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舞台 「ショウ・マスト・ゴー・オン」 観劇レビュー 2022/12/10


【写真引用元】
シス・カンパニー舞台制作 Twitter
https://twitter.com/sis_japan/status/1590649623861133313/photo/1


公演タイトル:「ショウ・マスト・ゴー・オン」
劇場:世田谷パブリックシアター
劇団・企画:シス・カンパニー
作・演出:三谷幸喜
出演:鈴木京香、尾上松也、ウエンツ瑛士、シルビア・グラブ、新納慎也、今井朋彦、峯村リエ、秋元才加、藤本隆宏、小澤雄太、井上小百合、大野泰広、中島亜梨沙、荻野清子、小林隆、三谷幸喜(浅野和之代役)
公演期間:11/7〜11/13(福岡)、11/17〜11/20(京都)、11/25〜12/27(東京)
上演時間:約140分(途中休憩15分)
作品キーワード:バックステージ、コメディ
個人満足度:★★★★★★★★★☆



劇団東京サンシャインボーイズを主宰していた、今や今年(2022年)の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の脚本などを務める偉大な脚本家でもある三谷幸喜さんの代表作「ショウ・マスト・ゴー・オン」を観劇。
「ショウ・マスト・ゴー・オン」は、劇団東京サンシャインボーイズの公演として、1991年に初演され、1994年に再演されている。
今回は、シス・カンパニーが主催する形で28年ぶりの再演となった。
三谷さんが脚本を務める舞台観劇は初めてで、彼の演出作品は2020年12月の「23階の笑い」以来2度目の観劇となる。

物語は、とある劇団の舞台裏で起きる本番中の予想外のアクシデントの連発に、スタッフたちが右往左往するコメディである。
この劇団ではシェイクスピアの「マクベス」をアレンジした「萬マクベス」を上演するまさに本番直前から始まる。
本番が始まるというのに、マクベス役を演じる宇沢(尾上松也)は昨晩酒を飲みすぎて泥酔して寝ている。
舞台監督の進藤(鈴木京香)や舞台監督助手の木戸(ウエンツ瑛士)、演出部ののえ(秋元才加)らは彼を必死で起こす。
しかし宇沢が泥酔しているだけではなく、外国人演出家や若手演出部スタッフが現れなかったり、小道具が直前に壊れたり、思わぬ客がやってきたりとアクシデントが多発。
そんな状況で本番が進行しながらバックステージではもう一つのコメディが繰り広げられるというもの。

感想を端的に言うと、今年のマイベスト舞台観劇と言っても良いくらい大満足で沢山笑った最高のエンターテイメントだった。
私自身が学生時代に演劇の創作側にいた時代もあったし、アルバイトとして舞台の設営を経験したこともあったので、その頃の記憶が色々と蘇ってきた。
現実世界ではこんなにアクシデントが起きていたら大問題であるが、そこを上手くコメディとして消化して舞台作品に仕上げている点に、三谷さんの演劇愛を感じた。

医者の鱧瀬役は本来であれば浅野和之さんが演じられるはずだったが、新型コロナウイルス感染によって急遽三谷さん自身が代役として出演した。
三谷さんはよくキャストの降板によって自らが代役を演じることがあるが、今作ではまさに劇中で起きているアクシデントと、リアルの世界で起きている公演のアクシデントも上手くリンクしているように見えて、そんな代役出演すらも一つの作品の面白さとして取れ入れられているようで、これぞ舞台、これぞ演劇というその醍醐味を十分に堪能することが出来た。

役者陣も豪華な上に間の使い方が皆上手くて、どストライクなタイミングで笑いを誘ってくれて全てが完璧だった。
舞台監督の進藤を演じた鈴木京香さんを中心に、舞台監督助手役の木戸を演じたウエンツ瑛士さんのしっかりした舞台監督だからこそ振り回される感じ、七右衛門役を演じた新納慎也さんのまるでジャックスパロウのような派手な姿と堂々たる演技、木村さんを演じた井上小百合さんの華奢で小柄で若いので周囲の圧に押されそうになりながらも成長していく姿、野原役を演じた峯村リエさんのバックステージを波乱の渦に誘うキラーな感じ、充役を演じた小林隆さんのズレた感じ、全てがバランスよく劇中で相互作用を起こしていて素晴らしかった。

