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クッキーすら焼けない女の挑戦。

料理が苦手で、嫌いで、ご飯作り担当を降りた私。

全然やらないおかげで、やってみようと思っても何かを見ないと何も作れない。

何を入れるとどんな効果があって、何が足りないとどんな味になって、何をどのくらい入れるのが常識で。

そんなのも全然わからない。

だから"手抜き"という行為もできないし、"適当に作る"という行為なんて神業だと思っている。

カレーを作るにもルウの箱を見ないと不安だし、インスタントラーメンですら説明書きを見る。

得意料理の"何の変哲もない春雨サラダ"だって毎回メモを見る。

得意料理が"何の変哲もない春雨サラダ"というのも恥ずかしい事らしい。

同窓会だったか、学生時代の友人の結婚式だったかで懐かしい顔ぶれと集まった時、得意料理が春雨サラダだと胸を張って言った。

…え?ちょっと分からんわ。都会ではそれがお洒落なん?

と、言われた。

そんな私も今年34歳になる。

この年始にほろ酔い(私だけ)で開催した家族会議で、不妊治療はもう辞めると決まった。

子どもを産んであげることもできず、美味しいご飯を作ってあげることもできず、お金をたくさん稼いであげることもできない嫁になってしまっている。

こんな女がなぜ結婚できているのかが謎だと思う人も居るだろう。

私もそう思う。

だからといって、ご飯を作ろうともなかなか思えない。

おケツの重さがえげつない。

ぶん殴ってやりたいと思う人も居るだろう。蹴ってやりたいと思う人も居るだろう。

私もそう思う。

しかしながら、自分で自分を殴ってみたところで、どうしても手加減してしまって上手くいかない。

じゃあ誰かに殴ってもらえばいいじゃないかと思う人も居るだろう。

私もそう思う。

でも、痛いのは嫌い。


そんな時、アマゾンプライムでイギリスの料理コンテスト番組「ブリティッシュ・ベイクオフ」を見始めた。

昔、BSか何かで少しだけ見た事のある番組で、おぉ懐かしいじゃないかと見始めた。

ブリティッシュ・ベイクオフとは…
事前オーディションで選考されたアマチュア料理家(番組内では「ベイカー」(Baker)と呼ばれる)たちが、毎週与えられるテーマに沿ったパンやパイ、ケーキや焼き菓子などの出来栄えを10週に渡って競い合う番組。(Wikipediaより引用)

海外ドラマは見るものの、海外のオーディション番組やリアリティ番組的なそういう類のものはあまり好きではなかった。

でも、この番組はとても面白い。

見たことも聞いたこともない名前のパンやお菓子が普通にどんどん出てくる。

日本人の私にはよくわからないジョークが司会のコメディアン2人(メル、スー)からどんどん出てくる。

アマチュアに向けたとは思えないような辛口評価が審査員のポールとメアリーからどんどん出てくる。そこまで言う?的な。

ベイカーさんたちはアマチュアということもあり、失敗したりテンパったり泣いたり、ハプニングがたくさん。

司会のメルとスーはそんなベイカーさんたちを慰めたり励ましたり、そんな事まで?と思うくらい手伝ったり、大丈夫?と思うくらいつまみ食いしたり、たまにやらかしたりする。

