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『光る君へ』 いろいろ解説② 装束について

みなさん、こんにちは。
本日は平安時代の装束(しょうぞく)についてお話し致しましょう。
「装束」と書くと堅苦しい感じですね。
ようは「服装」のことです。
身分にそぐった服装があり、身分の高い方々には、場面によって踏まえなければならない装いがあるということです。
それを理解することで物語をより深く理解していただけるもので、まさに要解説の出番と思われます。

『光る君へ』はビジュアルとして秀逸で、他の平安文学を読もうとした時にイメージがしやすいので、現代に生きる我々にはこういったキッカケが親しみやすいかもしれませんね。

さて、平安時代の庶民は衣に袴という感じで、市井にある人達が描かれている通りとてもラフな感じです。
女性も単衣に帯といった簡素なものですね。
庶民の男性は髷を結い、冠はつけておりません。
若き三郎のお目付け役というか、従者の男性・百舌彦(本多力さん)やまひろの家に仕える乙丸(矢部太郎さん)などは、簡単な冠を被っています。
彼等は下男のような下働きですが、貴族の邸に仕えているので、庶民でありますが、身だしなみのように考えていただけるとよいでしょう。

平安時代では、特に男性の貴族は装いで官位などが推測できます。
そのため成人することを男性の場合は「初冠(ういこうぶり」といい、成人することで官位を賜り、その位に合う冠をつけるのです。
それを踏まえますと、『光る君へ』第一話でとある場面が思い起こされます。
凶状持ちの道長の兄・道兼が、三郎(後の道長)を足蹴にした場面。
「身分の低い者」と道長に暴力を振るっておりました。
これは、この時三郎はまだ成人を迎えておらず、無位無官であったことからあのように蔑んだわけですね。
三郎はいつでも水干(すいかん)という狩衣よりも一段低く、丈の短い少年装束を身に着けております。
そしてもちろん冠はつけておりません。

三郎とまひろ

女性が成人する場合は『裳着(もぎ)』といって腰裳をつけて成人となるのです。
第二話の最初の場面でまひろ(吉高さん)が父・為時(岸谷さん)に裳を結ってもらうところから始まります。
まさに成人の儀式から始まったということになります。
女房装束ともいわれますが、俗に十二単衣と呼ばれる装束です。
腰裳に関しては、後姿がわかりやすいでしょう。

十二単衣

この図の白いエプロン(?)みたいなものが腰裳です。
そして貴族の女性の装束として印象的だったのが、紫式部の母・ちやは(国仲さん)が祠にお参りした際に身につけていた装束を「壺装束」といいます。

壺装束

貴族の女性の外出着と考えていただくとよいでしょう。
平安貴族は顔を見られるのを嗜みが無いとされましたので、市女笠でしっかりと顔を隠したのです。
平安貴族の女性は基本的に外出などせずに邸奥にて起居していたもので、娯楽といえば囲碁や双六、絵物語や草紙を読んで退屈を紛らわしておりました。
しかし「石山詣で」などが流行し、寺社に出向いて願掛けをする際にはこうした軽装の装束で出かけたのです。
当時女人結界というものがあり、女人は不浄として受け入れない寺社が多くありました。
石山寺は女人に開かれた霊場でしたので、お参りが流行したのです。


道長(柄本さん)の登場では、武官装束を身につけているのが特徴です。

武官装束

これに対して、文官装束(束帯)というものも存在します。

文官装束

ここでポイントは位が四位より下の武官は武官装束を身に着けておりますが、四位以上の者は文官装束を身につけることを許されているということです。道長は昇殿が許されておりますので、ここで位が五位以上である、ということが示されてるのです。
身につける装束の色も重要で、帝に様々な奏上をしている者たちは重々しい黒い袍を身に着けておりますね。
彼等は俗に『公卿』と呼ばれ、位は三位以上、中納言や大納言、大臣といった要職に就く者達です。
道長の父・兼家(段田さん)はもちろん大臣でありますので、この重々しい色味を身につけ、兄の道兼は鮮やかな色の袍を身に着けております。
蛇足ですが、源氏物語では源氏やライバルの頭中将は身分が高くありましたので、重々しい色味の袍を着けたことでしょう。
公卿たちが一様にユニフォームのように同じ色味を身につけていても、この当代一、二と謳われた貴公子達には容色を際立たせるだけに違いない、と感慨深いものです。

左大臣と右大臣

ちなみに左大臣と右大臣では左大臣のほうが重きをおかれていました。
日の上る方に座す、ということからそのようになりましたね。
こちらも蛇足ですが、私の書きます薫が主役の『令和源氏物語 宇治の恋華』では、夕霧は左大臣、そして右大臣には藤原家の柏木のすぐ下の弟である按察使大臣が登場します。
もうひとつ蛇足ですが、二話で異彩を放っていたロバート秋山さんが前の画像の奥に畏まっておりますが、その役職は「蔵人頭」。
蔵人は帝の護衛にあたる人たちなので、官位に関係なく昇殿が許されておりました。ロバート秋山さんはその蔵人の長ということになります。

ざっと装束のことに触れましたが、今宵第三話はこうした視点で見ていただくのもまた一興かと思われます。



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