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そうだ、晴れたらアジを干そう
緊張感が絶えない割に刺激の少ない異国の田舎生活において、アドレナリンがもっとも出る瞬間は?と問われれば、私はすかさずこう答える。
日本の食材または料理に変換できるものに出会えたとき。しかも破格で。
この瞬間が訪れると決まって、肉より魚派のマリー=アントワネットが「なければつくればいいじゃない」と脳内でささやく。お決まりのコース。
長きにわたってnoteに残してきたこの「なければつくればいいじゃない」キャリアは、私の奇人性を説明するのに十分すぎるくらいだ。AB型でINFJでブルベ冬、世間的には希少人種のようですからねワタクシ。
せっかくなので少し抜粋しよう。
捨てられる運命のサーモンハラスを見つければシャケフレークに。
アンコウの肝を見つければあん肝に。
そして魚卵を見つければ明太子に。
ちなみに「なければつくればいいのよ」を冠したこの自作糸唐辛子の記事。
私のnoteの記事の中で一番ビュー数ってやつが多くて笑うじゃなかった泣ける。
掘り出しものに出会ってはしめしめとひとりキッチンにこもり、ムフフとひとり喜びを噛み締めているちっちゃな日本人。それをまるで異星人にでも出会ったかのような怪訝な目で見つめるフランス人(Otto氏)と、とりあえず私に従順な足元の俺🐶(マルチーズ、オス、9歳)、というのが我が家のお決まりの構図だ。
さて、時を戻してあれは6月の初めのころ。フランスに戻って迎える初めての日曜日、俺🐶とともに3キロ歩いて港の魚市場へ向かった我々は、出会ってしまった。そう、出会ってしまったのである。
キロ2ユーロのChinchard(アジ)に。
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キロ2ユーロなんて!?!?
飼い主のあまりの興奮に俺がドン引き。
迷う理由が見当たらない。買おう。
この際10キロくらい買い占めたいところだけど、どうせ食べるのは私ひとりだし冷凍庫も入れる場所がほぼないに等しい。生はちょっとね…リスクはとれまい。
俺のことを愛でている魚屋店主のムッシューに泣く泣く「中くらいのサイズを4匹」、オーダーした。
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中くらいといってもかなり立派なアジが4匹で1kgちょいだったみたいで、さらに1匹おまけしてくれた。俺🐶がかわいいからだと思う。グッジョブ俺。
結果、5匹で2ユーロのお会計。ごっつぁんです。
ルンルンを買っておうちに帰る途中。
ワクワクが止まらない道中。
空は雲一つない青空。
日中必ず数時間は雨が降る海沿いの街なのに、珍しく一日中晴れ予報。
何をつくろうか?
愚問だね、もうとっくに決まっている。
アジの干物(アジの開き)だ。
私は何を隠そう、ベランダ類が一切ないパリの極狭アパルトマンで、アジだってイカだってエイヒレだって干してきた女だ。
パリの窓際で出来た狂気。北フランスの庭でできないはずがなかろうが。
しかも、その日の朝、ちょうど実家から持ってきた川原泉先生の『笑う大天使』を読んでいたのだから、この出会いには偶然を超えた何かを感じざるをえない。ネコかぶりの主人公3人が仲良くなるきっかけ、それがアジの干物。マリーアントワネットどころか神の思召しとしか思えない展開。アーク・エンジェル!
アジ干し経験者。意外に簡単にできるの、知ってるんだもんね。
塩水を作って、アジをさばいて、塩水に漬けて、干す、以上!
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大きいボウルに塩分濃度10%の塩水をつくって冷蔵庫で冷やしておく間に、アジを腹からひらく。
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冷蔵庫で冷やしておいた塩水に2ユーロじゃなかったアジをいれて、冷蔵庫で1時間ちょい漬け込もう。
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さて、肝心の「干し」スタイル。
なければつくればいいのよ(特に魚)プロジェクトを行う際、もっとも対策が必要なのが、ニオイ。および、ニオイに敏感すぎる仏人つまりOtto氏(俺🐶は敏感でも好意的なので除外)。
がしかし!パリの鶏小屋(失礼)じゃなかったアパルトマンとちがって、北フランスのこの家にはベランダどころか庭もあるぞここは!田舎最高!!
ただ、単純に喜んでばかりもいられない。一難去ってまた一難、新たな敵がいるのだ。
ここでの敵は、匂いに敏感なヒューマンではない。うちの家の庭の塀に訪れては俺に威嚇されまくる近所のネッコと、うちの庭の花と果実をめがけて到来してはこれまた俺に威嚇されるトッリである。
庭の壁で井戸端会議する近所のネッコvs激オコするうちのイッヌ。 pic.twitter.com/YSqvB0SPVo
— ユイじょり (@YuiMilou) January 16, 2024
生身で干したらニオイにつられてヤツらがやってくること間違いなし。
ここで満を持して登場したるはこちら。
ひもの干し網である。じゃーん!
