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『光る君へ』 いろいろ解説③ 五節の舞姫

みなさん、こんばんは。
今回は『五節の舞姫(ごせちのまいひめ)』について解説しようと思います。
雅楽のなかで唯一女性が舞うもの、それが『五節舞』です。

以前から記しているように、平安貴族の女性は家族以外に顔を晒すことを嗜みが無いとされていましたので、女人が堂々と舞うなどは考えられないことでした。
五節舞は新嘗祭(にいなめさい=収穫を祝うお祭り)の後に行われる饗宴の際に神さまに奉る神事のひとつと考えていただくとよいでしょう。
(ドラマでは豊明とさらっと説明されておりましたが、わかりづらいですよね)
四、五人の未婚の舞姫が選出されて舞を奉納することになります。
通常は公卿の娘を二人、受領や殿上人の娘から二人、もしくは三人が選ばれます。

ここで『光る君へ』第4話のまひろが選ばれた場面を思い返してみてください。
もとは左大臣の源・雅信(益岡徹さん)に娘を舞姫にするよう宣旨が下ったのですが、倫子(黒木華さん)は頑迷に拒絶します。
顔を晒して舞を奉納することになりますので、倫子は女好きと噂の帝(花山天皇)に目をつけられるのが嫌で抵抗しました。
そこで白羽の矢が立ったのがまひろ(吉高由里子さん)ということでしたね。
まひろは「見初められない自信がある」と豪語するのが面白かったです。

源氏物語にもあるように、五節の舞姫は中流・下流貴族の姫にはチャンスの場でした。
源氏物語第二十一帖「少女(をとめ)」の帖で源氏とは乳兄弟であり側近の惟光が娘を「五節の舞姫」として差し出す場面があります。
娘は「藤内侍」として宮中の女官に上がることを約束され、その際に夕霧に見初められることになります。
後に夕霧の側室となり、産んだ六の姫は宇治十帖でも評判の姫君としてもてはやされます。地味なポジションですが、穏やかに豊かに暮らしたのであろうというのは推測できます。
ヘタして北の方などに納まれば夫の夜離れや嫉妬に苛まれて不幸になる女性も多い時代でしたので・・・。

話を戻しますが、身分の高い公卿などは娘を東宮や帝に差し上げるための「后がね」として養育しているもので、五節の舞姫に献上して、他の貴族に懸想されたりすると外聞もよろしくありません。
そこで自分の家来などの娘を代わりに献上したのです。

「見初められる筈がない」とのたまっていたまひろでしたが、なかなかどうして実に美しい艶姿でした。
次回予告では、どうやら見初められることはないようですが、
(見初められれば話の筋が変わってしまうので)、この五節舞奉納の最中に三郎の素性を知ってしまうショッキングな展開となっております。

私は巫女をしていた時に「浦安の舞」という神楽舞を舞っておりました。
一人舞い、二人舞い、四人舞い、の3パターンです。
結婚式で奉納する際に舞殿が広ければ二人舞い、狭ければ一人舞というようになっており、まさに新嘗祭や例大祭で奉納する場合には四人舞いという壮観さでした。
四人の舞姫は基本の動作はほぼ一緒でしたが、フォーメーションの展開で足運びも異なり、左右対称の動きをしたりします。
一臈から四臈とポジションが分けられ、横一列の並びから上下左右に展開してゆき、四人でシンクロする舞踏部分などもあり、見応えのあるものです。
「浦安の舞」には今回まひろが舞っていたように檜扇を使う一番、鈴鉾に持ちかえての二番があります。
踊り自体は覚えてしまえば難なく舞えるのですが、問題は正式な浦安の舞装束を着けて奉納する際に腰裳をさばく足さばきをマスターしないと見苦しくなることです。

浦安の舞装束

今回吉高さんも腰裳をつけて舞われていたので、きっと練習なさったことでしょう。
体の向きを変えると腰裳が後ろに残っているので、踊りながら足でそれをさばかないと踏みつけて転んでしまいます。
(裳裾さばき、といいます)
水面下の白鳥のように、袴の見えない内側で片足で踏ん張りながら、裳をさばくのです。
これがとても大変で・・・。
優雅でゆったりとした動きだからこそ、涼しい顔でやってのけなければならないのですね。
そして練習の時には歌とは合わせられません。
節に合わせてそれぞれタイミングを合わせて微調整をおこなうのです。
浦安の舞は昭和天皇が平安を祈念して詠まれた歌に合わせます。

 天地(あめつち)の
 神にぞ祈る 朝凪の
 海のごとくに 波たたぬ世を

私は雅楽を嗜んでおりませんので、節はこんな感じ 
あめつちの、は
 あーーーー
 めぇーーー
 つーーー
 ちーぃ、のーー〜⤴
「いち、にぃ、さんと、し、の⤴」
といったテンポで口語で合わせてゆくのです。
楽人さんに聞いたところ、一応譜面はあるものの、口伝が基本。
音をそのまま書き記したのが譜面だそうで。
舞も同じスタイルで伝えられたのでしょう。
今にして思えば、なかなかガッツのある、空気読めよ、的な体育会系のファジーさです。
感性が重要なのですね。
(もちろん今は私がいた時代とは違いますので、理論的に体系化されていることでしょう)

さて、『光る君へ』の劇中で気にあることがあったので、ここで書いておこうと思います。
新嘗祭は毎年行われる宮中行事ですが、帝が変わられて最初の新嘗祭を「大嘗祭(だいじょうさい)」といいます。
この時に舞姫は五人選出されるのが通例です。
まひろが舞姫に選ばれた時は花山天皇が即位されての大嘗祭ですので、本来ならば五人舞いであるのが正解だと思われます。
ほんの豆知識ですし、ドラマの壮観さは変わらないのですが、念のため書き加えせていただきました。

また何かあれば不定期に解説をしていこうと思います。


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