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Afterコロナの学びをデザインする#2

最初にお読みください

このnoteをお読みくださり、ありがとうございます。最近多くの先生方と語らう機会が増えてまいりました。少しでも現場の先生方が、子どもたちのために、より未来志向な学びをお届けしやすくなれるようにと思い、作成しました。

私は、教員をしながら、関東圏の学校様のICT改革のお手伝いをしています。多くの学校で遠隔授業がスタートし、手探りで子どもたちの学びをサポートし始めた日本。

そんな中、現場で本当に多種多様な問題に、タッグを組んで立ち向かっていらっしゃる先生方には多くのことを教わります。この記事では、Afterコロナのパラダイム変化で展開される教育の、ヒントとなる情報をお伝えできれば幸いです。

#1 開疎化する日本と学校ではマクロな視点から、この有史以来稀に見るパラダイム変化を見つめました。駄文を綴ったにも関わらず、多くの温かいご意見をいただいたことに感謝し、また恐縮ながらも、この急激な変化をミクロな視点からも考えてみたく、このNoteにもお付き合いいただきたいと思います。

このNoteを読むことで得られること。

・教育業界以外の方・・・Afterコロナにおける教育業界の様子を、マクロな視点とミクロな変化を掴み、現場の苦悩を想像することができます。
・教育業界の方・・・withコロナ期の今、遠隔授業がどんな位置付けであるか、また何を目指し、備えるべきかを整理することができます。
・保護者の皆様・・・子どもたちにとって、先行きが見えない学習環境が、遠隔化によってどのような視点で変わってゆくのかを捉え、考えることができます。

これより文調を変え、述べていきます。

遠隔授業の行き着く先

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遠隔授業について話題が尽きない。今、学びを止めないことがクローズアップされ、手探りでできることをしていくことの具体例がシェアされている。これは日本が、子どもたちのことを願う愛ある教育者ばかりであることの裏付けであり、甚だ素晴らしい取り組みだ。

だが、遠隔授業を行うことが目的ではないことも注視しなければならない。遠隔授業の先には、個別最適化を目的とした一方向教材、双方向授業を組み合わせたハイブリッド型授業が存在し、そこでは対面授業では実現しなかった「不完全さ」が多少是正されている。ここまでは日本国内でもイニシアチブを握る学校が数校存在する。

このWithコロナのパラダイムがそのさらに先、経済的状況や教員のレベル差による恩恵の差分が極小化された「公平最適」の境地が実現すると筆者は考える。その世界観では、まさに、「ニューノーマル」な学習指導が実現していることと期待する。

本Noteでは授業の形態とその位置関係や課題観を考えることから学習指導の未来を考えたい。

遠隔授業の特徴

さて、早速遠隔授業の特徴を見ていこう。

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遠隔授業の弱みから述べる。

(1) リアクションが不透明・・・一方向だろうが双方向だろうが、圧倒的に子どもたちの反応が分かりづらい。手元で何をしているのか、理解をしているのか、聞き流しているのか、授業者にとって、この現実はかなり不安を抱く部分であろう。

(2) 通信環境配慮義務・・・子どもたちの家庭での通信環境は十人十色である。携帯で受講する家庭、PCで受講する家庭、様々であるが共通していることは、映像・音声の問題だ。ハウリングはその代表例であり、映像が途中で映らないなど、端末の設定で如何ともし難い状況が多発する。

(3) 状況把握コスト高・・・誰が参加していて、誰がいないのか、今その子どもが何をしていて、本当に授業に参加しているのか、どんな不具合があって、どのようにすれば授業に参加できるのか。はっきり言って、授業者だけでなんとかするのは不可能だ。授業者は授業に集中し、問題解決のためのバディを擁立することをオススメする。

(4) 同時に話しにくい・・・当たり前であるが、授業者が話している間、生徒が話すことができない。対面授業の時よりも、「かぶる」ことが億劫になり、「次、誰が話すの」という空気感がなんとも言えない。心理的安全性を踏まえ、話す順番などをファシリテートする必要がある。

(5) 小テストの厳格性の崩壊・・・最もオーソドックスなアナログ小テストでの成績処理は向いていない。画面外で子どもたちがカンニングができる環境にあるため、俗にいう考査のようなものは厳格には実施できない。だが端末で調べることを許し、調べても出てこない問を設定するか、成績に入れず、ただの練習機会の創出に的を絞る小テストを行うことは可能だ。

さてこれらの弱みを補って余りある強みが存在する。

(1) 同時接続数多・・・これは今までのClose - Dense モデルにない革新性だ。数百人同時に授業することができるようになった今、ヒューマンリソースをどのように使うか、ワクワクが止まらないところだ。出欠などの把握は工夫し、質疑応答など、対話的配慮に人員をさけるだろう。また、保護者会や全校朝礼などもこれによって可能となる。今まで忙しい時間を繰り合わせて行なっていた授業公開も、これを機に遠隔にしてはどうだろうか。もっというなら、学校公開も遠隔で行えば、日本全国から募集をかけることもできるだろう。

