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バンクシー「Morons」が起こしたスキャンダル| NFTが現代アートにパラダイムシフトを起こした話

バンクシーの「Morons」が起こしたスキャンダル

バンクシー作品認証機関「Pest Control」によって認定された本物のバンクシー作品「Morons」がNFT(Non-Fungible Token)化された後に焼却され、そのNFTがオークションに出されるというニュースが流れました。

このニュースの肝はデジタル化されNFTにされた後、ニューヨーク州ブルックリンで暗号資産愛好家のグループ「Injective Labs」のメンバーたちによって焼却されたということです。

つまり、売却されるNFTには元となった「オリジナルの作品」が既に消失されている状態であるということ。つまり作品の現物は既に消失しており、そのデータには実在していたオリジナルの「Morons」と同じ価値があるということになります。

NFT(Non-Fungible Token):唯一無二の価値を持つ代替不可能なトークン


落札の瞬間にシュレッダー起動によって破壊された「風船と少女」のようにバンクシーの作品は「意図的な破壊」を行うことで、作品の価値が上がることがあります。

度々バンクシーの作品は「破壊」とともに話題に上がり、「バレンタインデーに花束を」は発表から2日間で破壊行為が行われてしまいます。しかし、結果的に「破壊」が加わることで価値が付属されることになりました。

バンクシーは「バートンヒルに残した作品が破壊されて、どこかホッとしている。はじめのスケッチの方が断然良かった。」とコメントしています。


破壊行為に対して生まれるメッセージは受け取り手によって変わるが、「バレンタインデーに花束を」の破壊行為に対して、筆者はバンクシー作品がストリートからメインストリームへと上がることで「ストリートアートが本来持っていた破壊行為」に対して「ありがたがる」風潮への批判行為としてストリートアートの根本を感じたのです。

そんな話題を生むバンクシーの作品が今回起こしたスキャンダルはNFTによってアートの価値観が拡大され、新たなルールが生まれた背景と現代アートの文脈が結びつき「デュシャンの泉」以来の大事件になるなのではないかと思っています。


NFTの登場でアートのルールは変わった

NFT(Non-Fungible Token)とは、主にイーサリアム(ETH)のブロックチェーン上で構築できる代替不可能なトークンのことです。

「代替不可能」とは、全く同じものが存在しないという意味を指し、NFTには「唯一無二の価値」が付属されるという特性があります。

従来のデジタル空間では、情報(メール・画像・プログラム等)は複製することが安易であり、デジタル技術によって生み出されたものに対して「価値」をつけることが難しいという課題がありました。

しかしNFTの登場により、複製が可能なデータに対して「複製のできない唯一無二の価値」が付属されるようになります。

例えると、同じ白の無地Tシャツが2つあったとして、片方に本物のバンクシーのサインが入っているとしたら「バンクシーのサインが記入された白の無地Tシャツ」としての唯一無二の価値がつきます。

このサイン入りのTシャツは複製することができないため、唯一性があり手に入れることが難しい資産として他の白Tシャツより価値が高いと言えます。

この「唯一無二の価値」がデータにも付属することができるのがNFTの特徴です。

NFTの技術は「ゲーム分野」「トレーディングカード」「不動産」「担保」「会員証」「デジタル作品」などの分野で活用され、革命を起こし続けています。(2021年3月時点ではゲーム分野での活用がメイン)

そしてNFTはデジタルアートの世界で革命を起こし、パラダイムシフトを起こしました。

アート作品には「アートの真贋が証明され唯一性」という絶対的な価値の基準があります。そのため複製が可能なアート作品には価値が付きにくく、アートとしての価値を持たせにくいという課題がありました。

特にデジタル技術を使用して製作された作品は、複製が容易であるため「オリジナルである」証明が困難で、これまではアートの取引や展示が成立しにくかった背景があります。

NFTを用いれば、デジタル空間にあるアートについてもブロックチェーン上で「オリジナル」の持つ「唯一無二の価値」を証明することができます。

これにより例えば「デジタルアート」「プログラミング作品」「デジタルイラスト」「アニメ」「Web漫画」「写真」「ゲーム」などの複製が可能な領域にも「唯一性」という価値を付属し証明することができるようになります。

NFTの登場によってアートの領域は拡大し、アートの世界は完全に「デジタル領域」でも価値を持つことになりました。

今まで価値のつきにくかった「イラスト」や「アニメーション」「デジタル写真」「テレビゲーム」などもNFTの登場で価値が付属されるため「アート」として更に発展する可能性が考えられます。

現にNFTによるアートの取引は行われており、2020年10月、英国の著名な美術品のオークションハウス「クリスティーズ」でビットコイン(BTC)を題材としたNFTによる作品が競売にかけられました。