観劇初心者でも絶対に楽しめて笑える舞台作品、人気公演でチケットも取りづらいが配信チケットもあるので、ぜひ多くの人に味わってほしい一作だった。


↓DVD『ショウ・マスト・ゴー・オン』(1991年)


【鑑賞動機】

2020年12月に世田谷パブリックシアターで観劇した三谷幸喜さん演出の「23階の笑い」が非常に面白かったので、また三谷さんの舞台作品を観劇しようと思っていた。
今回の「ショウ・マスト・ゴー・オン」は、三谷さんが劇団東京サンシャインボーイズをやっていた頃の代表作の一つだと聞いて、これは間違いなく面白い舞台作品だろうと思い観劇することにした。キャスト陣も非常に豪華で、鈴木京香さん、尾上松也さん、新納慎也さんは以前からお名前も知っていて初めて舞台で演技を観られるので楽しみにしていた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇して得た記憶なので、抜けや間違い等あると思うがご容赦頂きたい。

とある劇場のバックステージ、ここではシェイクスピアの「マクベス」を劇団でアレンジした「萬マクベス」が上演される直前であった。
舞台監督である進藤(鈴木京香)は、次の舞台現場で使う赤い編み物を作っていた。そこへ、舞台監督助手の木戸(ウエンツ瑛士)と演出部ののえ(秋元才加)は、舞台裏に巨大な歌舞伎のセットの松を運び込んでいた。どうやら次の公演が歌舞伎をここで上演するらしく、その舞台セットなのだそう。また劇場の見回りも舞台上をウロウロしていて、猫が劇場に迷い込んだから探しているという。
進藤は、「萬マクベス」の主役であるマクベス役を演じる宇沢がまだ来ていないと慌てている。木戸とのえに宇沢はどこにいるか探してほしいと伝える。
木村さん(井上小百合)は翻訳家で、この公演に関わっている外国人の脚本家と連絡を取っている。その脚本家は秋葉原で迷子になったそうで連絡している。また、どうやら若手の演出助手が一人行方不明になっていた。進藤が少しパワハラ気味なことをしてしまって、実家で療養するのだそう。

木戸とのえは、宇沢が劇場で泥酔して眠っているのを発見し、彼を2人で引きずり連れてくる。進藤は、今日が舞台の本番であるというのに泥酔するとはと呆れる。
見回りたちは、どうやら劇場に迷い込んだ猫を見つけたようで猫を抱っこしながら去っていく。
泥酔して眠ってしまっている宇沢に水をかける。そして宇沢は目を覚ます。宇沢が目を覚ましたので、早速宇沢を衣装に着替えさせる。
そこへ、「萬マクベス」の日本語の台本を書いた栗林(今井朋彦)がやってくる。栗林は、なかなか忙しくて稽古に顔を出せなかったと言い、今日は本番を観ていくという。そして差し入れとしてドーナツを振る舞う。
次に舞台裏に八代(大野泰広)が現れる。八代は当初は兵士を演じる役者としてこの舞台に出演するはずだったが、演技が上手くなくて進藤によって降板させられてしまった。だが八代は威勢だけは良かった。
今度は、見知らぬ中年の男性が入ってくる。スタッフたちはその男性を観客だと思い、客席へ案内しようとするが、彼は充(小林隆)と名乗りこの現場に関わる舞台関係者の父親であると言う。今その子供はこの現場にいない代わりに自分が来たのだと言う。そして充は、地元の名物の高崎のだるまと、謙信餅を差し入れとして持ってくる。舞台スタッフは黒い服が良いと、充はコートを脱ぐと喪服のような黒いスーツ姿であることに周囲はドン引きする。
その後、中島(藤本隆宏)がやってきて自分は舞台裏で観劇していると言う。
木村さんは、迷子になった外国人の脚本家からの英語のメール文を読み上げて、皆で「えいえいおー」と叫ぶ。

