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「直感」文学

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「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
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2018年9月の記事一覧

「直感」文学 *都合の良い言い訳*

「直感」文学 *都合の良い言い訳*

 雨が降ったから、私の心まで濡れた気がする。

 なんて表現安っぽいか。だって実際には心は濡れてない訳だし、……というか濡れたのは頬。私の涙で湿った頬が、なんだかこの冷たい雨に沁みる。

 あーあ。
 こんなに簡単に終わっちゃう関係だったら、最初から始めなきゃよかった。なんて思うけど、そうもいかない。……ってさ、今更だから思うけど、最初の頃は分からないんだよね。どーしても。

 なんだか都合の良い

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「直感」文学 *マイホーム*

「直感」文学 *マイホーム*

 コンビニのお姉さんにそう伝えると、彼女は意図も簡単にダンボールをくれた。
「なに作るの?」
「秘密基地!」
僕はそう言いながらも、高ぶる気持ちを抑えていた。だけど、弟のスグルは少し体を揺らしながら、その気持ちを抑えられないようで、終始笑みを絶やさなかった。
「秘密基地?すごいねー」
お姉さんは笑いながらそう言った。

 昨日、テレビで家を綺麗にする(リフォーム?って言うみたい)番組を見た。
 汚

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「直感」文学 *あいつは白が好き*

「直感」文学 *あいつは白が好き*

 あいつはどう見たって白いものが好きだ。
 だってあいつはいつだって全身白い服を着ているし、一度部屋に行ったことがあるがその時だって全体が白に統一され、綺麗に片付けられた部屋だった。確かに幾つかの差し色はあったものの、それはCDコンポや、テレビなどの、おそらく白いものなど存在していないようなものばかりだった。
「白が好きなんだね?」
だから当たり前のように僕はそう聞いた。相手のことを少しでも知ろう

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「直感」文学 *凌駕*

「直感」文学 *凌駕*

 ずぶ濡れの中に、一つの模様を見つけた。……なんてことないもの。……些細で、気に留める程のものではないもの。
「ずっと見てました」
今になって思い出されるずっと前の言葉。耳の中でこだましては、どしゃ降りのそれに容易く呑み込まれてしまった。

 幸せにする。

 その言葉に嘘はない。……。
 ただ今はその言葉に自信が持てず、ささやかながら背徳の念が付きまとう。「ねえ、君は……、今幸せか?」

 何を

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「直感」文学 *みっつめ。*

「直感」文学 *みっつめ。*

 彼女がもう一人の誰かと電話で話している声が、隣の部屋にいる僕には聞こえる。

 ……いや、もちろん相手のことなど分からない。僕には相手のその声が聞こえる訳ではないし、電波にハックして相手の声を聞く術だって持っていない。
 ただ一つ、どうしても気になることがある。
 〝彼女が僕と話すその時よりも、随分と楽しそうなのだ〟

 僕の部屋には音楽が流れていた。
 僕の大好きなニルヴァーナである。彼らの轟

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長編小説『because』 51

長編小説『because』 51

「本当に最初から好きだった訳じゃないのよ。気に……なってもいないわ。だって、彼はストーカーだったのよ?」
「まあでも、結局あんたらはカップルになった訳だろ?」
「それは、結果的にそうなったのよ。いくら私でもストーカーだった人をいきなり好きになったりしない」
「どうだかな」
でんぱちが私から視線を離し、賑やかな、人の集う商店街の方に顔を向けた。ほどよい人々の会話が耳に届くけど、何を言っているのかまで

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「直感」文学 *恥*

「直感」文学 *恥*

 小銭が落ちた音が聞こえたので、振り向いた。
 そこには小銭なんか落ちてない。
 落ちたのは、ちょっとした「恥」でした……。

 後になってみればどうでもいいことなのに、なぜかその時ばかりは穴があったら入りたいくらいの心情に駆られてしまう。
 穴なんかないのに。綺麗なくらい、穴なんかないのに。

 少ししたら夜が明けるようです。
 そしたら「恥」は晴れるでしょうか。
 世界を照らす光は、「恥」をか

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「直感」文学 *未来の玉*

「直感」文学 *未来の玉*

 私は過去の遺物。
「過去ではなく、未来に生きないと」
そう言ったのは母。私より過去に生まれ、長く生きているはずの母は私を見てそう言ったのだった。
 私はただ、現在にあるものより過去の産物に憧れを抱くだけ。そこに憧れを抱いたところで、別に何の不自由もない、誰に迷惑をかける訳でもないし、私自身だってそれに納得しているのだからいい。
「置いていかれるわ、未来を見ないと。過去に縋るってことは、自らが死を

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「直感」文学 *日常の毒*

「直感」文学 *日常の毒*

 テレビから吐き出されるのは決まって暗いニュースばかりだった。

 直之(なおゆき)は、こういったニュースを見ると心の底から元気を失う。……まったく、感受性の豊かな人というのは随分と面倒な人生を送らなければいけないのだな、と私はあくまで客観的に思った。

 彼は、そんな世の中のニュースから逃げるようにしてヘッドホンを付け、目を瞑ったまま項垂れていた。私は彼に声をかけようと思うけど、正直、掛ける言葉

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「直感」文学 *一時の帰省*

「直感」文学 *一時の帰省*

 里へ帰ったのは、まだ肌寒い季節だった。緑の多い景色には、どこか東京にあるビル群のそれと似ているように思えたけど、そんな思いも一瞬にして消え去ってしまう。ここには人の喧騒がない。あたふたと慌てふためく雰囲気もない。どこか人を急かすような追っ手も来ない。ただ静かに佇む静寂と、私を受け入れようとしているのか、それとも拒絶しようとしているのか、それだって定かではない虚無な感情を持った森が私を見つめていた

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「直感」文学 *最中に思う*

「直感」文学 *最中に思う*

 激しく降る雨の音で起こされた。
 なんだか少し憂鬱。だけどなんで憂鬱なのか分からない。……きっと雨に起こされたりなんかしたからかな、なんて思っているけど、そんな”かりそめの理由”なんてほとんど意味を持たなかった。
「あなたいつもそうやって嫌なことから逃げてばかりだからダメなのよ」
お母さんと喧嘩するのは、珍しいことじゃない。っていうか、最近はほぼ毎日のようにしている。たかだか進路の話じゃない。成

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「直感」文学 *みーつけた*

「直感」文学 *みーつけた*

「みーつけた」
 どこからともなく、声が聞こえた。生暖かい吐息を含んだ、生を直に感じられる声だった。
 僕はその声を聞いて、意味もなしに焦ってしまう。
「ああ!見つかっちゃった!」
 咄嗟に口から吐き出される声は、自分のものだとは思えないくらい現実味がない。慌てて振り向いたそこには誰もいない。

 もう分かってるはずだった。そんなこと。この体験を僕は何度もしているじゃないか。そう自分に何度もいい聞

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「直感」文学 *道端に椅子*

「直感」文学 *道端に椅子*

 ある晩、散歩をしていると道端に椅子が捨てられていた。
 もし今一人で歩いていたなら僕はこの椅子を持って帰っていたに違いない。……それはただ道端に置かれていただけで捨てられているのかも定かではなかったが、深夜のこの道で、もちろん周りのお店と思われるそれらは全てシャッターが閉められている。通りすがりの人の休憩スペースにも見えない。だってその椅子はどう見てもその道端とは調和しきれていなかったから。突然

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