【日本一周 九州編8】 もつ鍋の本場でもつ鍋を食べる
太宰府天満宮から博多駅までは、4ヶ月前に免許を取ったばかりの尾道が運転した。案の定、左折のカーブが大きすぎて曲がった先の右折レーンの車と向かい合ったり、博多駅のコインパーキングでの駐車にてこずったりと、ひやっとする場面に多々遭遇した。
しかし、運転に関するあれこれを横から口出しするのは賢明ではない。運転してもらっている手前、どれだけオブラートに包んでもどこかしら角が立ってしまう。しかも、これから1週間以上2人っきり過ごすわけだから、雰囲気が悪くなっては元も子もない。また、今後もたくさん旅行をしていく上で二人とも運転スキルがあった方がいいのだし、とやかく言って尾道の運転意欲を削いでしまうことだけは避けたかった。
結局、一番伝えたい気持ちとして、「おつかれさま、運転ありがとう!」とだけ口にした。尾道も今日の運転に参っているようだったから、わざわざ追いうちをかけなくてもと思ったけど、、、こういう、ある程度意識したい規範と本当に大切にしたい思いとが二律背反にあるとき、選ぶ言葉はほんと難しい。
博多駅ビル内にあるもつ鍋「笑楽」にやってきた。大戸屋みたいな内装の店内では各テーブルにひとつずつIHコンロが設置されていて、「さあさあみなさん、もつ鍋を食べてくださいね」という雰囲気に期待が高まった。とりあえず、スタンダードなもつ鍋を2人前を選択した。
注文をとったのは店長だった。彼は、仕事ができて、バイトにも自分は配慮ができているといったスタンスで「〇〇だけはちゃんとしろよな」と薄く威圧するタイプの体育会系の人物で参ってしまった。しかし、あとあと頼んだ〆の麺を、気を利かせて追加で足してくれたとき、「思えば自分はここでバイトしているわけではなく、客なのだから彼とも良好な関係を築けるのだ」と悟り、安心してもつ鍋に集中することができた。
時間を少し巻き戻して、もつ鍋がやってくるまでの間、尾道は九博のガチャガチャで手に入れた馬のはにわを溺愛していた。テーブルのさまざまなところに立たせてはパシャリパシャリと写真を撮っており、その推し活は「僕もガチャガチャを回すべきだったのでは?」と後悔させるまで続いた。
もつ鍋がやってきた。パエリヤ鍋よりやや深く、土鍋よりはやや浅い鍋に、こんもりと盛られたニラの芳烈な香りは食欲を刺激した。「ぐつぐつしてからお召し上がりください」という店員の言葉に、表面上は従順に、内面では荒くれる空腹をいさめながら火が通るのを持った。
そろそろいいかね、いいかね。あ、まだだ。うーん。もう、もういいかね。と互いに確認しあい、沸騰の兆しが見えたらばすかさずとり分けた。尾道がとりわけ終えるのを待つ時間は、おあずけをくらわされつつも、同慶のゴールテープを切るまで秒読みしているみたいでいい気分だった。
いただきます。
初めて食べるもつ鍋の汁は、モツの出汁の中に生姜、ニンニクががつんと効いていて美味しい。思っていたよりもさっぱりしていて、いくらでも飲み干せそうだった。けれども、〆の麺のためにスープは残しておかなければならないから加減しなければ。
モツもほろほろで言うことなし。ひとつの鍋を分けあうかたちだと、モツも均等に行き渡るように意識するから、ひとつひとつのありがたみがより大きく感じられた。めぼしい具材を平らげてしまうのはあっという間だった。〆の麺のために少しの具材を残してストップし、麺を注文した。先述したようにおまけの麺までもらって、二回戦とも平和で愉しい夕食を過ごすことができた。
駅ビルの丸善で古本市を開催しているらしいという情報を入手し、すぐさま向かった。開催エリアには十店舗ほどの古書肆が出張していて、困ったことに魅力的な美術展の図録がわんさか置いてあった。しかし、買った図録をこれから一週間以上も連れまわし、どきどきしながら機内持ち込み手荷物の制限内に収めて飛行機で持って帰るのはなんともなぁ。そのハードルを考えてもなお手に入れたいもの!という目で見ると、段々と冷静になってくる自分に気づかされた。よし、このままそっとここを離れればなんとかなりそうだ。できるだけ関東で買いましょうね、僕。
明石
・メンバー
明石、尾道
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