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「直感」文学 *あいつは白が好き*

 あいつはどう見たって白いものが好きだ。
 だってあいつはいつだって全身白い服を着ているし、一度部屋に行ったことがあるがその時だって全体が白に統一され、綺麗に片付けられた部屋だった。確かに幾つかの差し色はあったものの、それはCDコンポや、テレビなどの、おそらく白いものなど存在していないようなものばかりだった。
「白が好きなんだね?」
だから当たり前のように僕はそう聞いた。相手のことを少しでも知ろうとするのは、ごく自然なことだと思う。
「ううん、別に。白なんて全然好きじゃない」
あいつはそう言ってあっけらかんとしている。好きじゃない?嘘だろう?僕は純粋にそう思った。

 僕として考えてみる。
 僕は白色というものをある意味で敬遠している。例えば洋服、白は汚れが十分に目立つせいで、長持ちしない印象がある。それが黒であれば許されるはずの汚れが白では許されない、というのは周知の事実だろう。だから僕は白い洋服などほとんど持っていない。インナーに着用するタンクトップくらいなものだ。自分の部屋のクローゼットを確かめてみると、そこは黒ずんだ真っ暗闇が存在していたのだった。……ほとんどが黒い洋服である。
 他のものにしたって同じことだ。白はすぐに汚れる。その印象が強いせいで、白以外の選択肢があるとするならば、まず僕が白を買うことはない。

 そういえばあいつはソフトクリームが好きだ。ソフトクリームを目の間にすると異常なまでの興奮を見せ、そしていつも決まって頼むのは「バニラ」であった。僕はチョコである。……こればっかりは汚れなど関係ない、僕はただ単に昔からチョコ味が好きなのである。
 白いバニラ味のソフトクリームを頬張る姿を見ながら、やはりこいつは白が好きなのだと確信する。
「ねえ、やっぱり白が好きだよね?」
唇に白いクリームが付いたままのあいつは、「白?全然好きじゃないよ。色だったら……、どちらかと言えば黒の方が好きかな」
なんて抜かすのである。「だって白いものばっかり持ってるじゃないか」
「え?そうかな?」
僕はあいつが持っている白いものを思いつくところから順に羅列していった。
「ああ、ほんとだ。……うーん、なんていうか、迷ったら白にしちゃうんだよね。それは別に好きとかじゃなくてさ、なんか安全な色って言うか……、もし他の色が入ってきたとしてもバランスを崩さないって言うか……」
僕は納得出来なかった。僕はどうしてもあいつに「白が好き」と言って欲しかったのだ。
「でも、あなたは黒が好きよね?」
そう聞かれ僕は驚いた。え?黒が好き?
「別に。黒なんて好きじゃないよ」
僕はそう答えていた。

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