【読書記録】コミュニティ・オブ・プラクティス-ナレッジ社会の新たな知識形態の実践-
2020年3月から4月にかけて、これまでに使ったことがない新しいオンライン・ツールを使ってみよう!オンライン環境で集まろう!イベントを企画・開催してみよう!
そう言った動きが、私の周りでも活発に起こりました。
つい最近、20年の5月連休明けでも、京都では大学のサークル・クラブのオリエンテーションを開催した事例や、まちづくり事業におけるオンラインでの相談会実施等の話も聞きます。そして、この一連のオンライン化の流れは今後も全国で緩やかに継続していくのかもしれません。
社会に大きく変化が生まれつつあるとき…それが、経済的な原因であれ、技術的な原因であれ、天災・人災が原因であれ、新しい環境においては、それに対して対応すべく、有志による新規プロジェクトの結成やグループの形成が図られます。
また、今回の新型コロナウイルスのように、わかりやすい顕著な変化や必要性がなかったとしても、人は多かれ少なかれ、既存の枠組みの中での動きと、新しい環境との間で絶えず、情報収集や人との交流を通じて目の前の課題に取り組んでいきます。
ただ、活動の立ち上がり期やグループの結成時の時には盛り上がり、活発に参加者間での交流があった取り組みも、役割を終えたからと言う理由ではなく、意図せず失速してしまったり、休止や解散に陥ってしまうことがあります。
どうしてでしょうか?
今回は、そういった有志の活動、プロジェクト、グループといったものを生命体として捉え、それらを有機的に進化していくものとして立ち上げ、運営していくというグループの一形態…コミュニティ・オブ・プラクティス(Community of Practice)についてまとめてみました。
コミュニティ・オブ・プラクティスとは?
コミュニティ・オブ・プラクティス(実践コミュニティ:Communities of Practice)とは…
組織におけるあるテーマ…既存の組織構造や仕事・活動の進め方では十分に取り扱いきれないテーマに対し、熱意や興味関心、課題意識を共有して集った人々が、その分野における知識・技能を継続的な相互の交流の中で深めあい、新しいアイデアや解決策、成果を生み出し続けていく集団を指す概念です。
コミュニティ・オブ・プラクティス(以下、実践コミュニティ)のコンセプトを初めて発表した1991年当時、著者であるエティエンヌ・ウェンガーはゼロックスPARCから生まれた学習研究所(IRL:Institute for Reserch of Learning)の研究員でした。
研究員として企業組織を観察する中で、「どんな企業組織においても、人々が学習する単位がある(ex.医療機関における、看護師同士の昼食時の意見交換)」ことを発見し、「共通の専門スキルや、ある事業へのコミットメント(熱意や献身)によって非公式に結びついた人々の集まり」を実践コミュニティと名付けたことが始まりです。
また、1990年代半ば頃より、企業組織におけるナレッジ・マネジメント(Knowledge Management)の概念に注目が集まりつつあった背景も反映して、本書は企業内における経営戦略としての実践コミュニティの有効性および、活用・設計・運営に多くの紙面を割いています。
本書を読み解くための4つの視点
一方で、著者自身も言及しており、また、私自身も感じたことですが、この実践コミュニティというコンセプトおよび組織設計・運営論は、企業内組織だけではなく、市民活動、組織間コンソーシアム、産官学民連携といったマルチステークホルダー(多様な利害関係者)の集う場づくりの設計・運営に関しても応用可能な可能性があることを示唆しています。
そのため、本書は以下のような4つの側面から読み解くことができるかもしれません。
●企業において、活発な創造性を発揮するための機構としてのコミュニティ
●非営利型の有志の集いを継続的で活気のあるコミュニティにしていく勘所
●人の作る集団類型の一形態としての、実践コミュニティ
●生命体としてのコミュニティのライフサイクルと発展課題及び、そこに集う人々の取り組み、態度の変容
では、この実践コミュニティがどのような特徴を持っているのか、以下にまとめていきたいと思います。