もっとも、見られてはまずい授業など、日頃からしていないわけなので、「公開」できない学校などないはずだが、なぜかまだ「WEB公開授業」は皆無に近い。今夏からオンライン学校説明会の波は間違いなく来る。

(2) 役割分担のしやすさ・・・(1)により、役割分担しやすい環境にある。極端に言えば、スーパーカリスマ教師が全ての学年で動画・映像や双方向で授業をすれば良い。これは楽をすることではない。「適性」の話だ。

皆さんはなぜ「全員」が遠隔授業をしなければならないとお考えになるだろうか。卓越したノウハウを持つ教員のコンテンツ力を使って、対話に適性がある教員は質疑応答に集中することができれば、チームとして全ての学年を高いクオリティでカヴァーできる。この発想を用いると、教科担当の輪を一気に広げることが可能となり、教科指導の幅が広がる。

また、担任業務に特化した教員がいても良い。万能型が求められる教育現場において、特化型教員の誕生が歓迎される文化ができるかもしれない。

(3) 場所を問わない・・・まさにWithコロナである。家から、カフェから、公園から。好きな場所から学びに関わり、好きな場所から発信する。Afterコロナでは働き方は全ては元に戻らないだろう。出席とは学校にいくことだけではないのだ。不登校という概念はもはや過去の異物になるだろう。

(4) 録画の手軽さ・・・Google Meetは強烈である。録画したデータは即座にクラウドに保存され、あっという間に生徒に共有できる。もしも家庭の都合や通信環境に起因する理由で授業に参加できなかった場合、アーカイブされたデータによって補填できる。またこれはあとでも述べるが、「公平最適」へ通ずる入り口だ。

(5) 共有のしやすさ・・・今までは授業担当者が等しく作ってきた教材が共有されるようになる。しかも、圧倒的にリーズナブルに。つまりは「質の低い教材」をもう使わなくて良いのだ。隣のクラス・隣の学校の先生の作った最高の教材を、私も使って、その代わり、授業構成や質疑応答や個別対応味を出す。教材の戦国時代が幕を開けるのだ。

長くなったので再度確認する。これらの強みと弱みを把握し、先生方自身の適性を理解し、弱みをいかにカヴァーし、強みに焦点を当てるのかがポイントとなる。

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遠隔授業のタイプとアイディア

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教育業界の方々は、各位の学校におけるリソースによって上図のいずれか6タイプの中から選択、または組み合わせてご指導されていることと思う。一方向はアーカイブされたデータを用いる手法で、双方向は映像音声通信ツールを用いる手法だ。概して特徴はこのように整理されるだろう。

遠隔一方向授業

(1) 「課題」形式では、ホームページや手紙、保護者メールなどで指定の期間中の課題を指示するものだ。現存の仕組みで行うことができ、生徒側に最もコストがかからない方法だ。だが一方で、学校が関わる良さがほとんど感じられない、無機質なものとなりやすい。

(2)「映像」形式は、ICTに疎い先生でも映像をとってアップロードするだけの、手数がかからない特徴を持っている。編集がほぼいらない代わりに、だらけないようなテンポキープと精講が求められ、またほぼ一発で撮り切る必要がある。

(3)「動画」形式は、編集技術が必要だが、流し撮りが可能で、テイク2、3もウェルカムだ。綿密な事前練習なしでも作成できる。つまりキーとなるメッセージをカットでつなげ、タイトルやテロップなどを工夫し、短時間に凝縮した映像コンテンツとなる。Information per Time がKPIとなることは明石ガクト氏の著書「動画2.0」でも言及されている。

※2つの動画例は筆者の作成した実際の教材であり、もはや入る穴が見当たらないが、あくまでイメージとして捉えていただければと願う。

遠隔双方向授業

(1)「アナログ」型は、先生方に馴染みの深いことを強みとする。対面授業をただ遠隔で行うスタイルだ。極力双方向性を縮小し、教授に特化したスタイル。弱みは長い時間生徒の集中を担保することは難しく、15分程度でテンポチェンジすることをオススメする。注意点はモニターを用意し、自分自身の教授活動の「見え方」を確認すること。照り返しや文字の大きさにも気を配る必要がある。

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(2)「デジタルライブ」型は、JamboardなどのWEBアプリやチャットを用いて、半ば強制的にインタラクティブ性を付与した形だ。下図のように画面半分を生徒が書き込む「模造紙」にし、半分をプレゼンテーションの場とし、教授活動を行う。生徒の意見や質問に応じながらライブ感ある授業を行えることがメリットだ。子どもたちの意見を拾うため、集中力も担保しやすいと感じる。

