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【木曜日】【短編】本当に怖くない猫の話

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1話完結型です。何でも屋の男が猫の見合いを依頼してきた女性によって、猫に関する依頼が増えて猫にまつわる話を聞かされるという形で書いています。
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#小説

【全話】本当に怖くない猫の話

【全話】本当に怖くない猫の話

はじめに

noteでこれまで書いた同じタイトルのものをまとめようと思い立ちました。この「本当に怖くない猫の話」を一つにしています。
正直、誰か読んでくださったかわからないですが、9万字以上も書いたんですね。
noteでは、ほとんど日記や読書感想文を書いています。たまにこうした小説を性懲りもなく書いていますが、あまり気にせずお付き合いいください。
誤字脱字など校正に手を出すと、話がすっかり変わって

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続・本当に怖くない猫の話 part.1

続・本当に怖くない猫の話 part.1

夏の休日、何でも屋は海釣りの帰りに依頼人の家に寄った。

今週は毎日家を行き来していることに何でも屋も依頼人も気づいていなかった。

「ずいぶんと日焼けで赤くなってますね。痛そうです」

「顔だけですから、大丈夫ですよ。アジが大量に釣れたんで、料理してもらおうと持ってきました」

何でも屋は釣り道具一式をいそいそと下ろして、クーラーボックスを開いて見せた。

「アジがいっぱい釣れたんですよ。料理し

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本当に怖くない猫の話 ~ちょっと怖い猫又~

本当に怖くない猫の話 ~ちょっと怖い猫又~

「怖い話って得意ですか?」
依頼人はブラックのコーヒーを飲みながら、何でも屋に聞いた。
依頼人はコーヒーに何もいれない。何でも屋は砂糖かミルクか、その両方を入れないとコーヒーを美味しく感じない。
客の自分のために、依頼人に毎回わざわざ砂糖やミルクを準備させるのを何でも屋は申し訳なく感じていた。
この広い屋敷に、最近は依頼人一人しか住んでいない。お手伝いは誰もない。
「特別怖がりってわけでもないと思

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本当に怖くない猫の話 part.1

本当に怖くない猫の話 part.1

小雪の降る公園。黒いコートを着た男が一人立っていた。

すると、待ち合わせた依頼人がやってきた。

「何でも屋さんですか」

こぎれいな身なりをしながらキャリーにも入れず素のままの猫を懐に抱いた奇妙な女に尋ねられ、男は頷いた。男はこの不況の最中、怒りに任せて仕事を辞め、失業手当の給付も切れ、1週間前からネットに何でも屋の看板を出していた。これまでネットで数件以来を受けたが、まさか本当に依頼人が現れ

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本当に怖くない猫の話 part.2

本当に怖くない猫の話 part.2

何でも屋は、ある女性に猫のお見合いを頼まれた。成功報酬20万円の仕事だ。他人様から見ればずいぶんとバカバカしいような話かもしれないが、彼は少し張り切っていた。子どもの頃に飼っていたオス猫が近所のボス猫になるくらい強く、それでいて捨てられた子猫を見つけて助けて育ててやるくらいに優しかったのだ。生きていれば、女性の賢い飼い猫の良い伴侶になったに違いないと思った。

「この子を、お見合いさせたいという話

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本当に怖くない猫の話 Part.4

本当に怖くない猫の話 Part.4

三十路を超えて何でも屋を開業した?と言ってよいかもしれないと最近思い始めた。買い物代行をネットに出したら、思いのほか依頼が舞い込んだ。1日1件は必ず仕事がくる。コロナ禍で失業者が溢れ、男もその一例ではあるが、これが通常時であれば、こんな商売は成り立たなかったかもしれない。外出自粛が叫ばれる昨今にあって、ネットを見ている時間もみな増えているのだろう。

何でも屋が初めて受けた依頼に、その日、一筋の光

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本当に怖くない猫の話 part.5

本当に怖くない猫の話 part.5

彼女は、猫を撫でながらかつてのことを思い出していた。

仕事を辞め、実家で一人暮らしを始めて1年目にその猫はやってきた。

「あっちへ行きなさいよ!しっ、しっ」

桜の花も散り切った4月の中頃のことだ。生後2か月ちょっとくらいだった。庭先に現れた三毛猫は鼻水を垂らしてやせぎすでいかにも病気持ちといった感じだった。

(かわいそうだけど、拾ったら病院に連れていかなければならないものね)

