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乾きものが恋しくて、秋〜おうちでエイヒレ

皆さんは、このことを覚えていらっしゃるだろうか。

あと1年と○○○日寝ると四十路に突入、さらなるおっさん街道まっしぐらな私が、ひょんなことからイカソーメンにとり憑かれた結果、夏の終わりにイカを干していたことを。

パリの抜けるような青空と、太陽の光を浴びてきらめきを放つ、愛らしいイカのコントラスト。令和のシュールレアリズム。

もはやこれはアート作品だなどと自意識過剰に語っているが、完成品も相当よかった。イカ臭に負けず、Otto氏の非難にも屈せず、美しいイカソーメンの形にならなかった以外は、自作乾きものレベルとしてかなりいい線をいく仕上がりとなったのだ。

ただ、どこの世界でもうまいものは一瞬にしてなくなる。酒処の肴と調理中のつまみにしていたら、1週間もせずにあとかたもなく消え去ってしまった。

また乾きもの難民になるなと思いつつ、「ベランダなくとも干物はできる」ことがわかった今。私に必要なのは、しかるべき素材発掘と、時間と労力がかかる「干物沼」に飛び込むためのちょっとの勇気。


そういえば、マルシェの魚屋に、ずっとずっと気になっているものがあった。例の如くボケている写真なわけだが、これだ。

Aile de Raie(エイのヒレ)

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これってあのエイヒレのこと・・・?

そういえばフランスでは、ビストロやレストランでもたまに、「Aile de raie poêlée」(エイヒレのポワレ)的なメニューを見かけるし、検索してみると、クックパッド的なサイトでも普通に作り方が出てくる。こちらはハーブとともにエイヒレをじっくりと焼き、ケイパーを効かせたバターソースをたっぷりかけた一品のようだ。


日本ではエイヒレといえばあの乾いたエイヒレ。炙ってちぎってマヨ七味つけてちまちま食べるイメージしかないので、こういう食べ方ってしないよなあ…と思いながらも、ずっとずっと気になっていた。


そして自家製イカソーメンがなくなり、乾きもの恋しさがピークに達した9月の下旬、ついに一歩を踏み出して、買うたのが、こちら。

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2ヒレで600gくらい。キロ単価はサバやいわしなどを除く他の魚たちに比べたら、ずっとお安い。

イカのときはさばき方や干し方のyoutubeがあってそれを参考にしたけれど、エイヒレは巨大なエイをさばくところから始まる感じで、そこはいらないんだな。youtubeって余計なパートが多いとイライラしてしまうタチなので、イカのときの応用でなんとかなるのでは?と、我流で進めてみることにした。

それにしてもご立派なヒレ。これで海を駆け巡っていたのね。

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よく洗って、皮っぽいものを剥がして、適当な大きさに切る。

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醤油とみりんを適当に合わせたものをジップロックに入れて、エイヒレたちを入れ、やさしく揉み込む。

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このまま冷蔵庫へ。身が厚いので、一晩つけてみることにした。

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翌日、一晩醤油みりん漬けにしたエイヒレたち。漬かっている感じ。
ていうかめっちゃ臭い。アンモニア臭ってやつだ。ステイホームでもマスク。

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イカのとき同様、取り出したるは鋭意なメタル串。
身の中心に狙いを定め、ひいふっとぞ射抜いたる。

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射抜いた小さな穴に、手芸用テグス糸を通していく。
白線流しみたいにして並べたら映えるかななんて邪念がよぎり、まずは数珠つなぎ状にしてみた。

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これで一度干そうとしてみたら、あまりに重量級でうまく干せそうにない。あえなく白線流し作戦失敗。

ということで、一度解体して地道にひとつずつテグスを通し直す。

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ここまできたら、あとは干すだけ。

先日大掃除をしていたら、ベッドの下から日本製の洗濯干しを見つけた。今回は不安定なハンガーでなく、こちらを使うことにしよう。

洗濯バサミがなぜかついていない分、テグスを簡単にひっかけることができた。もはや干物のためにあるのではと言っても過言ではないこのジャパン製洗濯干し(いや過言だろう)。

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本日のアートはこちら。

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「パリの曇り空を、エイヒレは泳ぐ」


でもこれ、イカほど映えないな。身のこなしが画になってしまうイカはやはりすごい。

さて、那須与一をきどる私だが、エイヒレ射抜きを失敗した例がいくつかある。この方たちは、ほかに身部分が厚すぎる部位もまとめて、漬け汁に酒と水と砂糖としょうがを足して煮つけにすることにした。

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一仕事終えたあとのランチに、白米とともに美味しくいただいた。

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さて、エイヒレ干しのその後。イカは3日も干せばカチカチになったのに、エイヒレの場合、そうは問屋が卸さない。

これが3日目の様子。まだまだ水分がのこり、ぐにゃっとしている。

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さらにこの頃は天気が悪い日が続いたので、なかなか外に向かって干すことができないというバッドコンディション。苦肉の策で、

居住空間に臭いが入ってこないように、日中はエントランスに干す
→Otto氏が帰ってくる前にタッパーにいれて密閉して冷蔵庫
→エントランスにファブリーズを吹きまくって証拠隠滅

というサイクルをかれこれ2週間近く続けて、ようやく乾きものと呼べるレベルまで、乾いた。

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ひとつあぶって味見してみよう。

日本で愛用していた、イワタニのガスボンベに取り付けるバーナーは持ってきたのだが、いかんせんガスボンベ本体がない。ということで、こちらでメジャーな縦型トースターに入れたら先端が焦げすぎてしまった。

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七味マヨをつけて、いただく。

うん、ちょっと甘味が足りないけれど、食感はあの珍味なエイヒレだし、なかなか美味しい。日本酒と合わせると、酒が甘味を補ってくれるから、最高だ。


研究成果は大体において、食べ物好きなパリの友人にも共有することにしている。例の如く、パリ深酒系友Aちゃんの家に持参することにした。

同じ日に持っていったのが、確か前にあげたような気がするけれど、自家製粕漬けアソートと着色うずらの卵、お月見バージョン。

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満を持してエイヒレを取り出したところ、家主Aちゃんがおもむろにスペイン産の炙り焼き器という素晴らしい器具を持ってきた。持つべきものは炙り好きな友。いやこれはテンションがあがる。

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あっという間に炙られてゆくエイヒレたち。

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お決まりのマヨ七味とともに、美味しくいただいたのであった。美味しいをさらに美味しくしてくれる友の存在に感謝だ。


今まさに天から降ってきたこのひとことで、今日は閉店することとしよう。

「かわいいは、作れる。エイヒレも、作れる」


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今日も今日とて、未知との遭遇

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