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(3)「アクティブ」型は、Zoomでいうブレイクアウト機能を用いて単位時間あたりの対話量を増やす工夫だ。時間内に、参加者全てに発信のチャンスをお届けすることは困難を極めるが、Zoomのブレイクアウト機能なら、グループ化、再集合のフローが直感的に行える。(もちろん手動で人間関係など考慮しグループ化することも用意だ。)よって、グループ内で参加者一人一人が発言し、代表者が全体の場で共有するということも容易にできる。

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以上簡単にではあるが、6つのタイプをご紹介した。大事なことは、これらはあくまで手法にすぎず、どれをやるべきかは学校・先生方によって異なる。最も子どもたちに学びを誘発する手法を組み合わせ、実践するべきだ。

例えば、一方向だからと言って、インタラクティブにできないわけではない。動画で子どもに伝え、練習の機会を作り、ノートに問題をとかせ、写真や動画で回収する方法もある。


宿題のアイディア

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写真の良さは、スマホでお気軽に撮影できること。その様子がしっかりとわかること。遠隔授業で出題したことをノートに取り組ませ、写真で提出させることは難しくない。Google Classroomやロイロノート、スクールタクトなどを用いると、さらに集約・フィードバックに彩りが生まれる。

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動画での宿題は圧倒的だ。数学の証明問題の解説。音楽の練習。体育のダンス。動的な表現で生徒の学びを深めることができるのならば、こんなに良い手法はないだろう。ゼミ形式のやりとりも可能となる。ただ難点はパケット通信料がかかる場合、家庭の負担となる可能性がある。その点は留意が必要だ。

遠隔授業の設計の手引き

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教育者の方々には釈迦に説法かもしれないが、実験や技能系を除けば、概ね先生方の授業はこの9つの流れに集約されているように思う。有名なガニェの9教授事象だ。遠隔授業は、機材の操作ばっかりに気をとられ、慣れるまでは授業設計に注意を配りにくい。

動画・映像もこの9ステップの一部として切り離して作成するなどすると、テンポよく、歯切れの良いコンテンツに仕上がる。デジタルであれ、困ったときはやはり基本に立ち返るのだ。いわばガニェの9教授事象2.0だと言える。

できることにフォーカス

さてここまで遠隔授業とそのアイディアを整理してきたが、必ず動画・映像の作成や双方向授業をしなければならないわけではない。苦手な編集をやるくらいなら、世の中の動画・映像コンテンツを用いて、課題のやりとりも行い、双方向ツールで質疑応答をするだけでも、かなりの学びを届けることはできるのである。

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今できる、先生お一人お一人の最良を子どもたちに届けてあげる。子どもたちも、そんな先生に刺激を受けるはずだと考える。

もちろん、今はまだ一年の始まりの時期だ。クラスとしてもまだ出港まもないので、子どもたちの「心理的安全の確保」は留意していただきたい。名前も顔も一致してないクラスメイトといきなりグループワークも捗るはずがない。

上記のテクニックを活用し、「クラスに自分の一部を曝け出せる工夫」ができれば、遠隔でも、クラスが体を為して行く。

さて、この辺りまでが遠隔授業の特徴と大まかなアイディアの整理だろう。詳細に遠隔授業を見つめた中でいくつかキーワードがあったように思う。

記録性・共有性の向上

本Noteの最後はここに的を絞りたい。

個別最適化を目指すハイブリッド型授業

AIの台頭により、重回帰分析的にユーザーの弱点分析が精度を増した。驚異的なWEB教材が出現している。また、AIこそ搭載してないが、基本的な問題演習を行えるアダプティブWEBアプリケーションも充実してきた。おまけにWithコロナで、学内のカリスマ先生の授業がどんどん動画化している。

改めて問いたい。皆さんは次の質問にどうお答えになるだろうか。

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ここでは皆さんにぜひ、大局観を発揮していただき考えていただきたい。できれば寝る直前や、ちょっとしたトイレ休憩乗り物に揺られている時間にお考えいただくことをお勧めする。

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#1 開疎化する日本と学校で取り扱った図だ。世界は人類が築き上げてきた資本主義にとって効率の良い、「City」というパラダイムから、徐々にスマートシティやSociety5.0というパラダイムに移行しつつあったが、急激にWithコロナのパラダイムに移行した。

そこではリモート環境が急速に整えられてしまい、多くの人々が常にコネクテッドな生活をしなければならず、一方で「なんだ、意外とできるもんだな」という価値観に慣れてしまった。人件費は最適化され、働き方は昨年までのそれとは一線を画すだろう。