舞台の終盤で使用されるマクベスの生首の小道具の鼻が取れてしまう。このままではマズいと、鼻をくっつけるように木村さんに言う。その時、充は何やら接着剤として使ってはいけないものを口にする。
まもなく上演は開始する。しかし、マクベス役を演じる宇沢は自分には舞台上に立てる勇気がないと怖気づく。そんな宇沢を進藤は優しく抱擁して、君なら出来ると励ます。元気をもらった宇沢は、りんごではなく間違えて同じく赤く丸い形のした充の手土産の高崎のだるまを持ってステージへ向かってしまう。しかし誰もスタッフは気が付かなかった。
尾木(荻野清子)は生ピアノの演奏を始める。野原(峯村リエ)は、ピアノの音楽に合わせてマラカスを鳴らし始める。先程までマラカスを持ちながら舞台裏をウロウロしていてうるさいと叱られていた。
そこへ、木村さんが生首の小道具を持ってきて、顔がえぐられたかのようになくなってしまっていた。どうやら接着剤を間違えたようである。生首に気を取られていたスタッフ一同は、宇沢が間違えてりんごではなく高崎のだるまを持ってきてしまったことに気がついて、スタッフに呼びかけていることに気が付かなかった。尾木は気がついていたが、尾木は如何せん声が張らないので皆分からなかった。宇沢は諦めてそのままステージに戻ってしまう。

その後、スタッフ一同は舞台裏にりんごの小道具があることに気が付き、宇沢が間違えて高崎のだるま弁当を持っていってしまったことに気がつく。このままでは、宇沢がりんごだと思ってかじった瞬間に中から大量の米が出てきてしまって大惨事だと言う。
そこで、劇中で誰かがタイミングを見計らってステージ上へ出向いて高崎のだるまをりんごにすり替えようという作戦に出る。一番不自然でないシーンは、マクベスの「お先マクベス」という台詞があるので、そこで幽霊を登場させてすり替えようという作戦を企てる。
木戸が白いシーツを被って幽霊役となり、「お先マクベス」のタイミングで高崎のだるまをりんごにすり替えてくる。しかし、宇沢はりんごをかじるシーンを飛ばし、5分ほどの台本箇所をすっ飛ばして進めてしまい、りんごにすり替えたことが意味なくなってしまう。

宇沢は再び舞台裏に戻る。そしてステージに立つ勇気をなくしているが、進藤によって抱きしめられ励まされて再びステージに戻っていく。

ここで幕間に入る。

舞台終盤で使うマクベスの生首の小道具が、顔がえぐられた感じになってしまったということで、その小道具を製作した七右衛門(新納慎也)がやってくる。進藤は、そこまで高いクオリティでなくていいから、舞台終盤に間に合うように生首の小道具を作って欲しいと依頼する。しかし七右衛門は、小道具製作にプライドを持っていたので、進藤にクオリティは高くなくて良いと言われ傷つく。しかし製作を始める。
浅倉(小澤雄太)がやってくる。浅倉は進藤に告白しようと、何やらプレゼントを進藤に渡そうとする。しかし、進藤はそのプレゼントを強引にも受け取らなかった。スタッフ一同は、これは告白失敗かと思いながら状況を見ていた。

宇沢は本番中に筋肉注射をしないとマクベスの演技が持たないということで、宇沢の医者の鱧瀬(三谷幸喜)がやってくる。鱧瀬は老人なためよちよち歩きで舞台裏までやってきた。そして、ステージに上ろうと階段を上ろうとするが、スタッフに止められる。
宇沢がステージから捌けて、兵士役のあずさ(シルビア・グラブ)がステージに立っているタイミングで、宇沢に筋肉注射を打とうということになる。宇沢は捌ける。そして宇沢に鱧瀬によって注射を打たれている間に、兵士役のあずさが場をつなぐ。なかなか注射が終わらず、あずさは同じ台詞を二度言ったり、なかったことにしたりと無理やり場をつなぎ、観客が帰り始めていると言う。
そして注射が終わった宇沢は再びステージへ向かう。その時、野原は宇沢に謙信餅を口の中に入れ、宇沢はステージ上でむせてしまう。野原に向かって冷たい視線を送るスタッフ一同。野原は、舞台裏にずっと放置された差し入れが置かれているのが嫌だから、少しずつ消費させたいのだと言う。謙信餅の賞味期限を見ると今日までだったからと。

