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【東大生の家庭は裕福】の外側 ~中学受験から続く"安定受験ライン"の高い壁~

0. 結論(2020/11/07 追記)

まず、下記がこの記事の要約であり、結論です。長いですが、東大生の親の平均世帯年収が約1000万円を、ただ平均年収と比べるのではなく色々な視点から見てみようというだけです。例えば、実は東京23区では「妻が30代の子育て世代」において世帯年収1000万円以上の世帯が23.7%を占めるのはご存知でしょうか。そのほとんどは中学受験をしても東大クラスの学力に達しません。「東京23区の世帯年収1000万円の家庭に生まれれば東大に行ける」というのは幻想で、その富裕層でも東大クラスの学力を得られる生徒は経済力が相関しない一握りです。

世帯年収が1000万円以上ある世帯の割合は日本全体の約12.2%である。したがって、東大生の親の平均世帯年収が約1000万円という数字はセンセーショナルであり、平均年収の420万円と比べても異常に上層に偏っている。これが問題であることは間違いない。「東大生の家庭が平均的に裕福である」は事実と言える。
しかし比較対象を変えてみると、大学生の子を持つ世帯の平均世帯年収は800万円を超える水準である。さらに東京23区では「妻が30代の子育て世代」において、世帯年収1000万円以上の世帯が23.7%を占めている。
東京都では中学生の約4人に1人は私立中学校に通っており、私立小学校や私立中学校を受験させる世帯の平均年収は1000万円超えクラスと裕福である。しかし、例えば東大に多数合格する超進学校である開成や筑駒の平均収入をみると、超トップ学力の私立中学であっても世帯収入は私立中学全体の平均と著しい差がない名門私立中高の親が裕福に見えるのは中学受験層のボリュームゾーンが裕福であることの反映にすぎず、実はその層の中で経済力では縮まらない巨大な学力差が存在する可能性がある。
一方で、私立小学校や私立中学校に通えたからといってほとんどの生徒の学力は将来的に東大レベルに達するわけではない。前述のように東京23区で23.7%を占める1000万円クラス世帯も、そのほとんどが中学受験をしたとしても東大レベルの学力に届かない。中学受験塾や大学受験塾であっても下位クラスは存在し、いくら課金しても学力が目標に遠く及ばない生徒も少なくない
つまり以上から、経済的に恵まれた層の内側で見れば、裕福さだけでは片付けられない個の要因の存在(遺伝子、生育環境、意欲、性格など)が示唆される。ここでいう「経済的に恵まれた層」の指標がストレスフリーに子どもに教育リソースを与えられる"安定受験ライン"とも呼べる世帯年収であり、学力格差自体よりもそのハードルが高いことがこの経済格差問題の本質である。「東京23区の世帯年収1000万円の家庭に生まれれば東大に行ける」というのは幻想で、そういった東京23区の1/4程度は存在する富裕層の中でも東大クラスの学力を得られる生徒は一握りである。さらには、そのレンジでは経済力に相関しない高い学力が必要でしょう。

この記事は「学力格差に経済格差が関係ない」だとか、「東大生は経済的に恵まれていない(努力すれば誰でも入れる)」ということを主張するものではありません。「東大生は経済的に恵まれているが、経済的に恵まれた人たちの中では一握りの存在である」「"安定受験ライン"を超えてからは、経済以外の要因が大きい(=東大生はただ裕福なだけでは到達できない学力を有する)」というのが現状の私見です。

「経済的に恵まれている」を、「情報アクセスが容易で、希望すれば子どもの中学受験も可能で、塾に通わせられ、ちょっと気になった参考書は気軽に購入できる世帯年収」と考えると、色々なデータからおおよそ

"安定受験ライン" = 世帯年収1000万円

であり、これがストレスフリーに子どもに教育リソースを与えられつつも、これ以上は経済力で学力が伸びなくなってくるラインの目安です。

この"安定受験ライン"のハードルが一般世帯にとって非常に高いことが問題の本質と考えています。もっといえば、東京23区が偏って強い。

1. 私のスタンス

前提として、私は予備校でも働いたりしましたが「世帯年収や非首都圏出身が進学のハンデになる」状態は実際にあり、それは是正されるべきだと思っている立場です。

四年制大学に行く人が多くない、ロクな参考書がない、高校の先生が大学入試を解けない、国立大学の学費も厳しい……。そういう環境や生徒は存在します。そういう人が大学で学問をしたいにも関わらず、難関大学を受験するという選択肢のハードルが高い……この状況は良いものとは思えません。

ですが、単純に東大生を指して「経済的に恵まれているだけ」「課金でしょ」と揶揄するのは大いに疑問です。もちろん平均的には経済的に恵まれています(し、多くの東大生は近年それに自覚的)ではある一方で、決して恵まれている"だけ"ではないように見えます。それについて、色々な数字を見ながら私の周りの狭い環境と照らし合わせてみます。

