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新規参入者の組織社会化過程における上司・同僚との社会的交換関係の役割とは?

近年、新規参入者(新卒入社者)の初期キャリアの発達に関する重要性が指摘されています。

また、新規参入者が入社後に最初に直面するキャリア発達課題として、組織社会化があります。

組織社会化とは「新規参入者が組織 の外部者から内部者へと移行をしていく過程」と 定義されています。(Bauer, Bodner, Erdogan, Truxillo, and Tucker, 2007, p. 707)

組織社会化段階の新規参入者が、職場において上司及び同僚とどのような関係性を築いていくかは、組織適応上の重要な要因として考えることができます。

この論文では、職場において新規参入者が上司及び同僚と形成する社会的交換関係(LMX・TMX)が、企業の組織社会化戦術※と新規参入者の組織適応との間に介在する媒介要因であると仮定し、既存の文献レビューに基づく仮説モデルの構築を行っています。

※新規参入者の当該組織への社会化を促進するために行われる企業内での施 策や取り組みを意味するもの。

論文名:新規参入者の組織社会化過程における上司・同僚との社会的交換関係の役割:縦断的調査データによる分析/竹内倫和さん、竹内規彦さん


組織社会化戦術と職場の社会的交換関係(LMX・TMX)

まずは、この論文で出てくるLMXとTMXの整理をできればと思います。

LMX は、上司のリーダーシップを職場単位で平均的に捉えようする考え方とは異なり、例え同じ上司であったとしても職場における上司と部下との2者間関係がそれぞれ異なることに着目し、その違いを2者間での社会的交換関係の質の違いから説明しようとする概念である(Graen and Uhl-Bien, 1995)。 Seers(1989)は、この LMX概念を職場の同僚間関係に拡張し、職場内での自己と自己を取り巻く複数の同僚との間に存在する2者間の社会的交換関係をTMXとして概念化している。

『新規参入者の組織社会化過程における上司・同僚との社会的交換関係の役割:縦断的調査データによる分析』p134より抜粋

LMXは上司と部下の2者間での関係性、TMXは複数の同僚との間に存在する2者間の関係性、と考えるとわかりやすいかもしれません。

社会的情報処理理論とは?

この LMX・TMX と組織社会化戦術との関係性は、社会的情報処理理論に基づいて説明できる、と述べています。

社会的情報処理理論(social informationprocessing theory:Salancik and Pfeffer, 1978)は、個人の態度や行動が、社会的な情報や文脈によってどのように影響されるかを説明するものです。具体的には、個人の仕事に対する態度や行動が、他者からの情報や社会的な環境によって形成されるという考えに基づいています。

これを組織社会化戦術と職場における上司・同僚の行動との関係に援用して考えると、まず①組織社会化戦術を通じて、企業側から職場の上司や同僚に対して、メッセージやシグナルが発せられ、ついで②職場の上司や同僚がこ れら企業側から伝えられるメッセージやシグナルを解釈し、新規参入者に対していかなる態度や行動をとるかが決定すると推察される。

『新規参入者の組織社会化過程における上司・同僚との社会的交換関係の役割:縦断的調査データによる分析』p134から抜粋

仮説

これらの議論をもとに(論文ではもっと様々な視点で議論されているので、ご興味ある方はぜひ読んでください!)論文では6つの仮説が立てられています。

仮説 1a:制度的社会化戦術は,新規参入者が上司と結ぶ社会的交換関係(LMX)の質と有意な正の関係を示すだろう。
仮説 1b:制度的社会化戦術は,新規参入者が同僚と結ぶ社会的交換関係(TMX)の質と有意な正の関係を示すだろう。

仮説 2a:新規参入者が上司と結ぶ社会的交換 関係(LMX)の質は、入社直後の各組織適応指標をコントロールした上でも、入社1年後の組織コミットメ ント、個人─組織適合、達成動機,、個人─職業適合に対して有意な正の関係を示し,また転職意思に対して 有意な負の関係を示すだろう。
仮説 2b:新規参入者が同僚と結ぶ社会的交換関係(TMX)の質は、入社直後の各組織適応指標をコントロールした上でも、入社1年後の組織コミットメ ント、個人─組織適合、達成動機、 個人─職業適合に対して有意な正の関係を示し、また転職意思に対して有意な負の関係を示すだろう。

仮説 3a:新規参入者が上司と結ぶ社会的交換関係(LMX)の質が、企業の制度的社会化戦術と新規参入者の入社後の組織適応(入社直後の適応状態をコ ントロールした後の入社 1 年後の各 適応指標)との関係を媒介しているだろう。
仮説 3b:新規参入者が同僚と結ぶ社会的交換 関係(TMX)の質が、企業の制度的 社会化戦術と新規参入者の入社後の 組織適応(入社直後の適応状態をコ ントロールした後の入社 1 年後の各適応指標)との関係を媒介している だろう。

本研究の分析枠組み
p136より抜粋

調査方法・対象

企業の新卒採用者を対象とする以下の2回の縦断的調査を実施。第1回目調査は、2006年4月に複数の調査対象企業に新規に採用された304名の正規従業員を対象に集合一括調査を実施し、全数から有効な回答を得た。第 2 回目調査は、第1回目調査から1年後の2007年4月に郵送法により行われた。

結果

仮説1aと1bは支持された。
仮説2aと2bは部分的に支持された。
仮説 3aと3bは部分的に支持された。

考察

・LMXとTMXという職場要因が組織社会化戦術と組織適応を結びつける重要な媒介変数として確認された点は、組織、職場、個人という3者が組織社会化プロセスの中で果たす役割を明確にするものである。

・組織社会化戦術(施策)から上司・同僚との交換関係を経た個人の組織社会化の流れを,社会的情報処理理論を用いて検討した既存研究はほとんどなく、この理論が新規参入者の組織社会化プロセスを説明する上で一定の有効性をもつ可能性が示唆される。その意味で、本研究が組織社会化研究の理論
的な進展に、若干ではあるが寄与することができたと考えられる。

・新規参入者が結ぶ職場の社会的交換関係(LMX・TMX)が、組織適応指標の 1 つである転職意思に対して、双方とも有意な影響を与えることを確認することができなかった(TMXは転職意思に対して負の影響傾向)。

・組織社会化過程における職場での 社会的交換関係の構築の重要性が確認されたため、新規参入者と上司・同僚間のコミュニケーション機会を意図的に増やすことによって、新規参入者の組織適応を促進することが可能になると思われる。

新規参入者の組織社会化において上司との関係が重要であることが明らかになりました。

上司が積極的に新参者をサポートしフィードバックを提供することで、新規参入者の適応が促進されること。
新規参入者が完全に組織に適応するまでには時間がかかるため、継続的な支援が必要であること。
初期のサポートだけでなく、長期的な視点で新規参入者を支援する体制が重要であることがこの論文から読み取れます。

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