中島は、なんか腕に違和感があって凄く上機嫌なのでこれは自分に注射が打たれたようだと言う。つまり、宇沢には注射されなかったと。
このままでは宇沢はどんどん元気がなくなってマクベスを演じる所ではなくなってしまうと、進藤は公演の中止を考えたりするが、ステージ袖から宇沢を見ているとどうやら先ほどよりも元気を取り戻しているようだった。どうやらペース配分をして役に望んでいたらしかった。
しかし、上演はこのまま続行するもののやはり宇沢には注射を打っておきたいとのことで、なんとかしてステージ上まで鱧瀬を連れて行って、注射を打たせようとする。
スタッフ一同は、歌舞伎で使うはずの松の舞台セットにクリスマスの飾りをつけてクリスマスという体にし、作り物のトナカイに鱧瀬を乗せてサンタクロースがやってきた感じで、宇沢に注射を打とうとする。しかし、それでも彼に注射を打つことは出来なかった。

そこで、劇中で地鳴りがしたという体で、進藤がジャンヌダルクに扮してステージ上に登場して注射を打つことにする。本当は中島に上半身裸になってもらって注射を打たせたかったが、体にはタトゥーが入っていてNGだった。
進藤は、「ハ」と書かれた旗を掲げて、首に赤いマフラーを巻いて、トナカイに乗ることで、そしてスタッフ一同で楽器を色々鳴らすことで地鳴りがあってジャンヌ・ダルクがやってきたという体で、宇沢に注射する。
見事に注射は打つことが出来たが、栗林がこれでは台本がメチャクチャだと呆れる。
そこへ、舞台上の様子が気になると、客席で舞台を観ていた八代がやってくる。しかし、七右衛門が製作していたマクベスの生首が完成したので、その生首を使ってマクベスは殺され、上演は終了する。

進藤は、八代に次は必ず舞台に出演させてあげるよう約束し、八代は喜ぶ。
進藤は浅倉からの告白は受け取らなかったが、自分もそんなに長く舞台監督やらないかもしれないんだし、早く舞台の主演をやって頂戴と言う。浅倉は頑張ろうと決意する。
次々と劇場を後にするスタッフ、役者たちに一人ずつ謙信餅を配る野原。野原は無事謙信餅を配り終わると、自分の仕事は終わったかのように帰っていく。
宇沢は、進藤が最後にやってきた姿をジャンヌ・ダルクだと分かってくれて嬉しく思う。宇沢は劇場を後にすると思いっきりプライベートモードになる。
進藤と木戸は最後2人きりになる。そして謙信餅の賞味期限が先月までだったことを知って、これは明日は休演日だなと呟く。ここで上演は全て終了する。

場所も舞台裏から動かないし、特に何かが劇的に変化するストーリーではないのだけれど、一瞬足りとも飽きさせない展開に驚かされた。ただただずっと舞台裏でアクシデントが多発しているだけなのに、全然飽きることなく見続けられてしまう。もちろん役者が皆魅力的というのもあるが、これは脚本力と演出力がないと持たせることが出来ないと思う。そのくらい、見せ方の上手い舞台作品だった。
そして、これは舞台を知り尽くしている人間でないと描けない脚本である。本番中の舞台裏がどんな感じかは、舞台関係者でないと描くことが出来ない。でも、舞台のことを知らなくても楽しめるように作られている点が、今作の魅力だった。
そしてこの脚本から演劇への愛も非常に感じられる。舞台関係者たちも一丸となって舞台を作っているんだぞという情熱が感じられる点も好きだった。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

