誰もが誰にでもなり得る。だからこわい。(『マチネの終わりに』平野啓一郎)
読後感をもうひとつ。
誰もが誰にでもなり得る。だからこわい。主役のふたりとその周辺、登場人物の誰もに、誰もがなり得る。早苗は「脇役」を買って出ているようで、実のところ小説の「主人公」洋子あっての主人公である。それぞれの関係には、傷、というほどはっきりと残酷な様相を呈してはいないものの、まるで砂の小山のような蟠り(わだかまり)が存在している。決して消し去ることが出来ない蟠り。蟠りの小山がある時、引き返すか、見ないふりをするか、砂山を蹴散らすか、風化するのを待つのか…。小山を微