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市川

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市川のショートストーリー
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#短編小説

高校時代

高校時代

とにかく不器用だった。
小、中と9年間やっていた野球は1度もレギュラーになれなかった。

高校進学後、これなら自分にも出来そう、と卓球部に入部した。

必死に練習を重ねた。
何度も何度も小さい玉を打ち続けた。
何度も何度も小さい玉を打ちすぎて壁に穴が空いた。
そこにハムスターが住みだした。

練習試合では48連勝という偉業を成し遂げた。
誰もが優勝を確信していた。担任の先生や顧問、近所の八百屋の肉

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金目鯛

金目鯛

新橋から自宅方面の上野へ向かうタクシーの中で、市川は心地よい振動に身を委ねていた。

決して心地よい空間ではなかった。
タクシーに入った瞬間漂う消臭剤とアルコールの臭い、それに負けない主張を続ける悪臭は、つい数分前の客が残していった赤ワインの嘔吐物だという証拠には、充分だった。

しかしその数秒後、市川は喉の奥からいびきをかきながら、深い眠りにつきだした。

ー無理もない。木曜日に引越しのアルバイ

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寿司

寿司

土曜日の夕方、市川は寿司屋にいた。

市川の実家の富山では、魚料理には困らなかった。

富山湾の形が魚をおびき寄せ、まるで生け簀の様に旬の美味しい魚が集まる。
東京に来て、急に魚が食べたくなり、新橋の寿司屋にやってきた。
新橋には、安くて味の肥えたサラリーマンを唸らす名店がいくつもある。
これは動物園のバイト先の佐々木さんが教えてくれた事だ。

カツオ、鯛、白魚、ホタルイカ。。

ホタルイカはツ

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お年玉

お年玉

土曜日、市川は質屋にいた。
前日、アルバイトとして働く動物園で、初めてうさぎのエサやりイベントという大役を任された。

うさぎの扱いは難しかった。柵の中から捕まえるのは一苦労だ。捕まえたかと思えば、赤い瞳でじっと見つめられるとどうすればいいのか分からなかった。
その更に数時間前の、とあるバイト先で得た戦利品をお金に替える。

ポケットにパンパンに入れた戦利品を質屋の川崎という男に渡す。
ずっとサン

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スーパーヒーロー

スーパーヒーロー

3年前。
市川は一人の女性と出会う。

彼女は今まで出会ったどの女性よりも可愛く、不思議で、面白く、魅力的だった。

すぐ好きになった。

こんな女性に出会った事が無かった。
だからあっという間に彼女に夢中になった。
知れば知るほどどんどん好きになっていくし、
知れば知るほど自分とは住む世界が違う事を理解した。

育ってきた環境が違った。

環境のせいだろうか?
考え方の違いか?

彼女がもらした

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