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【ショートショート】太閤様の夢騒動

 皆さんは大阪へ行った事がありますか?
私はありません。
今日は私が行った事の無い大阪のお話をしましょう。

大阪には大阪城と言うお城がありました。
太閤様と言う人がここに住んでいました。
皆、太閤様がいない所では太閤様の事を「サル」と呼んでバカにしていました。

ある日の朝、太閤様が寝間着のまま大慌てで廊下を走っていました。
驚いた家来が訳を尋ねると悪夢を見て城の外が心配になっていても立ってもいられなくなったと言う事でした。

「ニヤけた愚か者共がこの土地を滅茶苦茶にしよる!一体何が起こっておるのじゃ!?ワシに黙って巨大な賭博場を作るじゃと!?仕事もせんで嘘ばかりついて民を惑わしている悪党共は打ち首じゃ!引っ捕らえろ!」

「太閤様、夢です、夢。とりあえず落ちついてお部屋へ」

この日以来、こんな事が数日間続きました。
そして流石の太閤様もすっかり弱ってしまいました。
これを聞いた他国の領主達は太閤様が元気になれば自分を気に入ってくれるかもしれないと色々な貢ぎ物を送ってきました。
そんなある日、1人の使者が来ました。

「今日は太閤様へ珍しい物を献上いたしたくまいりました」

「ほう、珍しい物とは。ワシは珍しい物が大好きじゃ」

「珍しい鳥にございます」

「おぉ、動物は好きじゃぞ!」

使者は鳥籠を出しました。
中には九官鳥が入っていました。

「こちらは遙か印度の国より我が主が取り寄せましたムクドリにございます。なんとこのムクドリ、人の言葉を真似るのが得意でございます」

「な、なんと!?人の言葉を真似るのか!?」

「名前を九太と申します。父親はワイ次と母親はオゼの間に産まれ、他に妹のピイと弟のオウ次がいますがこの九太は愛嬌があり、よく喋るので是非とも太閤様へと」

「これは嬉しい、其方の主は青い猫を飼っていたり、侍の格好のからくり人形など珍しい物を沢山持っているとは聞いていたが、人真似をする鳥とは珍しい!ちなみに赤髪の妖術使いの小娘がいると言うのは本当か?」