実践コミュニティの構成要素
本書における実践コミュニティ(Community of Practice)とは、領域(Domain)、コミュニティ(Community)、実践(Practice)の3つの要素によって構成されている集団のことを指します。
規模の大小、オンラインかリアルか、多国籍・多文化かそうでないか、企業内における公認のグループか否か、経営戦略に影響力を持つほど強力かそうではないか等の差異はあれど、実践コミュニティであれば以下3つの要素を持っています。
領域(Domain)
領域とは、実践コミュニティとして取り組むテーマの範囲です。本書によれば、コミュニティの存在理由(レゾンデートル)とも表現されています。領域は、実践コミュニティのメンバーの間に共通の基盤を作り、一体感を生み出します。
そのテーマは、極めて日常的なノウハウ(ex.健康的な食生活)から高度に専門化された職業上の専門知識(ex.航空機の翼の設計)まで多種多様です。領域をメンバーと共有することで、参加するメンバーにも領域内の知識や情報、生み出される実践(Practice)に参加している自覚や責任感を呼び起こし、より責任を持って実践を生み出すことを促します。
また、社会的な状況、経済的な状況、技術的な変化、メンバー構成、組織としての経営判断や優先順位の変更等によって、領域は徐々に変容・発展していきます。
社会のニーズ、組織の目標に合致しない領域を持つコミュニティの場合、どれだけ参加者に情熱や野心があったとしても、主流から取り残され、コミュニティが成長、活性化するとは限りません。
コミュニティ(Community)
コミュニティとは、領域における専門性を持っていたり、あるいは領域強い興味関心を持った上で、自発的・主体的な参加する人々によって構成される有志の共同体です。企業内においては、先の医療組織における看護師の昼食時の集いのように非公式に形作られるネットワークであることが多く、領域内の学び合いの社会的な構造を生み出します。
実践コミュニティ内の継続的な相互交流・情報交換によって、メンバー一人ひとりの経験、現場での体験が生きた知恵として実践コミュニティに還元されていき、それらが体系づけられていくことで実践(Practice)として積み重なっていきます。
また、領域を共有することで集まっている一人ひとりも、実践コミュニティの外では別の顔を持っています。実践コミュニティの学びに参加し、実践コミュニティで生まれた智慧(Practice)を自身の現場に持ち帰り、さらに実践を積み重ねていくことで、テーマによっては能力の研鑽、独自のアイデンティティを構築していくことも可能になります。
このような人々の繋がりによって形成されるコミュニティには、メンバー間の信頼感や、立場に関係なく率直に話し合いに参加できる安心感、互いに貢献しようとする互恵主義の存在が重要なファクターとなります。
実践(Practice)
実践とは、コミュニティが生み出し、共有し、維持する、特定の知識(暗黙知・形式知双方を含む)のことを指します。形式としては、一連の枠組み、アイデア、ツール、情報、様式、専門用語、物語、文書等が考えられます。
実践コミュニティ発足後しばらくすると、コミュニティメンバーとして必須となる基礎知識の存在が明らかになり、当然のこととして互いにその習得を求めることが出てきます。
また、人が何か目的を持って行う活動には、その人にしか知り得ない経験値や、独自の工夫である暗黙知が紐づいています。コミュニティで共有されるそれらが体系づけられ、新たな智恵を生み出した場合、それらもまた実践となります。
これら実践は、最先端の現場にいる人々による継続的な情報交換や活発な議論、プロジェクトの推進がなければ更新されることがなくなり、やがてその価値が失われていくことも考えられるという、なまものの性質を持っています。
実践コミュニティとその他のグループの違い
以上までで、実践コミュニティ(Community of Practice)の備えている要素を見てきましたが、では、それらを備えている実践コミュニティは、その他のグループとどのような点で異なるのでしょうか?
