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ゼロから始める伊賀の米づくり5:田に水を入れる=地域の目に触れるということ

年が明けて2月以降、私は2週間に1度くらいのペースでトラクターに乗り、田を耕してきた。トラクターに乗って土を耕すことは、冬の間に生えてしまった雑草を土に埋め込んで肥料にしたり、地表と地中の土を鋤いて入れ替えることで、微生物の活動の活性化を促し、良い土壌づくりに繋がる。(いわゆる、『天地返し』の原理と同じである)

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そして、四月末、いよいよ田に水を引く『水取り』の時期がやってくるわけだが、水を引くとは、自分の家の田にとってどういう意味を持つのだろうか?

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用水路は、当たり前ではあるが、上流と下流が繋がっている。その、繋がったある区間を流れる水を圃場に引き込むことで、ようやく田植えをすることができる。

地区の住民は例年、『水取り』を行う前に3キロほど先の上流の河川掃除や除草作業を行い、自分たちの地区に流れてくる水を通す水路の管理を行っている。そして、家の目の前を流れる水路の管理には、やはり下流の地区の方々がやってきて、除草作業と管理を行っている。

そこには、同じ水を使う上流と下流の地区の人々の信頼関係が不可欠になるわけだ。

目の前の水路に流れてしまうゴミは、下流へ流れ去っていく。もしかしたら、途中の水路をゴミで詰まらせ、水が届かない…ということも起こってしまうかもしれない。また、上流の地域が水を圃場に引き込みすぎることで、下流の地区の人々の圃場に水が行かない…ということも、起こるかもしれない。

そのため、地区同士で『水取り』を行う日も決まっているわけだ。

今まで何気なく眺めていた景色が、上流と下流を繋ぐ道のように見えてくるから不思議だ。

自分の家の田に水を引くためには、上流と下流のどちらの立場も大事にしなければ、成立しない。また、地域の方々の協力を以て水路をはじめとする環境保全を行わなければ、やはり成立しない。

自分の責任領域と地域の責任領域が、緩やかに重なりながら稲作の営みは続けられてきたのだ。土を耕す仕事が、トラクターに変わる前。各戸の飼い牛が担っていた時代から、ずっと。(祖母の話によれば、私の実家も、40年ほど前までは牛小屋があり、牛が土を耕していたそうだ)

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『水取り』の直前、もう1度トラクターを駆って田んぼに繰り出し、土を耕してようやく水を引き始める。

いよいよ田植えが迫ってくるが、次々やることはやってくる。

次は、田植え機のメンテナンスだ。いざ、田植えの当日に「動かない」では、お話にならない。事前の準備が、当日の成否を分ける

これは、京都を拠点に生業として行っている『場づくり』と変わらない。

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今回も例によって、父の先輩であるシオちゃん(仮)が駆けつけてくれ、エンジンをかけるところまで持っていく事ができた。

田植え機の動作の調子が悪くなる事があるとすれば、おおよそ2種類の原因である。

1、古い燃料がキャブレターに詰まり、十分に燃料を送れなくなってしまう。

2、バッテリーが上がってしまい、エンジンをかけるセルモーターが回らない。

残念なことに今回も調子が悪かったのだが、2種類とも該当してしまった。

2に関しては、シオちゃん(仮)のヘルプにより、バッテリー充電を終えることでクリア。

1に関しては、これまた父の仕事仲間であったHさんの助けを得て、古い燃料の詰まった経路の洗浄を行ってもらうことでクリアする事ができた。

お二人には、感謝してもしきれない。

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父の友人2人以外にも、家の田んぼを心配してくれる方は多い。

手間隙、相続、地域との付き合いや信頼を、父亡き後どうしていくつもりなのか?各家ごとの田植えのやり方の違い等、様々な意見やアイデアも飛び交う。

何より、やり抜く姿勢を示し続ける。それが、自分の答えである。この地域においては、言葉ではなく行動と結果が言葉よりも雄弁にメッセージを語るからだ。

後から母たちから聞いた話だが、2人はこんな風に話していたそうだ。

『この地域では80歳を超えても田んぼやってる人がいるのに、この家は爺さん世代、50〜60代世代の2世代分が欠けている。もし、自分が息子たちを残して行ってしまったら…そんな事、考えたくもない!…よく、やってるわ。』

『全く、あいつの親父は…こんなよちよち歩きを残してどこに行ってしまったんや!親父に電話するぞ!?』

・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・

……そうか!

この地元では50〜60代でも若手!!

自分が田んぼを継いでやり始めれば、地域の最年少記録更新になるわけだ。

だからどう、というわけでもないが、何か自分が今やっている事が、そんな意味合いを持つことに不思議さを感じた。

この地域では、自分以外にメインを張って田んぼを行っている家は、無い。大抵、50〜60代の世代以上が各家のメインを張っており、技術承継や、そもそもの田んぼの承継も難しくなってきている。

ふと、地域の抱えている現状を垣間見たような気がした。

さぁ、田植え機のメンテナンスも終わり、残すところいよいよ、最後の耕起と代掻きである。そうすれば、田植えだ。

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