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私が食べたのはパフェじゃなくて音楽だった

代々木上原にあるパティスリー ビヤンネートル(BIEN-ÊTRE PÂTISSERIE)さんのパフェを初めて食べたのはいつだったか忘れてしまったが、その時の気持ちは今でもありありと思い出せる。

誤解を恐れずにそのままの言葉で言うなら、
「なんだ、これは…?」なのであった。

果物の美味しい時期だしそういうの食べたいよね、なきっかけだった気がする。
もしくはTwitterか何かでアサコイワヤナギのパフェを見てときめきまくり、「ちょっといいパフェ」欲が募りまくっていたかもしれない。
パフェの美味しいお店を探し、当時住んでいたところから比較的アクセスしやすいこともあって向かったのがビヤンネートルさんだった。

そのとき頂いたのは、キウイのパフェ。
なのだが、キウイのあとエルダーフラワーとアールグレイと続いている。キウイと、エルダーフラワーと、アールグレイ…?全くもって未知で、ワクワクしながら席を予約した。

ちなみにもしよかったら、是非、こちらをはじめパフェ詳細の解説をご覧になっていただきたいです…みずみずしい文章に想像力を掻き立てられるのに、組み合わせの意外性がゆえに全く味わいの想像がつかなくて本当にドキドキする。
予約を取りたくてLINEを登録していると次月のパフェの様子が描かれた文面が届くのだが、もはやそれすら楽しみなのだ。

話を当時に戻す。
いざ対面したそれは、素晴らしいビジュアル。
弾けんばかりに鮮やかな黄緑のキウイが眩しくてたまらなかった。透明な飴細工もつるんとした焼きメレンゲも、今まで見知ってきたパフェには存在しなかった。

そして、口にしたそれはあまりにも不思議で、あまりにも豊か。キウイの味はそのものでも素晴らしいが、恐らくは香り高いシロップを纏っているからかフルーツとしてのポテンシャルがびっくりするほど拡張されている。食べ進めると柔らかな果肉、サクサクのメレンゲときて滑らかなアールグレイのジェラートがお目見えする。キウイと紅茶の組み合わせなんておよそ考えたこともなかったけれど、これが素晴らしかった。別ベクトルの爽やかさが出会って、なんというか発明だった。スプーンを運ぶごとにいちいち驚いては悶絶し、そんな私たちのまわりをグラニテのジンの香りが吹き抜けていく。

信じられない出会いを一皿に展開し、一口で味わうには恐れ多いほど複雑なのに均整が取れていて調和そのものを感じる。味だけでなく歯触りも計算ずくで、一口ごとに異なるものを食べているみたいだった。例えるなら、色味とテイストを揃えてはいるけど一着一着のデザインが纏う人によって変わっている衣装のようと言えば良いだろうか…。かつてない「体験」は、パフェを食べるという行為から予想される知覚の全てを遥かに上回った。

それ以来ビヤンネートルさんのパフェのファンだ。概念としてのパフェは以前から大好きで、ファミレスのそれも自宅で作るそれも大体それはそれは美味しく楽しく食べている。
が、ビヤンネートルさんのフルーツパフェは食べ物を超えて体験だと思っているため、お店に行くごとに新しい旅をさせてもらってるような気持ちにさえなる。

さて、先日のバレンタインデー。
私からはチョコレート大好きな夫宛にビューティーコネクション銀座フルーツサロンさんのデザートコースをプレゼントした(当然私も美味しくいただきました)

ちなみにここのお店もTwitterで知った。ありがとうTwitter!私はつねづね、情報を食べている。

メインとなるのはチョコレートのパフェなのだが、後から知ったことだがなんとここのパフェはビヤンネートルの馬場さんというパティシエさんが監修されているとのことだった。その事実を前に心躍るわたしたち。

コースはとても素敵だった。スフレオムレツはまったりしたムースのようなチョコソースと相まってふわふわの食感がより一層引き立っていたし、ふた皿目のボネは濃厚で香り高くドッシリと滑らかなチョコレートプリンと、そこに絡まる赤いフルーツたちのみずみずしさたるや、水分を閉じ込めた宝石みたい。声を潜めて美味しい…と言ってしまった。

そして、パフェ。
ベルギーチョコレートのジェラートにまず心を撃ち抜かれた。こんなに、甘美なチョコレートアイスがあるなんて。ビヤンネートルのパフェにいつも想う、一口ずつ異なる味わいの魅力が今回も炸裂していた。時に乳製品のコクがメインとなり、時にラズベリーの食感が楽しく、時にキャラメル風味のパリッとした部分の香りが麗しい。
それだけでなく、甘酸っぱくてほろ苦いカカオの果肉をふんだんに使ったフルーティなソースがたまらない…!1番下の層までたどり着くと先程のチョコレートのマッタリとした濃さはどこか遠く、南国のフルーツ特有の爽やかさ、概念そのもののような風味たちが飛び込んでくる。しかしながらその味わいは決して「チョコレート」の甘さを否定するものではなく、むしろ際立たせてより記憶の中で甘く感じるくらい。発明であった。

わざと空白を多くしてひとつひとつのマテリアルが重なり合うのを楽しめるような設計と書かれているのを見た時、あ、音楽みたい、と思った。
ひとつの曲として完成しているけれど、そこに含有されるエッセンスは古今東西の音の記憶が時にわかりやすく、時にニュアンスとして現れては私たちの心を揺さぶる。休符、ないし空白というのは決して「無」ではなく、それもまた曲を構成する要素として他の音たちと絡み合って解けてリズムになるのだ。

あぁ、私があの日食べたものはパフェではなく音楽だった。紛れもなくそう思う。ビヤンネートルのパフェはもはや音楽だと、これからは誰かに勧める時に言ってみようと思いながら銀座を後にしたのだった。

ビヤンネートルのパフェ、大好き。

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