その構造や目的、参加動機やメンバー等の特徴から、以下に紹介していきたいと思います。
実践コミュニティ(Community of Practice)
●目的:知識の創造、拡大、交換および個人の能力の開発
●メンバー:専門知識やテーマへの情熱によって自発的に参加する人々
●境界:曖昧
●何をもとに結びついているか:情熱、集団や専門知識への帰属意識
●活動期間:有機的に進化して終わる。ただし、テーマに有用性があり、
共同学習に価値と関心を覚えるメンバーがいる限り存続する
公式のビジネスユニット(Formal Departments)
●目的:製品やサービスの提供
●メンバー:マネジャー以下の部下全員
●境界:明確
●何をもとに結びついているか:職務要件および共通の目標
●活動期間:恒久的なものとして考えられている。ただし、次回の再編時
までしか続かない。
作業チーム(Operational Team)
●目的:継続的な業務やプロセスを担当
●メンバー:マネジャーによって配属された人
●境界:明確
●何をもとに結びついているか:業務に対する共同責任
●活動期間:継続的なものとして考えられている。業務が必要である限り、
存続する。
プロジェクトチーム(Project Team)
●目的:特定の職務(Task)を遂行
●メンバー:職務を遂行する上で直接的な役割を果たす人々
●境界:明確
●何をもとに結びついているか:プロジェクトの目標とマイルストーン
●活動期間:予め、終了時点が決められている。プロジェクト完了時。
関心で繋がるコミュニティ(Community of Interest)
●目的:情報を得るため
●メンバー:関心を持つ人なら誰でも
●境界:曖昧
●何をもとに結びついているか:情報へのアクセスおよび同じ目的意識
●活動期間:有機的に進化して終わる。
非公式なネットワーク(Informal Networks)
●目的:情報を受け取り伝達する、誰が誰なのかを知る
●メンバー:友人、仕事上の知り合い、友人の友人
●境界:定義できない
●何をもとに結びついているか:共通のニーズ、人間関係
●活動期間:正確にいつ始まり、いつ終わるというものではない。
人々が互いに連絡を取り合い、忘れない限り続く。
企業内実践コミュニティの価値
ここでは、企業内実践コミュニティの戦略的な価値について、著者がまとめた表をもとに図に示しています。
コミュニティに所属する個人の視点で見ると、コミュニティに参加することによって得られる知見をもとにアイデンティティの形成につながるという点が興味深いです。
コミュニティ設計のパターン・ランゲージ
ここからは具体的にコミュニティの立ち上げと運営に携わっていくための知見をまとめています。
実践コミュニティはこれまで見てきたように、人為的に活気のある状況を作り出すこともできなければ、詳細な構造やプロセスを特定してから実行に移すというアプローチも、適切とは思われません。
このような自発的で有機的なコミュニティですが、「優れた設計によって活気を誘引したり、場合によっては引き起こすことすらできる」と著者は言います。
この、一般的な組織運営とは異なる設計原則・あるいは設計について、著者は「パターン・ランゲージ」という都市設計の概念を参考に、有機的なコミュニティづくりの方法としてのパターン・ランゲージの活用を提案しています。
コミュニティ設計の七原則
この、七原則とは以下のものです。
1. 進化を前提とした設計を行う
2. 内部と外部それぞれの視点を取り入れる
3. 様々なレベルの参加を奨励する
4. 公と私それぞれのコミュニティ空間を作る
5. 価値に焦点を当てる
6. 親近感と刺激とを組み合わせる
7. コミュニティのリズムを生み出す
以下、それぞれ詳しくこの七原則について見ていきたいと思います。
1.進化を前提とした設計を行う
「生きた」コミュニティはそれ自体が一つの生命体のように絶えず自らの構成要素を省み、設計を改めています。そのため、立ち上がり当初等は過度に厳密な制度づくりや仕組みを導入するのではなく、軌道に乗るまでは「週一回の会合を設けるのみ」といったようなシンプルな方法を取られることもあるそうです。
また、コミュニティそのものの発展段階、環境、メンバーの結びつきの強さ、共有される知識の種類といった様々な要件をもとに、その都度どのような要素が必要かは、さながら生涯にわたる学習のように考えていく必要があります。
2. 内部と外部それぞれの視点を取り入れる
