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長編小説『because』 51

「本当に最初から好きだった訳じゃないのよ。気に……なってもいないわ。だって、彼はストーカーだったのよ?」
「まあでも、結局あんたらはカップルになった訳だろ?」
「それは、結果的にそうなったのよ。いくら私でもストーカーだった人をいきなり好きになったりしない」
「どうだかな」
でんぱちが私から視線を離し、賑やかな、人の集う商店街の方に顔を向けた。ほどよい人々の会話が耳に届くけど、何を言っているのかまでは全然分からなかった。何かを言っているはずなのに、何を言っているのか分からないというのは酷くもどかしい。この気持ちは私が彼と一緒にいる時間によく感じていた気持ちだった。目の前に彼は確かに居るはずなのに、私はなんだか独りでいるような気持ちになる。彼と一緒に住んでいる家のはずで、夜になれば間違いなく彼がここに帰ってくるのに、私はこの家に元々独りで住んでいたという感情を、それこそ毎日のように感じていた。彼が私に何かをした訳でもない、だから、私に原因があるのかもしれない。そんな感情が私に備わっているなんて思った事ないけど、実は酷く寂しがりやの人間なのかもしれない。
「一人……いるかもしれない」
「ああ?」
言葉は私の意識しない所で洩れた。まだ記憶が曖昧なままで、その人をちゃんと思い出す事ができていないのに、口は先走り、その言葉を漏らした。
「だから、一人知ってるかもしれない。彼の友達」
「かもしれないってなんだよ。思い出したんじゃねえのか?」
「今……思い出しているのよ」
「おいおい、俺にはあんたの言ってる意味がよく分からない」
「もうちょっとなの……」

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