第三章 区役所時代⑭養成コース
吉永先生の言葉につられ、紀香はエアロビクス歴九か月で、貯金を崩してシャイニングのインストラクター養成コースに入校した。
養成コースの内容は、エアロビクスの基本動作、初級レベルから上級レベルまでのレッスンの構成、リードをとる技術、解剖学・運動生理学・栄養学などの背景にある知識まで、エアロビクスインストラクターに必要なスキルを幅広く学ぶものだった。土日に通うことができた。
養成コース一日目。紀香はシャイニング自由が丘店にやって来た。ここのスタジオが教室。紀香は主任講師の吉永先生から、よく来てくださったわね、と歓迎された。
紀香にとって、ここはとてもいいところだった。講師との距離が近く、時間を気にせずいくらでも質問できる。他人の批判や噂話をする人はいない。おおらかで、失敗を笑って許す空気がある。紀香が何回テキストを忘れて来てしまっても、吉永先生は「はいはい、しょうがないわね。このテキスト使いなさい」とテキストを貸した。
バレエもこんな雰囲気で習えたら、もっと続けられたはずだった。
生徒は全部で四人。最少遂行人数ぴったりだった。子育てが一段落した主婦、弓場(ゆみば)るい。身長百六十ニセンチ、最年長の三十七歳。シャイニング川崎店で働く若手男性社員、沼田友幸(ぬまたともゆき)。身長百七十センチ、逞しい身体を目指してトレーニング中だが、女性がするものだと思っていたエアロビクスの魅力にも気付く。栄養士の専門学校生、岩井久美(いわいくみ)。身長百五十六センチ、マッシュルームカットのカピバラのような二十歳女性、学生時代は薙刀部だった。紀香は久美と特に仲良くなった。
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