猫は治らな

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本当に怖くない猫の話 part.6 前編

本当に怖くない猫の話 part.6 前編

無職になると何もかもが嫌になる瞬間が必ずくる。何でも屋は今がそういうタイミングだった。「何でも屋」なんて名乗ったところで、家賃のいらない祖父母の家でその日暮らしをしていれば、定職につかないフリーター扱いされても仕方がない。いい年をして・・・と親が言ってきたわけでもなかったが、ささいなことで言い争いをしてしまい、親が差し入れに持ってきた大量のパックのおかずを食卓の上で見た時に何でも屋は何とも気まずい

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本当に怖くない猫の話 part.6 後編

本当に怖くない猫の話 part.6 後編

依頼人は8時過ぎに身なりを整えて起きてきた。黒猫と三毛猫に挟まれている何でも屋を見て少し眉を上げたものの、落ち着いた様子でお茶を淹れると何でも屋にもすすめた。

「今日はどうしましょうか」

「とりあえず、その子猫のことを聞いてみないといけませんね」

「そうですね。お願いします」

何でも屋は何となく一人で旅館の人に子猫のことを聞きにいく気がしなかったので、ひたすら依頼人が起きてくるのを待ってい

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本当に怖くない猫の話 part.7

本当に怖くない猫の話 part.7

何でも屋は憤っていた。

今朝、久々に母に電話をした。近況報告でもと思っていたら、いつの間にか愚痴になった。

『気のせいよ』

は?

何でも屋の愚痴を母は切って捨てた。

『猫も飼って悠々自適の暮らしなんでしょ。疲れているなんて気のせいよ。じゃ、このご時世だから絶対帰って来ないでね』

母はすげなく言って電話を切った。

何でも屋は膝の上の子猫を撫でながら天井を仰いだ。身体がだるい。熱はないの

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本当に怖くない猫の話 part.8

本当に怖くない猫の話 part.8

何でも屋が子猫を飼い始めて1ヶ月が経った。名前はまだない。いや、最初は世間で人気の名前にしようと思ったのだ。しかし、せっかく黒猫なのだから、見た目に合う名前にしたいと思った。

とはいえ、 某アニメの猫とか”クロ”という名前にしたら、脱走したときに他の猫と区別がつかないかもしれない。飼い猫じゃなくても、クロクロと呼ばれている野良猫がいたら振り返ってしまうかもしれない。今は子猫だから良いが、大人にな

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本当に怖くない猫の話 part.9

本当に怖くない猫の話 part.9

何にもしたくなくなる時がある。それでも朝が来て、子猫にたたき起こされる。いや、最近は猫も気を遣っているのか、以前のように朝4時ごろににゃあにゃあ鳴き叫ぶことはなくなった。ただ、枕元で無言の圧をかけて朝の6時ごろまで待っている。たまに髪の毛をちょいちょいと弄ばれていることには気づいているが、意地になって何でも屋も6時前後までは何が何でも起きないぞという気になっている。

生後5か月くらいを迎えて子猫

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本当に怖くない猫の話 part.10

本当に怖くない猫の話 part.10

何でも屋は、何でも仕事を引き受けるわけではない。これまでそれについて説明をする機会はなかったが、今後は新規の依頼人に対してはまずそのことを言わなければならないと何でも屋は思った。

「ダイクロイックアイの猫を探しているんです。オッドアイの猫でも引き取ります」

年齢は何でも屋と同じか少し上くらいだろうか。薄くなった髪を綺麗に整え、身なりもよかった。待ち合わせのハンバーガーチェーン店が似合わないくら

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【閑話休題】猫は猫様に

【閑話休題】猫は猫様に

こんにちは。猫様の夜が長く、お相手する私も寝付かれなくなってきました。昨夜は薬がよく効いて眠ってしまったので、猫は母に代わりに構ってもらおうとどすッと腹に乗って怒られてしまったようです。涼しい夜は猫の格好の遊び時間です。

子どもの頃、夏目漱石の「吾輩は猫である」を真似て、擬人化した小話を書こうという授業がありました。何を題材にしたのか、多分時計だった気がしますがよく覚えていません。

今更ですが

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