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上司と部下の関係性ってどうすれば向上するの?-LMXの歴史、特徴、尺度から紐解く-

私は現在、立教大学大学院リーダーシップ開発コースに通っている、修士2年生です。いよいよ修士論文というものに向き合っている最中なのですが、よく、「大学院で何をテーマにしているの?」と聞いていただくことが増えたので、今日は私が修士論文のテーマにしようと思っている「上司と部下の関係性」について、まとめていきたいと思います。

上司と部下の関係性を考える上で、私が取り扱っているのは「上司部下交換関係(LMX理論)」というものです。

LMX (Leader Member Exchange)理論とは、「一人のリーダー」と「一人のメンバー」という関係に焦点を当てたリーダーシップ論です。

まずはリーダーシップの歴史から見ていきましょう。


リーダーシップの歴史

そもそもリーダー、リーダーシップという言葉が辞書に載ったのは、19世紀と言われています。そして、リーダーシップ研究が始まったのは、19世紀後半から20世紀初頭にかけてとなります。

参考:「リーダーシップ理論でフォロワーの存在感が増したのはなぜか?滋賀大学小野善生氏」を元に作成

LMX以前の理論は、リーダーの観点(特性、スキルなど)に立った理論か、 フォロワーの観点(状況対応、パスゴールなど)に立った理論でした。
そして、フォロワーはリーダーに服従するものだ、という考え方が基本にありました。

しかし、1970年代、サーバント・リーダーシップやLMXなどが出てきたあたりから、フォロワーはリーダーに主体的についていく存在であり、リーダーはフォロワーの成長を導く存在でなくてはならないという見方が基本になってきます。

LMXとは?その特徴

次は、そもそもLMXとは?について説明していきます。

LMX(上司部下交換関係理論)とは、職場における上司一部下間の垂直的かつ社会的な交換関係をもとにした概念です。1人のリーダーとその各部下1人1人との関係性を対象としています。( Kamdar & Van Dyne (2007))

「交換」って一体なんなんだろう、と思いますよね。ここでいう”交換”とは、「リーダーが提供する報酬」と、「フォロワーが提供する貢献」の交換を意味します。

「リーダーが提供する報酬」には金銭や昇進だけではなく、信頼や尊敬、注目などの心理的な報酬も含まれます。
「フォロワーが提供する交換」には業務の遂行だけでなく、リーダーへの信頼や忠誠などが含まれます。


そして、変革的リーダーシップやサーバントリーダーシップ、オーセンティックリーダーシップのようなリーダーシップ理論は、従業員の態度やモチベーション、チームでの成果に対するリーダーの行動の効果に焦点を当ててきましたが、LMXは、メンバーやチーム、そして組織へのリーダーの効果を理解するためのカギとして、リーダーとメンバーとの間のダイアディックな(二項的な)関係の質を研究しています。

Dyadic Relationship=二項関係

また、LMX理論にはIn-groupとOut-groupというものがあります。

In-group:リーダーとフォロワーが相互の信頼感、敬意、きずなで結びついた関係を構築していること。
・リーダーからより多くの支援や情報を受けより高い信頼を得る傾向がある
・組織の重要な情報にアクセスしやすく、リーダーとのコミュニケーションがより頻繁に行われる。

Out-group:リーダーとフォロワーの間には仕事上必要な最低限の交換関係が成立している
・リーダーからの支援や情報が少なく、信頼も低い傾向がある
・組織内での重要な情報へのアクセスが制限され、リーダーとのコミュニケーションが限定される場合がある

先行研究によると、西澤(2010)は、この LMX 理論を基にアルバイト店員に調査を行い、組織にはIn-group(内集団)とOut-group(外集団)が存在し、In-groupは職務満足度が高いが、Out-groupは職務満足度が低く、転・離職を考える割合が高いと述べています。In-groupとOut-groupには少なからず差があると言えます。

LMXの論文の推移

ここで、LMXの論文の推移を見ていきます。
少し古いですが、2010年から2014年のデータを見ると、2010年から2014年の間に1,010件(特定された論文総数の55%)の論文が発表されており、この分野の研究ペースは現在加速しています。

同様に、図1.2に示すように、LMXの論文の被引用数も指数関数的に増加しています。

過去40年間におけるLMX理論への圧倒的な関心の高さがうかがえます。

図1.2
The Oxford Handbook of LEADER-MEMBEER EXCHANGE(2015) の第1章

LMXの効果とは?

