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「直感」文学 *道端に椅子*

 ある晩、散歩をしていると道端に椅子が捨てられていた。
 もし今一人で歩いていたなら僕はこの椅子を持って帰っていたに違いない。……それはただ道端に置かれていただけで捨てられているのかも定かではなかったが、深夜のこの道で、もちろん周りのお店と思われるそれらは全てシャッターが閉められている。通りすがりの人の休憩スペースにも見えない。だってその椅子はどう見てもその道端とは調和しきれていなかったから。突然田舎の学校へ転校してきた東京の男の子くらいの違和感があった。
 ただその時僕は一人ではなかった。
「あの椅子いいな~」
ふと、特に意味もなく発した言葉に過ぎないのに、隣を歩いていた彼女は〝キッ〟とした目を向けて、
「ダメ!絶対ダメだよ!」
とすごい剣幕で言うのである。
「え、なんでそんなに反対するの」
僕は相変わらず気の抜けたような声で返すと、
「椅子ってなんかダメなんだよ。捨てられてるものを持って帰ると……、なんだろう、呪いみたいな、そういうのがあるって聞いたことあるから」
「なんだそれ」
僕は簡単に笑飛ばす。
 まあさして欲しい椅子でもなかったことに、僕はそこでようやく気付くことが出来た。僕たちはその椅子を簡単に通り過ぎて少しずつ離れていった。
「呪いって、笑っちゃうよ」
「とにかくダメなの、絶対ダメなの」
あの椅子にどんな呪いがかけられているのだろう、そんなことを考えながら僕たちは帰路に着いた。
 翌日、またその道を通った時、もうそこにはあの椅子はなかった。

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