お菓子やパンの歴史、それが生んだ文化なども紹介してくれたりもする。

見る側は応援する人が自分の中で自然に決まっていたり、感情移入してしまったりして脱落者発表の瞬間は力が入る。

とにかく面白い。

ベイカーさんには男の人も女の人もいる。学生さんもおじさんも主婦もサラリーマンもいる。ルーツや嗜好や生き方も様々な人がいる。

当たり前のようにいろんなジャンルの人が同じ目標に向かって切磋琢磨して、当たり前のようにみんながどんどん仲良くなっている。

そういうのも見ていて気持ちが良い。

捻くれた見方をすると、番組側が意図的にいろんなジャンルの人を選んでいるのかもしれない。それは分からない。

でも、ベイカーさん達本人はそうじゃないはず。

そうするべきだからそうしているんじゃなくて、それが当たり前であるという空気がとても良い。いやらしくない。

お国柄とかもあるんだろうか。


そんなことはさておき。

ずっとそれを見ていると、ふと「お菓子作りってそんなに夢中になるほど楽しいものなんだろうか」と、疑問が生まれた。

同時に「そこまで全力になれるって羨ましいな」という憧れも。

そして、全力になれる事が何かに繋がっているという、自分には無いものを持っている事へのほんの少しの嫉妬も。

よし、そんなに楽しいなら私も何かをベイクしてみようじゃないか。

と、思い立ったのはとても安易な考えなんだろう。

しかし、思い立ったが吉日。何かを作ってみることにした。

といっても、何もわからない。

これには確かアレとアレを使うんだよな。的な、ざっくりイメージも全く無い。

文字通り、ゼロからのスタート。

思い返してみると、小学生の頃に手作りクッキーを友達から貰ったりしたような気がする。

ということは、クッキーはお菓子作りの入門なのかもしれない。

と、クッキーにたどり着いた。

レシピを調べてみると、材料もすぐに揃い、手順もそこまで多くなさそうだった。

「よし!嫁がこれからベイクするぞ!」

と、珍しく洗い物と掃除以外でキッチンに立ち、バターや砂糖や小麦粉を手に取った。

何度もスマホを見ながら、まぜまぜしたりこねこねしたり型を抜いたり。

もちろんクッキー型なんてものは家には無く、お猪口で代用。

手つきはまるで小学生のようだった。たぶん。

オーブンに入れ、徐々にクッキーの見た目になっていくそれらを10数分の間ずっと眺めた。ベイカーの気分。

ちょっと感動した。

出来上がった私のファーストクッキー。

なんかちょっと思ってたのと違う。というのが第一印象だった。

黒っぽいし、凸凹しているし、ちょっとかたい。

味は美味しい。でもなんだか味が遠い。

簡単だと思っていたクッキー。

たかがクッキー。

されどクッキー。

次の日、もう一度材料の比率を変えてセカンドクッキーを焼いた。

味が少し近付いた気がした。味のクッキーらしさアップ。

ただ、黒っぽいし、凸凹しているし、ちょっとかたい。

クッキーを焼こうと思えばすぐに焼けるけれど、ちゃんと焼こうと思うと奥が深いな。

なんて思うのは100万年早いんだろう。

3日ほど時間を置いて、もう一度。

いくつか失敗原因を勉強し、取り組んだ。

焼き上がったサードクッキーは一番クッキーだった。

サクサク、ホロホロ、バター香るクッキー味。

ようやくクッキーと呼べそうなものが完成した。

ただ、まだ理想よりも黒っぽいし、凸凹している気がする。

見た目がちょっとアレだな感を隠す為、トラの瓶に入れておいた。

トラは完璧なかわいさ。

次は何を作ってみようかと考え中。

最終的にはマカロンやエクレア、パンも焼いてみたい。

こんな私がそんな大きな事を言って、メアリーやポールに怒られないだろうか。


何はともあれ。

ブリティッシュ・ベイクオフがクッキーも焼けない私のおケツを持ち上げてくれたと言っても過言ではないだろう。

2022年4月からEテレでも放送開始されるとか。

もう一度見てもいいかもしれない。


旦那さんは、せっせと不味いクッキーを何度も焼きテーブルに並べる嫁を見て少し嬉しそうだった。

大きな喜びは作り出せないかもしれないけれど、小さな"楽しい"を日常の中にコロコロと転がして生きていくことなら私にも出来るんじゃなかろうか。

なんて考えてみたりした。



今日の一曲:home/LOST IN TIME

今日もすきだぞー!

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