優れたコミュニティを設計する上で、コミュニティの本質を見抜くことができる部内者(Insider)の存在が不可欠となります。コミュニティの本質とは、領域内の核心にある問題、共有する価値のある知識、新興のアイデアの可能性、このコミュニティに影響力を持つ人といった様々な要素の複合ですが、それらを的確に見抜けるのは部内者です。
また、コミュニティの取り組みが対外的にどのような可能性、潜在能力を秘めているかについては、部外者(Outsider)の存在が不可欠です。客観的な視点という意味でももちろん、初めてコミュニティの運営を行う部内者の良きメンターとして、別のコミュニティでの経験もある部外者を取り入れることは、コミュニティ発展に有益なアイデアとなります。
3. 様々なレベルの参加を奨励する
著者は、優れたコミュニティにおいては以下の4種類の参加者がいると指摘しています。
イベントを企画し、メンバー一人ひとりと密なコミュニケーションをとることで結び付けていく「コーディネーター」
積極的にコミュニティに参加し、優れたアイデアや実践を生み出すことで指導的な役割となっている「コア・グループ」(全体の15%程度)
定期的にコミュニティに参加するが、コアグループほど規則正しく熱心に参加するわけではない「アクティブ・グループ」(全体の15〜20%程度)
傍観者に徹し、コア、アクティブ・グループの活動を見守りながら、自分たちなりに多くの学びを得ている「周辺メンバー」(全体の60〜70%程度)
これらのメンバーは、コミュニティとしての活動が続く中で有機的に行き来が起こります。コア・グループのメンバーであっても、コミュニティの領域が移り変わる中で中心部から外れていくこともあれば、徐々に学びを深める中で中心部へ向かう周辺メンバーも存在します。
大切なポイントとしては、そういった変化があることを前提に、周辺メンバーたちのための居場所として非公開グループづくりや、コミュニティとしてのイベント、少人数でプライベートに近い場を設定するなどして、傍観者をつなぎ止めておくことです。
4. 公と私それぞれのコミュニティ空間を作る
ここで強調されていることは、人間関係の豊さ・強さがコミュニティ内外での活動を活発にするというものです。また、そのための取り組みとしてコーディネーターの果たす役割にフォーカスが当たっています。一人ひとりとの丁寧なコミュニケーションによる繋がりや、公式・非公式な場での本音の意見等が活発に行き交っている状況は、コミュニティのコーディネーターによって引き出されていることも多いと著者は紹介しています。
5. 価値に焦点を当てる
この原則で注目されていることは、価値に関するコミュニケーションについてです。コミュニティにおける価値をメンバー自身が言葉で表現していくこと…設計した中で感じていた価値の源泉、発展途上のコミュニティでの価値の源泉は移り変わり行きます。そうなったとき、メンバーによって表現されている価値が、コミュニティの内外にその真価として把握されやすくなるためです。
6. 親近感と刺激とを組み合わせる
ただ、そういったコミュニティも成熟するにつれ、安定的な会合や遠隔会議、プロジェクトやイベント実施等の継続的なパターンに落ち着くことが多いです。
コミュニティが安心、安全な居場所として機能していくことは、緊張感が高く率直な意見を出すことも難しい段階からすれば有意義なものですが、硬直的なメンバー、思考、活動が続いていくと、やがてマンネリに陥り、実践コミュニティ(Community of Practice)というよりも上述した「関心で繋がるコミュニティ(Community of Interest)」や、「非公式なネットワーク(Informal Networks)」へ変容していくこともあります。
活気ある実践コミュニティにおいては、時に物議を醸すゲストを招いたイベントの実施や、別のコミュニティとの交流といった新しい枠組みの導入・実践といった形で刺激的な取り組みを行うことで、メンバーの関心を引き付けています。
7. コミュニティのリズムを生み出す
以上に見てきたように、活気あふれる実践コミュニティにもリズムがあり、鼓動があるということが、この原則のメッセージです。定期会合、イベント、SNS上での議論等の活動は、コミュニティの鼓動に合わせて活発になったり、下火になったりします。
鼓動が早過ぎれば息切れになり、参加者は圧倒されてしまいます。鼓動が遅過ぎればコミュニティには停滞感が漂います。
大切なことは、コミュニティの各段階に合わせたリズムを見つけていくことです。