バックステージをステージ上に仕込むという奇抜な発想で、そして大きなステージの利点も上手く活かした素晴らしい舞台美術だった。
舞台装置、小道具、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
バックステージをステージ上に仕込んでいて、下手には一つの大きな机があり、そこでは進藤が会場にアナウンス出来るような機材設備が用意されていたり、あとは差し入れなどを置けるようなスペースもあった。舞台中央奥には、非常口が点灯している捌け口があり、これは世田谷パブリックのステージに実際にあるステージ奥の非常口だったように思えた。そこから役者たちは登場して「萬マクベス」の舞台裏にやってくる仕掛けになっている。
舞台中央前にはソファーが置かれていて、そこで宇沢に注射を打たせようとしたり、水を飲ませて起こしたりしていた記憶。
舞台上手側には、ステージに通じる階段が上手方面へと伸びていて、宇沢はステージに上がる際は上手側へ捌けていく。上手手前側には尾木が演奏するピアノが置かれていて、生でそこで演奏をしていた。その横には野原がいてずっとマラカスを鳴らしていた。
上手奥側には、舞台セットが上手のステージ側から移動してこれるくらいの空間があり、宇沢を乗せたステージが誤ってそのままこちらに運ばれてきたりしていた。
舞台装置は全体的には非常に大々的なものが多くて大きな劇場でないと実施できないような仕掛けを沢山含んだ舞台美術となっていた。バックステージをステージに仕込んでしまう面白さが活きた素晴らしい舞台だった。
その他には、天井から吊り下がっていた「祝」という大看板がいきなり登場するのも目を引く素晴らしさだったし、歌舞伎の松が運ばれてくる感じも序盤から面食らった。

次に小道具について。今回の舞台はバックステージものということもあって小道具を活かした演出がとても多かった印象。
一番印象的だったのは、マクベスの生首が木村さんの誤った手段によって顔がえぐられた状態になってしまった小道具と、七右衛門がステージ上で実際にマクベスの顔を製作する小道具。本番中に小道具を製作して小道具として使用するって凄く新鮮な演出で面白いと感じた。七右衛門を演じる新納慎也さんは、観客に見られながら時間制限を持ってステージ上で小道具を作るってかなりプレッシャーだろうなと感じてしまった。でも非常に面白い演出で趣向がこらされているなと思う。
その他には、りんごと高崎のだるま弁当の丸くて小さくて赤いという共通点を活かしたネタが面白かった。そしてそのネタの回収の仕方も色々考えられていて面白かった。
あとは楽器が沢山登場するのも良かったが、ここは舞台音響で詳しく触れる。

次に舞台照明について触れていく。
バックステージものということで、幕間を挟む箇所以外に一切暗転した箇所はなかった認識(進藤がジャンヌ・ダルクとしてステージに登場するシーンがどうだったか記憶が曖昧)だが、上手側がステージという設定だったのもあり、上手側の照明は彩り豊かな照明が差し込んでいた印象。
このような上手側だけ照明が漏れてくる感じの舞台演出も見たことがなかったので非常に新鮮だった。
あとは、スタッフ一同で地鳴りを表現してジャンヌ・ダルクとして進藤がステージに飛び込むシーンのちょっと豪華な照明演出は、終盤の山場みたいなシーンとも感じられて素晴らしかった。

次に舞台音響について。
まず開演してすぐ流れたプロコフィエフ作曲のバレエ音楽「ロミオとジュリエット」のモンタギュー家とキュピレット家が流れる。ソフトバンクのCMにも使われた有名なクラシック音楽だが、1分以上流れてから上演がスタートするので良い導入だった。舞台「23階の笑い」でもそうだったが、三谷さん演出作品って導入は音楽が流れるのが定石だったりするのかなと思った。
あとは音楽というよりは、音声による会場アナウンスだったり、進藤の舞台監督席からのマイクによる音声が、そのまま劇中の音声として使われていて良かった。進藤や木戸がちょっと車掌のような感じでアナウンスする声色が良かった。そこでも笑いが起こっていた。あとは三谷さん自身が、前説と後説を音声で(おそらく生アナウンスとして)行っていて素敵だった。
木村さんが度々iphoneの着信を鳴らすのも印象的だった。この脚本が書かれた1990年代はiphoneなんて登場していなかったので、おそらくここは再演に伴って書き加えられた演出だろう。そんな現代的な演出による気づきもあって良かった。
あとは生演奏による舞台音響演出だろうか。尾木が演奏するピアノは、劇中は終始会場に鳴り響いていたので、特に音楽がかからなくてもそれだけで楽しい印象を感じられた。そして終盤での楽器が沢山登場して、地鳴りを演出しながらジャンヌ・ダルクを登場させるシーンは本当に演劇を感じられて好きだった。ピアノだけでなく、マラカス、和太鼓、金管楽器、野原が何度も鳴らしていたビブラスラップなど様々な楽器が登場して盛り上げる感じが良かった。

