチョコレート(どんだけチョコレートが食べたいんだ)を買い込み、服をらくなものに着替えた。

 さあ、チキン南蛮、作ろう!
 料理自体は好きだが、最近体が重いせいでろくに自炊という自炊をしていなかった私は、エプロンをしめ、まな板を前にした瞬間、すごくわくわくした。

 とんとん、じゅわじゅわ。耳障りのいい音を聞きながら、なんとなく手を動かしていると、いつの間にかお皿の上に、さくさくの衣のササミさんがねころんでいたのだった。

 おお!わたしは思わず歓声を上げる。レンジで作った簡単なタルタルソース、パセリをふりかけ、甘酸っぱいたれをとろりとかける。

 これは……私の胃袋をつかめる。確実に。
 いざ!と言いたいところだが、味噌汁ができるのを少し待つ。温まった味噌汁をお椀によそい、机に運ぶ。

 白米、味噌汁、チキン南蛮。なんて魅力的な組み合わせだろう。
 いざ!!いただきます!
 しろく、おうごんにかがやくそれは、はむり、と口でかむとササミ特有の噛み応えが出迎え、甘酸っぱさ、しょっぱさ、クリーミーさが一堂に会する。

 ………泣きそうなくらい、うま~~!!!!自分でこんなおいしいチキン南蛮作れるの、すげー!半ば自画自賛に走る。
 おいしすぎると、口の中で味わうのを忘れ、すぐに飲み込んでしまう。もったいなさと、口福感に満ちた世界。ごはんがうまい。味噌汁が体をぽかぽかさせる。幸せだ。間違いなく。

 久しぶりに満足感を得た心と胃袋は、ほかの身体の部位まで伝わっていき、食べ終わるころには、わたしの不調は解決していた。

 おいしい食事って、からだにいいな。
 そう思った木曜の夕方であった。
 明日は金曜、ちょっとだけ頑張って早く休日を迎えたいものだ。

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