コミュニティのライフサイクルと発展課題
最後、この章ではコミュニティのライフサイクルおよびその発展課題について述べ、今後、活気あるコミュニティを立ち上げていく場合に注意しておくべきポイントを押さえていきたいと思います。
潜在期(Potential)
潜在期は、コミュニティが芽生えつつある段階です。本書において、コミュニティの発展とは、既に存在している社会的ネットワークを発展させていくというプロセスを指しています。
この段階において重要とされるポイントは、「発見」と「想像(目的・領域・コミュニティの設計)」です。
このような問いに答えていくことが必要になってくる段階です。
結託期(Coalescing)
結託期は、コミュニティとしてまさに立ち上がり、互いの交流が始まる段階です。メンバー間の結びつきや信頼を築き、共通の関心や必要性を認識していくための活動が必要になります。
この段階において重要とされるポイントは、「コミュニティの孵化(Incubation)」と「迅速な価値提供」です。
知り合ったばかりの人間関係においては、互いにどんな人柄であるのか、どのようなアイデアを共有し合うことが有意義なのかもわからない状態です。
コミュニティとして立ち上がり、目的や方向性はなんとなく共有できているものの、相互に協力しあう関係としてはまだまだ未成熟な段階です。
そうなった時、何か困りごとやニーズが場に出た時、コーディネーターらコミュニティの立ち上げに関わったメンバーは、メンバー間の取次や紹介、イベント等の時間を共にできる場を設定することで、徐々にコミュニティ独自の価値やアイデンティティを見出していくことが、この結託期において重要になってきます。
成熟期(Maturing)
成熟期は、実践コミュニティが独自のアイデンティティを形成し、参加しているメンバーも相互に交流することで実践(Practice)が積み重なりつつある段階です。ある特定のテーマに対し、レポートや新しい枠組みが構築されたり、参加メンバー間でもそれらの知識が共有され、能力の開発・向上も始まっています。
一方で、新しいメンバーの参加も増えてくるため、最先端のテーマを追いかけたい一方で新メンバーのフォローアップも必要になるというジレンマも発生し始めます。
この段階におけるポイントは、「集中」と「拡大」です。
培われてきた実践(形式知・暗黙知含む)を体系化し、仕組み化、システム化すること。
改めて、コミュニティの目的を問い直し、優先すべきことを鑑み、必要があれば領域・境界を引き直す。
これら整理を行った上で、コミュニティとして注力すべきテーマに改めて取り組む。
こういったことが、成熟期において必要になってきます。
維持・向上期(Stewardship)
成熟期以降のコミュニティは、いかに活気を保つかが重要なポイントになってきます。この維持・向上期に至るまでに、既に独自のツールや方法、アプローチを開発を行う、このコミュニティ独自の取り組みで生まれた知識を体系化するといった経験をコミュニティは経てきており、「所有者意識(ownership)」がメンバーにも芽生えてきています。
いわば、コミュニティとして取り組んできたあるテーマ、領域、コミュニティでの人間関係、そしてそこで生まれた実践(Practice)への愛着・執着です。
コミュニティがこの維持・向上期以降も生命体として活動していく上では、この「所有者意識」と対極にある「開放性(Openess)」との緊張状態とうまく付き合っていかなければなりません。
新しい人々、アイデアの受け入れや、大局を見た上でコミュニティの領域やテーマといったものの見直し、といったことが必要となります。
方法としては、コア・グループへの新人のスカウト、新メンバー育成、また、ベンチマーキングを外の組織やコミュニティに向ける等、視座の転換が本書中でも強調されています。
変容期(Transformation)
維持・成熟期を経た変容期において、コミュニティには岐路に立つことになります。
衰弱する、社交クラブとなる、分裂・合併が起こる、制度化により公的な組織となる等です。
いずれの場合も、コミュニティは当初立ち上がったものとは別のものになり、一つの終わりを迎えることになります。
このコミュニティの死について筆者は、自然消滅と断固たる決意を持っての打ち切りの違いを述べています。
以上が、コミュニティが辿るライフサイクルと発展段階です。
また、これら発展のプロセスは一様に、一直線に進むものではありません。最後の段階までたどり着かないコミュニティもあれば、第二、第三段階で能力的ピークを迎えるコミュニティもあります。