今回は、地理的要因や生育環境は扱いません。なので「東京に生まれるだけで恵まれている!」、「親が勉強に協力的なのは恵まれている!」といった指摘はお控えください。また、東大進学を強く推奨する意図もありません。東大は大学の中でも学生の世帯収入データを公開しており、必要学力的にも最高峰なので話題にのぼりやすい。「いい大学は他にもある!」、「真のブルジョアは海外!」といった指摘も、事実かもしれませんが今回はお控えください。

2. 「東大生は恵まれている」は事実

最近のTwitterをはじめとするインターネットや様々な媒体での潮流に、「(平均的に)東大生は恵まれている」というものがあります。ちょっとググれば無限に出てきますし、別にどれも嘘ではありません。というか、事実だからこそ問題がややこしい。

東京大学の公表している「学生生活実態調査報告書」をご覧ください。「東大生の親は世帯年収950万円以上が54.8%」といった記事は事実です。一般同世代と比べ上層に偏ってはいる。さらに、年度にもよりますが平均値と中央値も約1000万円程度だそうです。これは、平均年収が約420万円前後ということを考えれば極めて不条理な数字です、

ちなみに厚生労働省が実施している「国民生活基礎調査」(平成30年)によると、世帯年収が1000万円以上ある世帯の割合は12.2%です。

もちろん東大生にも苦学生はいますし、最近では「恵まれてるだけ」といった風当たりもありすぎて「もう会う人会う人に"恵まれた環境に感謝しています"を言わないといけない」と言う人まで出てきています。

なお後述しますが、「東大に行くには幼少期からの塾通いが求められるので裕福さが必要」を全否定できない現状は悲しいですが、幼少期から塾通いしても東大に行けるのはごく一部だけです。

3. 大学生の子を持つ家庭の世帯年収

ここで、「東大生の世帯年収」を別のものと比べてみましょう。先ほどは同世代との比較や平均収入との比較でしたが、他になにか面白い比較対象はあるでしょうか。

「大学生の子を持つ家庭の世帯年収」はどうでしょうか。大学の学力レベルはピンキリですよね。

「大学生の子を持つ家庭の世帯年収」は約830万円です。年度にもよりますが、820-850万円程度のようですね。なにやら一気に上がってきました。「学生生活調査」です。

ここで、「子どもを大学に通わせられるのは恵まれているだけだ」というツッコミはしないでください。それは日本経済の問題ではありますが、本記事は東大生の恵まれ度合いについて考察している記事なので。

4. 東京都内の世帯年収

そもそも、東京都内の世帯年収はどうなんでしょうか。中学受験する人が多いのも、東京大学への進学者が多いのも東京都です。

なんと、東京23区内では「妻が30代の子育て世代」において、世帯年収1000万円以上の世帯が23.7%というではありませんか。

この数字が、東京都の共働き夫婦が「子どもがSAPIXに通ってるけど、全然クラス上がらなくて……」と嘆いている現象をどれほど示唆しているかはわかりませんが、少なくとも世帯の23.7%も東大には合格しません

5. 私立小や私立中の親の平均年収

中学入試はどうでしょうか。東大生には、中学受験を経験した私立中高一貫校出身の学生も多くいます。実際、東京大学合格者の上位も東京大学合格率の上位も、私立中高一貫校が多数ランクインしています。

「東大合格者数1位の開成中学の親の平均年収が1200万円」と聞いたら、どう思うでしょうか。「やっぱり経済格差は学力格差で、中学の時点から始まっているんだ!」と思うことでしょう。それは事実ですが、やはり中学受験をさせる親の平均年収とも比べておくべきでしょう

微妙なソースで申し訳ありません。上の2個目は古い2008年の週刊現代の記事で、調査人数も少ないですが参考としては実情に合うと思います。

東京都では、中学生の約4人に1人は私立中学校に通っているというデータがあります。これは前述した「妻が30代の子育て世代」において、世帯年収1000万円以上の世帯が23.7%という数字に近いです。実際、都内の共働き夫婦は中学受験にかなり積極的です。

実は、子どもを私立中学受験させる親の世帯収入は1200万円以上が半数近いわけです。そうすると、開成の平均世帯年収が1200万円というのは異常な数値ではありません(むしろ学力に比して平均的)。開成よりも東大合格率が高い筑波大学附属駒場にも同じことが言えます(こちらに関しては公立です)。なにより、1000万円を超えてくる辺りでは私立中学の偏差値と親の年収の相関がそこまで強度ではなさそうです。

