『マチネの終わりに』平野啓一郎 (毎日新聞出版)

『マチネの終わりに』平野啓一郎 (毎日新聞出版)

『未来は常に過去を変えている』ーー「変えられる(変わってしまう)前」と「変えられた(変わってしまった)後」の過去。

描かれている情景は、映画を観ているようだった。どこにもあるような出来事、しかし、どこにでもだれにでもあるとは誰も言えない出来事がここにある。『未来は常に過去を変えている』ということば、その概念が、導入から最後まで散りばめられている。だから、未来によって「過去は変えられる(変わってしまう)」ということについて考えざるを得ない。過去は、「変えられる前」と「変えられた後」、このふたつの相反するしかし補完的な、陰陽両面があってこそ「過去」になるのだと思い及ぶ。登場人物の心象や情景は、やりきれなくなるほど深く描写されている。個人的にこの点が好きである。なぜなら、惚ける、知らないフリ、そういう、心の問題の解決方法を採用するのは私の主義ではないからだ。

チョーカー、プリンセス、マチネ、オペラ…これらは、ジュエリー業界でのパールネックレスの長さごとの名称である。順に、38-42cm、45-50cm、60cm、80cm以上…である。ジュエリー業界に居た頃から、マチネ60cmのパールネックレスは私には一番不得意だったことを思い出す。

タイトル「マチネの終わりに」の意味は最後に表出する。

追記:

未来は常に過去を変えている

時間は未来から流れている。だから未来に出会うたびに過去は変わっている(変わってしまう)。出会う未来には、「知りたいことを知ることが出来る」のと同時に「知りたくないことをも知ってしまう」ということも含まれているようだ。そうした時に出来ること。それは「態度を決める」ということなのだろう。

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