Robert Aliceによって製作された「Block 21」はBTCの生みの親であるナカモトサトシの「心の肖像」をテーマにした合計40作からなるドーナツ型のオブジェで、ビットコインのv0.1.0コードの一部が記載されており、シリーズ全体で約322,048桁が刻まれています。これらのコードが被ることはなく、分散されるようになっております。

この作品は物理的なオブジェに、NFTによるデジタル形式のオブジェも付属してくる仕組みとなっており、NFTを利用したアート作品として話題になりました。

この作品は予想を上回る約13万ドル(約1400万円)で落札され、アート界に激震を起こしました。

人気のあるミーム画像「ニャンキャット(Nyan Cat)」のNFTが2021年2月19日、300イーサリアム(当時のレートで約59万ドル=約6300万円)で取引された事件はネットミーム(インターネットで話題になった画像)のマネタイズ化として大きな話題となりました。

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パリス・ヒルストンもタブレットで描かれた「猫」のNFT作品を発表し、高額で取引されたことで話題となりました。


NFTの登場によってアート業界は大きく動きを見せており、あらゆるデジタル作品がアートとしてマネタイズできるようになる世界への扉が開かれたことで、アートの世界は遂に「デジタル」へと完全に踏み入れたことになります。


バンクシーの「Morons」騒動がもたらした「新しい価値」

焼却された「Morons」のNFTは今までのNFTとは異なるある特異性があります。

これはマルセル・デュシャンに匹敵する「新たな価値」といっても大袈裟ではありません。

NFT化されたデジタルアートは「デジタル技術で作られた作品」「現物のある作品をデジタル化したもの」に大きく分類されます。

バンクシーの「Morons」はNFT化された本物の作品をオークションにかけるものでしたが、その現物は焼却され失われています。

つまりNFT化された「Morons」には唯一無二の価値が付属された「本物」の作品としての特性と、現物が焼失したオリジナルの「デジタル化された」作品という特性を持つことになります。

現物が失われた今「Morons」という作品はNFT化された「Morons」しか存在しません。しかし、NFT化された「Morons」は現物をデジタル化してNFTにした作品のため「オリジナルではありません」

テセウスの船のようなパラドックスが現実とデジタルの世界で起こってしまったのです。

テセウスの船:ある物体において、それを構成するパーツが全て置き換えられたとき、過去のそれと現在のそれは「同じそれ」だと言えるのか否か、という問題(同一性の問題)


極論を言えば「0と1の集合体であるデータ」でしかないNFT化された「Morons」は焼失という破壊行為によってオリジナルが存在していた証明であり、唯一無二の「オリジナルのMorons」であり、実物をデジタル化した「Morons」であり、現物が存在しない「Morons」であるという特殊な性質を持つようになりました。

これは既存の「アート」の概念を根本から問いかける問題で、デュシャンの「泉」のような『観念の芸術(コンセプチャルアート)』という新しい概念を生み出した時に近いのではないかと思います。

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マルセル・デュシャン「泉」(1917年)


NFTによってアートのルールは拡大されました、同時に「デジタル化された作品はアートなのか?」という問いかけにある種の結論が下されたと言えます。

NFTが起こしたパラダイスシフトそのものが現代アートの歴史を一歩進めるほど強力なもので、これだけでも「泉」に匹敵するほどの革命のようにも思えます。

そしてその「デジタルアート」に対して「現実とデジタル」という二つの世界に跨って存在したモノが現実で失われた時、目の前にある「ソレ」は果たして何なのか?という問いかけは今までのアートの概念から飛び出した「新しい思考・選択・価値」をもたらします。

「存在しないのに存在している」という状態を「現実とデジタル」という異なる世界で生み出す行為は今までのアートの歴史には存在していません。

破壊して失われるという行為の先に、デジタルの中で存在し続けるオリジナルという概念は新しいアートの表現であると言えます。


拡大するNFT市場は次世代の新しい可能性

NFTの登場により「デジタル資源」として投資価値が生まれたり、デジタル間における信頼のある取引の成立、アーティストが作り上げたデジタル世界に存在する唯一無二のデジタルアートなど市場は拡大を続けています。

また、クリエイターにとって新しい市場の発展は活動範囲を広げることになり、経済の発展にも繋がります。

デジタル技術の発展で「消費」されるエンターティメントにも「唯一性」の価値が付き、投資の対象になる可能性もあり得ることでしょう。

NFT市場は今後も発展を続け、大きな経済効果を生み出すと言われています。

アート領域だけでなく、様々な領域で「価値」が担保されることでビジネスのデジタル化もより進み、生活に大きな変化が訪れるでしょう。

今後もNFT市場の同行からは目が離せません。

【パーソナルデータ】
名前:Uto
職業:Webマーケティングコンサルタント
趣味:サウナ、アート鑑賞、一人旅、音楽Dig
特技:和太鼓

【連絡先】
メールアドレス:yy.edih.xx@gmail.com
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