つまり名門私立中高の親が裕福に見えるのは中学受験層のボリュームゾーンが裕福であることの反映にすぎず、実はその層の中で経済力では縮まらない巨大な学力差がついているということです。

私立小学校受験に関しては、中学受験よりも裕福な層が行います。これは個人的にも実感に合います。中学受験塾でも多くの生徒は公立ですし、いわゆる関東の「御三家」といわれる超進学校でも私立小学校出身の人は一部です。中学受験させる余裕があっても、(必要性がないとの判断もあるでしょうが)小学校受験は多くはない。

この辺で、疑問に思えてきます。なにがでしょうか。私立小学校のほとんどの生徒、および私立中学校のほとんどの生徒は将来的に東大に合格しないという事実があるからです。もちろん全員が東大を目指しているわけではありません。インターナショナルな進路とか、そもそも東大を希望しないといった多数の選択肢があるでしょう。ただ、東大は金持ちバトルの勝者が行く場所ではないのです。

脱線ですが、都内私立中への進学率は港区が42.2%、文京区は41.8%なんですね。都内平均は18%らしいです。

6. 進学塾の下位クラス

「塾に行く経済的な余裕がないほうが受験に不利」という状況は健全ではありません。ですが、見落とされがちなのは「必ずしもお金をかけて塾に行けば学力が上がるわけではない」ということです。

全く受験業界が身近でない場合、大手中学受験塾や大学受験予備校はまさに「課金で学力を得るための存在」でしょう。

さらにニッチな進学塾……それも大手予備校や地元の個人塾ではなく、トップ層が多数行くような塾。つまり中学受験では「SAPIX」、大学受験では「鉄緑会」などは、まさに暴力的なまでの「格差を助長する存在」そのものに見えることかと思います。しかし、そんな塾であっても学力が伸びない生徒も多く、目標に遠く及ばない子が出てくる。遺伝子とか意欲とか周囲の人間関係とか色々な要素があるでしょうが、少なくともお金をかけただけでは学力は伸びないわけです。つまり、わざと過激で失礼な言葉を使えば「勉強ができないボンボン」も世間で思われているより多いわけです。ただ、勉強だけが全てではもちろんありません。人間性や幸福度とは分けて考えるべきでしょう。加えて、この層では「できない」のレベルが自覚的にも他覚的にも一般よりは高い水準にあります。

「塾に通うお金がある」という前提の条件付きでみれば、入塾後の学力は経済力だけでは決まりません

余談ですが、SAPIXにはついていけない子をターゲットにした個別指導塾が別にあるくらいです。上位クラスの子は利用しません。この現象だけ見れば、変な話、塾に通っても成績が伸びないお子様をお持ちの下位クラスの家庭でもプラスアルファのお金をかける余裕はあるわけです。上のクラスに私立小の子が多いわけでもありませんし、下位クラスにも私立小の子はいます。子どもを難関中学に入れたい思いで塾に通わせられる余裕のある家庭がたくさんあっても、御三家クラスに届くのは一握りです。

逆に超トップ層はというと、科学オリンピックなどがあります。そこまで来ると平和なもので、普通は数学オリンピックのメダリストに「恵まれているだけ」とは言いません。裕福さや対策だけではどうにもならないことをよく知っているからです。小学生も同様。極端な話、超上位であっても算数オリンピックなどで差がついてきます。楽しく中学受験塾に通え、一番上のクラスで、御三家はほぼ間違い無しの学力集団であっても、算数オリンピックで予選を通過してメダルを取ることは難しいのです。何が言いたいかというと、努力なり才能なり遺伝なり文化資本なり、裕福さ以外の要因は存在するということです(当然ですが)。

スポーツや音楽に似てて、それらもめちゃくちゃ時間とお金と本人の努力が重要です。そして、トップ層はいずれの要因もほぼプラトーに達している。だから最終的には個の要因が鍵になってきて、それが才能とか呼ばれます。