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日本帰国時、しかも今年じゃなくて一昨年の帰国ですでに、「きっと夏になったらなにか干したくなっちゃうかも・・・」などと予見して、日本のAmazonで買ってちゃっかりフランスに持ってきていたのである。これぞ我が特性を理解し尽くした先見の明!
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干すところならいくらでもあるけれども、おそらくウン十年前のこの家の建設当時からあるであろう物干し竿。風が強くて洗濯物は外に干せないので、まったく使うことなく邪魔で仕方なかったけれど、今ここであなたの本領発揮よ!
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海風のゆりかごに揺られながら半日じっくり眠りについたアジたち。
夕方ひきあげて表面を触ってみると、おおお!いい感じに乾いて弾力が出てますがな。晴天万歳。
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出会いの次に脳汁が出る瞬間。嗚呼この整列が見たかったのよ。
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アジの開き 第1夜 そのまんま
1匹イキの良い子を選んで今夜の献立に。残りはラップでおくるみして冷凍庫へいってらっしゃい。これで魚が恋しくなったら当分しのげるわ(感涙)。
さて、夜はイキの良いアジ子ちゃんをメインに献立を組もう。最初はやっぱりシンプルに焼きオンリーでいきましょうかね。
魚焼きグリルなんてものはないので、オーブンで。
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干物といえば大根おろし。干し網まで準備していたというのに、唯一の不覚。その大元の大根がない。
いくら完璧主義でも、そんなの無理なのわかってる。季節的に仕方ないんだ・・・。でも、これならあるよ。
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Q:なにこのチューブ、なんであるの?
A:母がずっと前に送ってくれた救援物資に入っていたやつだよ。
先見の明がありすぎるよママン。女神やアンタ・・・・・・。
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かくして、自作アジの開き定食を満喫することができた。
きっと昼間いい夢をみたに違いない。アジ、とても美味しかったから。
アジの脇をかためるのは、セロリの浅漬け、カニカマ&パセリ入り卵焼き、三陸生わかめ、ポテサラ、三陸ふのりのお味噌汁、信州の米。
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岩手に長野にと、故郷のものがふんだんに取り入れられているあたり、既に望郷の念を感じる献立である。とにもかくにも、やっぱり異国でむさぼる干物は最高、これに尽きる。
アジの開き 第2夜 混ぜご飯
時は流れ、7月に入りたての金曜日のこと。金曜おさかなデーにかこつけて、冷凍庫でカチンコチンの凶器と化したアジの開きを食べることにした。
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今日は少しアレンジを加えて、アジの干物ときゅうりと酢飯で混ぜご飯にしよう。オラ贅沢すっぞ!
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味見したらこれだけで酢飯できそうだったのでこれを使う
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メインにアジとくればなにか海の仲間も一緒に並べてあげようか。大好きなすき昆布を使った副菜を1品仕込むことにしよう。すき昆布と豚ひきの煮物。
すき昆布は、亡き祖母の旅館でも定番だったし母がしょっちゅうおかずで出してくれていたので万国共通だと思っていたのだけど、これって三陸郷土料理だということを知ったのはつい最近のこと。
日本に帰るたびすき昆布は補充してくる。海苔同様、軽くて嵩張らなくて最高なのだ。
私がテキトーにつくるすき昆布の煮物は、毎度気分によって具材は変えるけど、豚ひき肉としょうがはマストで。今日はにんじんと油揚げを加えようかな。
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油揚げも加えて水嵩が減るまで煮詰める
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見た目は地味だけど、酒のつまみにも最高。たまに卵とじにしたりご飯にそのまま混ぜ込んだりもする。おすすめの一品。
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てなわけで、アジの開きを堪能する2回目の夜。宴を開始しよう。
アジの混ぜご飯の周りには、ナスとズッキーニのお味噌汁、海苔とチーズの三角卵焼き、お口直しというかお口の刺激に白菜のキムチ風、そして最近ほぼ常備しているモツァレラチーズのだしわさび漬け。はー、なんだか日本にいる気がしてきた。
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そういえば混ぜご飯に薄焼き卵をいれようか迷ったけど、別立てにした。正解だったな。
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この街は、日本の地理的にも街の感じも私の生まれた三陸岩手の港町に似ていると勝手に思っているけど、あながち食べているものも近いかもしれない気がしてきた。でも、忘れないでここは北フランス。
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異国のはずれにいても、食べもので故郷を思い出せるのは幸せなこと。きっと地球のどこに住んでも、私は慣れ親しんだアジ、否、味を追い求め続けるのだろう。
やむなき追求心と度重なった偶然と、そして母娘の先見の明がもたらしたたくさんの幸運に、今日も乾杯。
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