「真にございます。それはともかく早速九太に何か喋っていただきましょう、これ、九太、太閤様じゃぞ」

九太は羽を少しバタつかせて

「タイコーサマ!テンカイチ!タイコーサマ!カッコイイ!」

と言いました。
太閤様は飛び上がると

「これは!凄い!まるで人間の様に話すではないか!?」

「はい、ちゃんと教えれば人の言葉を覚えます」

「うむむ、仕込んできおったな。この者に褒美を、帰って宜しく伝えよ」

「ははぁ」

それ以来太閤様は毎晩九太の人真似を聞きながら寝ました。

「タイコーサマ、カッコイイ!モテモテ!タイコーサマ!ツヨイ!テンカイチ!」

太閤様は悪夢は見なくなり代わりに良い夢を見る様になりました。

「いやぁ、城の外に凄い砦が出来てなぁ、敵を一網打尽にする夢じゃ」

太閤様の機嫌も良くなり家来達は安心しました。

「最近のサルは元気になって機嫌が良い」

家来達は口々にそう言い城内の太閤様の評判もよくなっていきました。

 そんなある日、太閤様の元に秀忠と言う人が訪ねてきました。昔は長丸と言う名前だったのですが皆は陰で「バカ丸」と呼んでいました。

「太閤様、今日は太閤様のお体の具合が悪いと聞き、良い物を持って参りました」

「おぉ、半年前に調子を崩したのだが、今はこの通りピンピンしておる。だが折角だから貰っておくぞ」

「道中の茶屋巡りの為、半年かかってしまいました。こちらはなんと人の言葉を話す鳥にございます」

「おぉ、印度のムクドリの事か?それならもう1羽飼っておるが動物は好きじゃから何羽いたとて良いぞ」

「こちら、ただの鳥ではございません。からくりにより人の言葉を真似るのでございます。名はお初にございます。喰いもしなければフンもしない。ネジにて動く代物です」

秀忠は機械の鳥を出しました。
緑色の鳥で内蔵された木や鉄の部品を使い合成音で人の様な声を出します。

「おぉ、からくりとな!?食い物も下の世話もいらんのか!?」

太閤様は1つ困っていた事がありました。
九太は大飯喰らいでその分出す方もかなりの量でしたので世話が大変でした。

秀忠がネジを巻くとお初は人の声で歌い出しました。

「タイコーサマ♪カッコイイッ♪タイコーサマ♪モッテモテェーッ♪」

太閤様は驚いて飛び上がるとこう言いました。

「人の言葉を真似るだけでなく歌うのか!?こっちの方が九太より良いではないか!?」

太閤様は褒美として秀忠に九太を授けました。

「大阪見物でもしてしばらくゆっくりすると良い」

言われた通りに秀忠はしばらく大阪に滞在する事にしました。
太閤様は毎晩お初の歌を聴きながら床へ着きました。

 ある日、秀忠はお供と大飯喰らいの九太を連れて大阪で人気の酒場を訪ねました。

「この鳥にも食べ物を頂戴、沢山食べるから連れてあるいてるんだよ」

店の物が鳥籠に餌を入れると九太が

「タイコーサマ!モテモテ!」

と言ったので九官鳥を見た事が無い店の人は驚きました。

「こりぁ、たまげた!人の言葉を喋るんですか?」

「そうだよ。太閤様から貰ったんだ。でも沢山食べるし、沢山ウンコするから面倒くさいんだ。あげようか?」

秀忠がそう言うと店の者は驚きました。

「本当ですか!?でも、よろしいんですか?」

「もう新しい物をあげたからこの鳥の事なんて忘れてるよ。この店で飼ってよ」

こうして九太はこの店で飼われる事になりました。
店には九太見たさに人が沢山集まる様になり今までも人気だった酒場はさらに繁盛しました。

しばらく後、また太閤様が悪夢にうなされる様になりました。
お初が壊れたのです。

「タッ、タタッコーッ、テッ、テッ、テェーッ!」

調子外れの歌を聴きながら毎晩寝ていた太閤様はすっかり弱ってしまいました。
ネジを巻かなければ良いのですが「今日はちゃんと歌ってくれるかもしれない」という期待で毎晩お初に歌わせたのでした。

 ある日の事です。家来達が酒場でこの事について話し合っていた時の事です。

「参ったなぁ、サルのやつ、昨日は「お堀が埋められた!」とか言ってお堀を見に飛び出したぞ」

「今日は城がある場所に別な城が建っている夢を見て騒いでいた」

家来達は口々に最近の太閤様の夢に振り回された話をしていました。

「イラーッシャーイ!」

店の中でおかしな声が聞こえました。
その声の主は店の入口近くに吊してあった鳥籠の中の九太でした。

「おい、店の者はおるか?」

「はい、何でしょう?」

「これはどうした?太閤様の所にいた鳥ではないか?」

「はい、この間、権官様がこちらへ世話がかかるからいらないと預けていかれました」

「あのバカ丸め!申し訳ないが、この鳥は我々に譲ってもらえるか?」

「最近は客も飽きてしまった上にバカみたいに食べてバカみたいにフンをするので困ってました。どうぞ連れていっていただけますか?」

こうして九太は太閤様の元へ帰りました。
九太が帰ってきて太閤様は大喜び、早速床の間へ連れていって九太へ話かけます。

「九太、よく戻ってきた!褒美にたんと食わせてやるからな!クソでも何でもたんとしろ!また以前の様にお喋りをしておくれ!」

「キノボリ、エテキチロー!」

「な、何と?」

「オサルノオシリハマッカッカーッ!デモデモ、エテキチローハモーコハンデマッツァオダーッ!キャッ!キャッ!キャッ!」

九太はお店にいる間に常連客達から沢山の言葉を教えてもらい学習していたのです。
普段から町人達にバカにされている上に酔っ払った状態の言葉でしたのでそれはそれは様々な太閤様の噂話や、普通なら考えつかない様な酷い悪口を九太は喋り続けました。
しばらく呆然と九太の喋りを聞いていた太閤様でしたが遂に我慢の限界が来て立ち上がると刀を持ちだし鳥籠を斬りつけました。

「無礼者めぇ!焼き鳥にしてやる!」

鳥籠が2つに割れると中から飛び出した九太は部屋をぐるぐる飛び回った後、外へ飛んで行ってしまいました。

 大阪から帰った秀忠が父上の所へ大阪での事を報告へ行きました。
父上は秀忠に駆け寄ると言いました。

「おぉ、戻ったか!?おい、面白い鳥が庭に迷い込んだので捕まえたぞ!これがすごいんだ!沢山サルの悪口を…」













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