7. ここまでのまとめ

ここまで長々と書いてきましたが、頑張って要約すると以下です。

世帯年収が1000万円以上ある世帯の割合は日本全体の約12.2%である。したがって、東大生の親の平均世帯年収が約1000万円という数字はセンセーショナルであり、平均年収の420万円と比べても異常に上層に偏っている。これが問題であることは間違いない。「東大生の家庭が平均的に裕福である」は事実と言える。
しかし比較対象を変えてみると、大学生の子を持つ世帯の平均世帯年収は800万円を超える水準である。さらに東京23区では「妻が30代の子育て世代」において、世帯年収1000万円以上の世帯が23.7%を占めている。
東京都では中学生の約4人に1人は私立中学校に通っており、私立小学校や私立中学校を受験させる世帯の平均年収は1000万円超えクラスと裕福である。しかし、例えば東大に多数合格する超進学校である開成や筑駒の平均収入をみると、超トップ学力の私立中学であっても世帯収入は私立中学全体の平均と著しい差がない
一方で、私立小学校や私立中学校に通えたからといってほとんどの生徒の学力は将来的に東大レベルに達するわけではない。前述のように東京23区で23.7%を占める1000万円クラス世帯も、そのほとんどが中学受験をしたとしても東大レベルの学力に届かない。中学受験塾や大学受験塾であっても下位クラスは存在し、いくら課金しても学力が目標に遠く及ばない生徒も少なくない
つまり以上から、経済的に恵まれた層の内側で見れば、裕福さだけでは片付けられない個の要因の存在(遺伝子、生育環境、意欲、性格など)が示唆される。ここでいう「経済的に恵まれた層」の指標がストレスフリーに子どもに教育リソースを与えられる"安定受験ライン"とも呼べる世帯年収であり、学力格差自体よりもそのハードルが高いことがこの経済格差問題の本質である。

要するに、東大生に対して「恵まれている'だけ'」というのはおかしいということです。同じくらい経済的に恵まれていても東大に入れない人の方が多い。東大生は、裕福なだけでは到達できない学力を有するということです。個の要因については、遺伝や性格、意欲や興味、努力量、文化資本など色々と考えられます。

8. "安定受験ライン"

さて。では、ここでいう「経済的に恵まれている」とは何でしょうか。それは、ストレスなく受験できるということ。それこそが、

"安定受験ライン" = 世帯年収1000万円

というおおよそのラインです。これがストレスフリーに子どもに教育リソースを与えられつつも、これ以上は経済力で学力が伸びなくなってくるラインの目安ではないでしょうか。

この"安定受験ライン"のハードルが一般世帯にとって非常に高いことが問題の本質です。もっというと、東京23区共働き世帯との格差でしょうか。

私が思う"安定受験ライン"の正しい読み取り方。それは、「情報アクセスが容易で、希望すれば子どもの中学受験も可能で、塾に通わせられ、ちょっと気になった参考書は気軽に購入できる世帯年収」を意味します。

私立小学校や私立中学校の受験をしたり大手塾に通わせたりする層にはこの"安定受験ライン"を超えた層も多いわけですが、将来的に東大レベルの学力に達するのは一握りです。東京都では、中学生の約4人に1人は私立中学校に通っているのですから。

このラインが、ちょうど「これ以上では東大レベルの学力に達せない理由として収入以外の要因がある可能性が高いライン」の一つであり、「これ未満では東大レベルの学力に達せない理由として経済格差も挙がる可能性があるライン」の一つじゃないかと思います。

「本人や家族の資質は備わっているのに、学問したい学生が経済的要因でハンデを負う状況」は適切ではありませんね。

逆に、これ以上は学力との相関が強くないと考えています(もちろん、あるのかもしれませんが)。年収400万円と年収800万円の差は大きいのが現状でしょうが、年収1500万円と年収3000万円の差に同様の意味は見出し難いのではないでしょうか。

最後になりますが繰り返すと、

「東大生は経済的に恵まれているが、経済的に恵まれた人たちの中では一握りの存在である」

「"安定受験ライン"を超えてからは、経済以外の要因が大きい(=東大生はただ裕福なだけでは到達できない学力を有する)」

「東大生が経済的に恵まれていることよりも、"安定受験ライン"のハードルが一般世帯にとって非常に高いことが問題の本質」

というのが、現状の私の考えです。

9. おわりに

上記が私の考えですが、間違っているかもしれません。個々の情報元がどうこうというより、全体を通した考え方や論理展開が。自分でも飛躍を感じる箇所はあります。見るべきなのに見逃している統計も数多くあるでしょう。高校にしろ予備校にしろ大学にしろ、親の収入をはじめとしてきちんとしたデータがとられていないのが現状です。例えば、塾の上位クラスと下位クラスで世帯収入に有意差があるのか、など。親の収入と子の学力も、もしかしたら単純に遺伝している知能の代理マーカーを見ているだけなのかもしれません。また、私は大きく間違っていて、経済的要因がトップ層でも学力と相関する要素になっていたりするのかもしれませんし。ただ、やはり東大生の親の世帯年収をただ平均年収と比べただけの考察はお粗末でしょう。

自分で書いておいてアレですが、"安定受験ライン"として挙げた世帯年収1000万円って相当に恵まれていますよ。実際、東大生でも自分が施されてきたのと同じリソースを子どもに与えるのは楽ではないと思います。

こういうセンシティブな問題を、ただ「東大生は恵まれている」とか「学力格差は経済格差」とかで終わらせるのではなく、少しでも視点となるデータを増やして客観視できたらなと思います。

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