それは、50歳で青春を謳歌している人、過酷な環境で早く大人にならざるを得なかった子ども、といったように、そのコミュニティ独自の発展を遂げるためである、と著者は説明しているためです。
まとめ終えてみての所感
最後の、コミュニティの死や「看取り」とも呼べるプロセスについては、何か重く響いてくるものがありました。
一つの生命としてコミュニティが生きてきた背景があること、コミュニティの終焉は、そこに参加してきた人々の貢献、誠意、情熱が一度幕を降ろす感情的な体験である、という事実をこうして真摯に描写している組織論は、他で見たことがなかったように思います。
また、本書は2002年出版の本であるにも関わらず、
・組織(正確にはコミュニティですが)を「生命体」として捉え、絶えず自らの構成要素を改めているものであるとしている
・組織としてのライフサイクル・発達(発展段階)に言及している
・組織が自然に発展していくためのフレームワーク(設計/パターン・ランゲージ)を設けている
等、2020年現在の組織においてまさに求められつつあるアイデアの宝庫のように感じられました。
あまりに多くのインスピレーションが溢れ、後述するさらなるラン級のための関連書籍も膨大な冊数になってしまったため、今回の読書録はあくまで1周目のものとして、関連書籍の探求を終えた後、再びこの本に戻ってきたいと感じました。
それにしても…前回のデヴィッド・ボーム『ダイアローグ』に引き続き、1万字を超える分量になってしまったのは、我ながら驚きです。
次は、どの本を選んでいきましょうか…。
さらなる探求のための関連書籍
知識創造企業
ナレッジマネジメントの概念は1994年に一橋大学大学院の野中郁次郎教授と竹内弘高教授が英語で出版した『The Knowledge-Creating Company』によって提唱された。(邦訳出版は1996年。邦題『知識創造企業』)知識経営について主題をおいた本書『コミュニティ・オブ・プラクティス』を読み解く上で、必須の一冊。
モテるまちづくり:まちづくりに疲れた人へ。 (まち飯叢書)
日本の社会学者・谷亮治著の『モテるまちづくり:まちづくりに疲れた人へ。』。コミュニティ論の比較文献候補その一。日本国内における「コミュニティ」がどのような文脈で語られてきたかという説明や、その上で筆者がコミュニティをどう定義しているか等のわかりやすい記述がありがたく、コミュニティという様々な意味合いで捉えられやすい言葉の整理にも活用できる一冊。
コミュニティ:安全と自由の戦場
ジグムント・バウマン著の『コミュニティ-自由と安全の戦場』。コミュニティ論の比較文献候補その二。「コミュニティ」という多義的な語を、人間の自由と安全の対立あるいは葛藤から読み解こうとする一冊。国家、社会システム、コミュニティ等の設計思想および、私たち一人ひとりの国家、社会システム、コミュニティ等への期待といった側面からも描写される。
サードプレイス― コミュニティの核になる「とびきり居心地よい場所」
アメリカの都市社会学者レイ・オルデンバーグ著『サードプレイス』。コミュニティ論の比較文献候補その三。第一の家、第二の職場とともに、個人の生活を支える場所として都市社会学が着目する『サードプレイス』について、その機能について言及している。
自主経営組織のはじめ方―現場で決めるチームをつくる
アストリッド・フェルメール他『自主経営組織のはじめ方』。目的に向け、組織が生命体のように有機的に活動していくための「フレームワーク」および、コミュニケーションの方法について紹介している、ティール組織関連書籍。自己組織化チームを設計する上での、実践的な手引書。
ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現
フレデリック・ラルー著『ティール組織』人類誕生以来、組織のあり方が段階的に変容を遂げてきたこと、また、現在現れつつある最新の組織の特徴が「生命体」的であること等を著した書籍。
パタン・ランゲージ―環境設計の手引
クリストファー・アレグザンダー著『パタン・ランゲージ』。元々、「パターン・ランゲージ」とは、建築家であった著者による、住民参加のまちづくりのために記した知識記述方法だったが、90年代にソフトウェア領域に、現在では人間の行為観察の領域にて応用・活用されるようになっている。
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