あなたの匂いが好きでした
シャンプーを変えた。
以前旅行先のアメニティで割としっかりとしたボトルのものをもらい、それが家に余っていたからなんとなく使ってみた。
そこそこのブランドのものだったこともあって洗いあがりがサラサラしていて、しばらくそれを使おうと思った。
使い始めて少し経った頃、シャンプーを変えてから初めて恋人に会った。
もともとそのアメニティをもらったのは、恋人と行った海外旅行先のホテルだった。
そんなに気が付かないだろうと思っていたけれど、会ってすぐに違いに気が付いてくれた。
「シャンプー変えた?ハワイの匂いがするね」
あぁそんなぴったりとわかるんだと、少し驚いた。
これまでも変化に気が付いてくれることは人より多いと思っていたけれど、そこまで場所と香りが結び付く人だと思っていなかったから、単に拍子抜けして、それから少し、嬉しかった。
それから何週間かが経過して、これまで使っていたシャンプーに戻した。
単になくなったからという理由で、あとは以前から使っているシャンプーの方がほんのりと甘い香りがして自分好みだったから、深く考えもせず元通りのものを使い始めた。
それからまた少し経って、またシャンプーを戻してから初めてのデートが来て、今度もまた「シャンプー変えた?」と聞かれた。
戻した旨を伝えたら、この匂いが好きだと言われた。
たまに香水をつけたりつけなかったり、ハンドクリームをつけたりつけなかったりしていて、自分に染み付く匂いに自分で気が付くことはあまりないけれど、結構確立しているらしい。
私がわからない私の匂いが、どうやらいい匂いになれているようなのはシャンプーのおかげだろうか。
はっきりしたことはわからなくても、あなたの好きな匂いの私が過去のものにならないように、少しずつ香りを重ね合わせる。
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