この世界は完全には元のCityには戻らない。おそらく教育現場もだ。

学校で集まって平均向上を目的とし、公平性の名の下に、若手やベテランの「レベル差」がある教師からワンウェイアナログな講義を受ける。それによって学力差が生まれるが、補助は追いつかない。お金のある家庭の子どもだけが質の良い教材にリーチし、より高確率で優秀な教師にマッチングされる。

この現状から今のWithコロナに移行してしまった運命の意味とはなんだろうか。

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筆者はこのように考える。無論、解はそれぞれであろう。だが、間も無くこのNoteも結論に入る。

記録性・共有性の向上によって、今可能となった最高の投資は教材のブラッシュアップだ。すべての教員がそれぞれで0からバラバラな教材を作成する必要はない。圧倒的な教材を作り出す教員のリソースをみんなで用い、議論し、統合・改善してゆくのだ。学校単位、学区単位、自治体単位、果ては国単位で。

今までも素晴らしい先生方が、日本の教育を支えてきた。筆者など足元にも及ばない大先輩方の努力の上に、今の教育のクオリティがあることは間違いない。

だが先人たちの教材・ノウハウは完全に継承されているだろうか。筆者の予想だが、おそらくだが、先生方の思い出と共に、リースのPCの中で眠っている。

ビッグデータの時代が幕開けて久しいこの現代に、このリソースを眠らせておく理由はない。今こそ、熟達した指導経験を、実用的な共有体系で整理し、用い、学習指導でのトライアンドエラーを重ねながら統合し、その上で、教員の指導・質疑応答を組み合わせるハイブリッドな教育を実現したい。

なぜならば、AI教材、WEB教材は、学習において基本となる事項にフォーカスされているからだ。標準的、応用的な思考を伴う学習は「ライブ」の授業からでしか味わえない。お互いに解説しあう中で磨かれる思考の養成において、AIは現段階においてまだ、サポート外なのだ。

公平最適な学習指導の「ニューノーマル」

生徒はイノベーティブな教材とレガシーな教材を好きに選ぶことができる。学校ではそのどれでも使うことができ、教員は臨機応変にティーチング、ファシリテートを行う。

動画・映像も含めた最高の教材と、ライブのハイブリッド型の学習指導。

この一つの例を体現している国がヨーロッパに存在する。

電子国家エストニアだ。

そこではOpiqと呼ばれる教材群、eKoolと呼ばれる教育情報統合システムによって、教育リソースと情報共有が1つのプラットフォームで完結するように設計されている。英語の資料だが次を参考にしていただきたい。

Smart Learning in Estonia (youtube)

Estonian EdTech Solutions (pdf)

Repubric of Estonia Ministry of education and Research (pdf)

CEOらに体験のチャンスをいただいたが、圧巻である。

そもそも教育思想から驚かされる。エストニアの教育についてのNoteは別の機会としたいが、間違いなく、日本が今Afterコロナの教育像をまだ見いだせてないのに対し、エストニアはすでにそのビジョンを描いている。

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そこでは、多種多様な教材がWEBで圧倒的に安価に共有され、自学自習がしやすいように強烈に洗練されている。さらにはフィードバックが集められ、常に改善フローに乗っている。教員は自分の能力だけに固執せず、フレキシブルに子どものニーズに答える。学校は国からその教育活動の大部分を規定されず、自由な指導方針、自由競争の中にある。

公平最適な学習指導と、リーダーシップ&アントレプレナーシッププログラムの両輪で国を立てようとしている。

学習記録は保護者と教員に自動で共有され、込み入った作業を必要としない。教員も、保護者も、子供の学習について、生活についての必要な情報共有が最適化されている。

情報が全て小川のせせらぎのように途切れることなく流れてる。その横には色とりどりの花が咲いている。教員は日本のように時間に追われていない。まさに夢追う子どもたちの伴走者たり得ている。

情報技術が教育にそっと寄り添っているが、教育は国家戦略と両輪なのだと考える。このAfterコロナに、どのような国を求めるのか、またどのような教育現場をつくりたいのか、引き続き、ない知恵を振り絞って現場で働きながら考えてゆく。

さて今回も長文にお付き合いをいただき、読者の皆様には感謝しかない。まだまだ書き尽くせないテーマがあるが、文量の都合上、いただらぬ点があった部分については何卒ご容赦をいただきたい。今回は一歩ミクロな視点に踏み込み、Afterコロナを見つめた。次号では現場のドラマに焦点を当ててみたいと考えている。

引き続きお付き合いをいただきたく、最近350名を超えたフォロワーの方々はもちろん、多くの同志の皆様、保護者の方々にご意見などもいただけたらと思う。

お読みいただき、ありがとうございました。

いつも応援してくださる皆様に田中GT善将は支えられ、幸せ者です。ありがとうございます!