ここまでリーダーシップの歴史、LMXの特徴、論文の推移など見てきました。ここでは、LMXの効果について述べます。

LMXが向上することでどんな効果があるのか。
Graen & Uhl-Bien (1995), Liden, Wayne, & Stilwell (1993)によれば、以下における効果が検証されています。これ以外にも、実証結果は多い印象です。

・退職率の低さ
・行動評価の高さ
・昇進頻度の高さ
・組織コミットメントの高さ
・望ましい職務アサインメント
・職務態度の高さ
・リーダーからの注目や支援の高さ
・キャリア進捗の速さ

Graen & Uhl-Bien (1995), Liden, Wayne, & Stilwell (1993)

また、以下の図はLMXのメタアナリシス研究から抜粋し翻訳した図になります。メタアナリシス(meta-analysis)とは、複数の研究結果を統合して解析する統計手法です。

何がLMXに影響し(説明変数)、何に対して影響を与え(目的変数)、何が調整するのか(調整変数)、を明らかにしている図です。
この図を見ても、離職意思、組織市民行動、昇進、組織コミットメント、職務満足などなど様々な影響があることがわかります。


私の修士論文では、説明変数の「フォロワーに対する上司の期待」に着目して、研修を設計しています。(なぜこの説明変数になったか、は修論に記します!)

LMXの測り方


ふむふむ、LMXが高い時、つまりお互いに信頼し合い、好意的な関係である時にリーダーシップが効果的に発揮されることも実証されているし、様々な効果があるんだな….でもどうやってLMXが高まったと判断するの?と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。

最後に、「LMXってどうやって測るの?」ということをまとめようと思います。

LMXが形成されているか測るスケールとして、LMX-7があります。リーダー(上司)とメンバー(部下)の二者関係を尋ねる 7 項目からなる尺度になります。

得点が高いほど、互いに信頼し合い、社会的交換が発展し、リーダーシップが効果的に発揮される状態にあることを意味します。

2) Kawaguchi S, Takemura Y, Takehara K, Kunie K, Ichikawa N, Komagata K, Kobayashi K,Soma M, & Komiyama C. Relationship between teams’ Leader–Member Exchangecharacteristics and psychological outcomes for nurses and nurse managers: A cross-sectionalstudy in Japan. Sage Open Nursing, 2021; 7: 1-11.https://doi.org/10.1177/23779608211025981より抜粋

修士論文では、このLMXが向上したかということを調べる予定なので、このLMX-7を使用する予定です。ただ、この設問を見てもらうとわかるように、設問の視点が、「部下から見て上司はどうか」という視点なんですね。

なので、上司が「部下とは関係性がいいよ!」と思っていても、それだけだと充分な判断にはなりません。


ここまでリーダーシップの歴史、LMXの特徴、LMXの効果、LMXの尺度と見てきました。LMXってすごい、万能!と思われた方もいるかもしれませんが、実は、LMXが高いと、不正が起きるという論文も存在します。
端的に言うと、LMXが高い従業員は、上司からの支持が強いため、同僚による監視の影響を受けにくくなり、結果とし、競争による不正行為の抑制効果が弱まることが示されている、というようなことが書かれています。

「The brothers are watching: The peer monitoring mechanism of rivalry in reducing cheating behavior at work」

こちらも面白い論文なので、またどこかでnoteにまとめようと思います。

ただ効果だけを見て「これが良い!」「これはすごい!」と鵜呑みにするのではなく、「本当にそうか?」「違うパターンはないか?」「こういう時はどうなるんだ?」という、良い意味で猜疑心を持って色々な先行研究にあたることで見えてくることが沢山あります。

引き続き、先行研究の海を泳ぎ続けながら、学びをまとめていきたいと思います◎修士論文、楽しみながら頑張るぞ!

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