見出し画像

『光る君へ』いろいろ解説④ 第6話 劇中詩歌

みなさん、こんばんは。
『光る君へ』第6話の放送は実に内容盛りだくさんでした。
やはり放送を終えて視聴者がザワついたのは、道長がついぞ漏らしたまひろを慕う想いを滲ませた詩や歌についてですね。
漢文はたしか古典の授業でちょこっとやったような・・・。
しかも返り点などで何とか読み下した記憶がうっすらと甦るばかり。
実は源氏物語にも漢詩は数々登場します。
ここで道長が披露した漢詩や歌を状況なども鑑みて解説していきたいと思います。
(ちなみに私は漢語は苦手です)

古くは飛鳥の聖徳太子の時代から遣隋使などがあったように、我が国は大陸の文化を倣って王朝を築き上げました。
もちろんあちらの言葉を理解するのは当たり前。
漢学などを備える素養は施政者に必須の条件だったのです。


 清原元輔

道隆が若者たちの歓心を得るために催したのが漢詩の会でした。
漢詩人の為時に並んで招聘されたのは三十六歌仙の一人、清原元輔でした。
平安文学において、男女の誓いについて「末の松山」という言葉がよく使われます。この「末の松山」の生みの親ともいうべきが清原元輔なのです。
小倉百人一首の42番目の歌。

 ちぎりきな かたみに袖をしぼりつつ
        末の松山 浪こさじとは
(互いに涙に濡れて、袖からしたたる涙を絞りながら固く約束したことをお忘れでしょうか。けして心は変えないと。あの末の松山を波が超えなかったというように)
百人一首では男性の夜離れを嘆く女性の歌が多いのですが、この歌は裏切られた男の心情を歌っております。
「末の松山」とは宮城県多賀城市にある末松山寶國寺の本堂の裏に岡に生えている二本の松のことです。
貞観11年(869年)に大きな地震(貞観地震)があり、その地震に誘発された大津波が海岸線を襲いました。
当時この二本の松のすぐそこまでが海でしたが、その津波が松を飲み込むことはなく、この出来事から「末の松山」とは男女の誓いが永遠に変わらないことを喩えた言葉となったのです。
源氏物語でも、源氏が遠い明石にて新しい妻を娶ったことを知った紫の上は悲しみと共にこの言葉を引き合いに出して源氏を恨んでいます。

うらなくも思ひけるかな契りしを
     松より浪は越えじものぞと
 (わたくしは何の疑念も露ほども持たずにあなたを信じ切っておりましたのに、末の松山より浪は高くはならないというお話は嘘でしたのね)
その場面はこちら・・・

 道長が披露した漢詩

道長はもともと漢詩が苦手で、兄主催の漢詩の会へ参加するのを渋っているようでしたが、参加してみるとそこにまひろの姿が・・・。
お題は「酒」でした。
こうした会では、お題の言葉を含めた相応しいものを披露します。
そしてそれは古の偉人の詠んだものでもアリなのです。
道長は漢詩が苦手ということで、白居易(白楽天)が重陽の節句の時に詠んだ漢詩を披露したのでした。

公開されませんでしたが柄本道長の書

 賜酒盈杯誰共持
 宮花滿把獨相思
 相思只傍花邊立
 盡日吟君詠菊詩

重陽の節句に賜った菊酒で杯は満たされているものの、一体誰とこれを飲めというのであろう。
宮廷は花に満ちているが私は君を一人で想っている。
君を想って菊の花の側にあり、日がな一日君が詠んだ菊花の詩を口ずさんでいる。

これは白楽天が親友で優れた歌人であった元稹が詠んだ菊の詩があまりにすばらしく、それに返した詩です。
しかしながら、それを道長は自分がまひろを想う気持ちを忍ばせて詠んだということです。(それふうに訳をアレンジしました)
この漢詩の会に参加した中で、それをわかっているのは道長とまひろの二人きり。この漢詩を踏まえてドラマを観ると、思わず赤面してしまうような、実に胸の熱くなる場面でした。
(まひろが内心動揺しているようで、吉高さんの演技も素晴らしかったですね。柄本さんは涼しい顔をして、存外情熱的な一面を見せていただきました。アッパレ!)

 公任が披露した漢詩

そして才人として注目されたのは公任のオリジナル漢詩。
この詩は実際に公任が詠じたものだそうです。

公任の漢詩

 一時過境無俗物
 莫道醺々漫酔吟
 聖明治蹟何相改
 貞観遺風触眼看

目に見えるものは風流なものばかり
酒に酔って吟じていると笑って下さるなかれ
名君によって治められたこの世を改めることなど必要はない
それはかつて貞観が泰平であった歴史の例にもあるように続いてゆくことよ

この漢詩の評を如何かとまひろは尋ねられましたが、道長の思わぬ告白に動揺していたのでしょう。つい、
「白居易のような詠みぶりで・・・」
それを清少納言にピシリとやり返されてしまいます。
「むしろ元稹のような自由な詠み振りだと思いますわ」
的なカンジで・・・。
道長の白居易の歌を噛みしめていたので、このような言葉が出てきたと思われます。

 道長がまひろに贈った歌

そして6話の最後に道長がまひろに贈った歌がこちらです。

 ちはやぶる 神の斎垣も 越えぬべし
      恋しき人の 見まくほしさに

これには伊勢物語で詠まれた元歌があります。

 ちはやぶる 神の斎垣も 越えぬべし
       大宮人の 見まくほしさに

元歌の大宮人とは都人のことです。
ここをそのものズバリ「恋しき人」に変えたわけですね。
道長の歌を訳するとこのようになります。

神が戒める聖域に私は踏み入れてしまいそうだ。
あなたが恋しいあまりに・・・。

と、まぁ、かなり情熱的な歌に仕上がりました。
道長ニクイね!
といってあげたいところです。

さて、本日は第7話の放送ですね。
これまた楽しみです☆


この記事が参加している募集

#古典がすき

3,980件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?