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あづさの恋 高校与太っ娘青春篇

 高校1年生になったあづさにつけられたあだ名は「死神」でした。
親身なって相談にのってくれたと思っていた地元の同級生達から「あの子が好きになった男の子は必ず死ぬ」等と噂を立てられたからです。

 ある日あづさが図書室で調べ物をしていると2年の五木という女生徒があづさの前にやって来ました。

「あんた、あみささんげ?」

「いいえ、あづさです。づはつに点々…」

「佐竹先輩の事好きだと山田さんから聞いたんだけんども?」

「いいえ、私、この間のバスケの試合の話を山田さんから聞いて格好いいねって言っただけです。佐竹先輩の事はよく知りません」

「んだげ、とにかく佐竹先輩に近づかなねぇで?佐竹先輩おっちんだりすたら、オラ、生きてけねぇ!」

「あ、佐竹先輩の彼女でしょうか?」

「つがうども!近づかねぇでな!」

「はい!」

五木は図書室のテーブルをバンと音がするほど強く叩くと図書室を出ました。

 帰り道、あづさは肩を落として歩きました。
そこへ女子高へ通っている花子があづさを見つけて寄ってきました。

「あ、あづさちゃーん!元気ねぇなぁ。どうすた?何か悩みあるならオラに教えてケロ」

「花子ちゃーん」

あづさは花子の顔を見て泣き出してしまいました。
あづさは花子に高校での辛い出来事を話ました。
陰で死神と呼ばれている事、今日の五木の事、くせっ毛にパーマの疑いをかけられ学校へ地毛証明を提出しなければいけない事等。

花子はうなずきながらあづさの話を聞いていました。

「花子ちゃんだけ。私の事を分かってくれるのは。お母さんはあの調子だし、お父さんは臭いし、お腹出てるし、いびきかくし、ポチは喋らないし。ミケは…」

「あづさちゃん、オラ高校が違うがらその場でフォローは出来ねぇども、いつでも相談のるがらなぁ。ちょっとこの後は予定あるがらオラ行くども、しっかりしてなぁ。いつまでもお友達だがら」

「ありがとう!花子ちゃーん!」

結局気を使っている素振りは見せても何もアドバイスせずに花子は行ってしまいました。
あづさは最近花子が男子校の子とよく出かけているのを知ってました。

あづさは駅前のクレープ屋に入りました。
ここは外国からきたグッチャナ・サイザンショと言う男の人がやっていて、凄く美味しいクレープ屋さんでした。
実はあづさはちょっとこのクレープ屋さんに気がありました。

「イラッシャーイ、アッササン!キョーモイチゴスペシャル?」

「あづさです」

「ワカッテマス!ヅガツノダクテン!」

「わかってるじゃないですか!」

「デモ、イーニクイ。アッサ。ワタシノクニデハヨクアルナマエ」

「じゃあアッサで良いか」

「アッササーン!」

あづさは彼の作るイチゴスペシャルが大のお気に入りでした。
正直な所高校に行くのが辛くなっていたのですがクレープとグッチャナに会えるのが楽しみでなんとかやっていけてました。部活動に入ってないあづさはグッチャナに悩みを相談したりして放課後は時間を潰していました。

「ワタシ、カールヘアー、ヨイトオモイマス!ワタシノクニデハモテモテデスヨ!」

「私、グッチャナさんの国に住もうかしら?」

「ヤメテオイタホーガヨイデス」

「そうね、やめておこうかな」

彼の国はクーデターによって国が滅茶苦茶になり市民活動家等は殺されてしまう為に国を追われているとあづさも知っていました。
美味しいクレープを食べてグッチャナに話を聞いてもらったあづさは少し元気になりました。
あづさが帰ろうとするとグッチャナが引き止めて何か小さな袋を出しました。

「オミヤゲデス!ツカッテクダザーイ!」

「何?ヤバいクスリみたい。何ですか?」

「オコウデス!ワカイオンナノコツカッテマスネ。ヨクネムレマス!」

「アロマテラピー!ありがとう!嬉しい!」

「マタキテネーッ!」

 あづさは家へ帰ると早速部屋でお香を焚いてみました。
しかし、お香の煙はどうも日本人には不慣れな匂いでした。

「うわっ、臭い!雨の日のジーンズやお父さんより臭い!」

あづさはたまらなくなり部屋の窓を開けました。
すると一匹の鳥があづさの部屋の窓に止まりました。

「えっとぉ、一郎君に健二先輩。このパターン分かったわ。グッチャナさんでしょ?」

「ご名答!あづささん!僕の背中に乗って!」

「どこかへ連れて行くの?」

「凄く広い世界!」

あづさの体はみるみる小さくなりました。 
そしてあづさはグッチャナの背中に乗りました。

「今日は人間のまま小さくなったわね。うわっ、虫!デカい!」

「鳥だから我慢して。その虫は人間刺したりしないから。しっかり掴まって!じゃあ行くよ!」

あづさを乗せてグッチャナは空高く飛びました。
あっという間に海へ出て海を渡り違う国違う町の上を飛び回りました。
それぞれの土地でそれぞれの声、食べ物、踊り、祭り、色々な物をグッチャナと見ました。

「凄い世界って広いって言うけどこんなにも色々ね」

色々な笑顔、泣き顔、生まれてくる命、散っていく命。

色々な場所を巡った後、グッチャナは高い山の天辺にあづさを降ろすと言いました。

「さぁ、そろそろお別れですね」

「ここはどこかの山の天辺よ、部屋まで連れていって。一緒に日本へ帰りましょう」

「もうここはあずささんの部屋ですよ!あずささんならいつでもこの山の上の様に世界を見渡せます。
私はこの辺で行かねばなりません。
私の国でも無い、日本でも無い場所へ」

「どういう事?行かないで!」

「さようなら、くせっ毛可愛いですよ!自信持って!いつか皆、貴方の事が好きになります!」

「待って!」

グッチャナは空高く飛んでいきました。
それを眺めてるあずさの視界がだんだん霞んでいきました。

 あづさはお母さんに肩を揺さぶられ起きました。

「夕飯前に寝ちゃって。カレーよ。カレー。しかし凄い匂いねこれ。窓開けるなら焚かなければ良いのに」

 翌日、早めに家を出て学校へ行く前にグッチャナの店を確認すると店は閉まっていました。
その翌日も翌々日も閉まったままでした。
次の週グラウンドのベンチに座っているあづさの耳に近くにいた五木と山田の話し声が聞こえました。2人はあづさがベンチにいるのに気づいてない様でした。

「怖えぇ、駅前のクレープ屋。不法滞在だど

「えぇ、ショックですだぁ!あそご美味しかったのにぃ!んだ、死神があそこにしょっちゅう通ってるって聞いてますだ」

「不吉だなぁ、何か犯罪の相談じゃねえが?」

あづさはたまらなくなり立ち上がって2人の方まで歩いて行きました。

「あんれまぁ?しに…いや、あづささんだったが?話聞いてたんが?ワシらも殺すがぁ?あはは」

あづさは2人を引っぱたきたかったのですが堪えて手を握ったままジッと2人を睨みつけました。

「あら?怖ぇ!逃げるがぁ。」

2人は笑いながら去っていきました。
あづさは後で担任から「君に因縁をつけられた生徒がいる」と呼び出されましたがあづさはこう答えました。

「2人の前で目を細めていたのは目が霞んで良く見えなかったので。でも今ははっきり見えます」












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