↓プロコフィエフ: バレエ音楽「ロメオとジュリエット」第2組曲:モンタギュー家とキュピレット家



最後にその他演出について。
この舞台作品は、劇場に常備されているそもそも舞台セットでない裏方が使用するものまでセットに盛り込んで上演している点が、演劇ならではで発想が素晴らしかった。例えば、劇場背後にある非常口をそのまま捌け口に使ったり、天井に吊るされているパネルを下に下ろすロープ自体も、本来なら裏方のスタッフが影で操作するものを、敢えて演出に取り込んで客席に見せる仕掛けも素晴らしかった。
あとは台詞やきっかけのタイミングが絶妙で、そこを上手く役者が合わせるからこそネタとして面白くなっている箇所が非常に多かった印象、つまり役者が素晴らしくて脚本・演出にあるネタが見事に機能しているということ。野原が絶妙なタイミングでビフスラップを叩いたり、スタッフの去り際に謙信餅をあげたりと、タイミングが素晴らしくて笑ってしまう。そんな面白さが多かった。
あとは、玉田企画の舞台「영(ヨン)」のような、脚本が当初書いたものとだいぶ違ってデタラメになっていて脚本家の栗林が起こる感じもリアリティあって良かった。本当にそんな現場ってありそうだし、三谷さんという現場を知り尽くしている人だからこそ描ける脚本だなと改めて感じた。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

とにかく豪華なキャスティングによって、三谷さん作演出らしいコメディ作品に仕上がっていて大満足だった。今年(2022年)の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」にもキャストとして登場している役者も複数人いて、年内大注目の舞台作品の一つといっても良いくらい。
特に私が注目したキャストについて詳しく記載していく。

まずは、主人公の舞台監督の進藤役を演じた鈴木京香さん。鈴木京香さんは女優として以前からはよく知っていたが、生の演技を拝見するのは初めて。
第一印象は、とにかくとても格好良く見えた舞台監督役だった。凄く正義感が強くて、キビキビと周囲のスタッフに仕事を振っていく感じが本当に憧れの存在に見えてたくましかった。
これは再演によって新たに付け加えられたシーンなのかわからないが、この進藤は過去に若手スタッフをビンタしてしまって、そのスタッフが実家療養をしているという設定がある。言ってしまえばちょっと昔の価値観を引きずっているような舞台監督である。若い者には厳しくしないと的な価値観で、おそらく今の舞台現場でも存在する古き考え方かなと思う。しかしそれは良くないと後輩スタッフが、それはパワハラだと訴えるシーンがあって、そこにリアリティを感じてしまった。こう書くと凄くこの進藤という舞台監督は今のご時世にとっては悪者に聞こえてしまうが、それでも舞台監督という仕事に全力を尽くしている感じがとても好きだった。
一番格好良かったのは、ラストにジャンヌ・ダルクとなってステージ上へ急遽登場するところ。ああいった覚悟を示せる舞台監督は格好良いなと感じてしまう。
また、宇沢を励ますシーンも素敵だった。宇沢を抱擁してあなたなら出来ると言い聞かせるあたりが、なんかお母さんにみえてしまってよかった。たくましさと母性を兼ね備えた存在に好感を持った。

次に、舞台監督助手の木戸役を演じていたウエンツ瑛士さん。ウエンツさんはテレビなどでよく出演されているのを見たことがあったが、生の演技を拝見するのは初めて。
個性豊かでぶっ飛んだ登場人物ばかりだった今作の中で、木戸は一番まともなキャラクターに感じながら見ていた。だからこそ凄く魅力的で好感が持てたのかもしれない。私も演劇を創作する側に携わったことがあるので、内部に常識はずれだったり人に迷惑をかける奴がいたりすると、まともな奴ばかり損して大変なことになる。そんな大変な目にばかり合わされている側の人間に見えたので、非常に感情移入しやすくてキャラクターとして好きだった。
ウエンツさん自身の演技ももちろん素晴らしかった。ヘアスタイルも好きだった。

「萬マクベス」のマクベス役をしていた宇沢役の尾上松也さんも素晴らしかった。尾上さんもテレビではよくお見かけするが、生の演技となると初めて。
宇沢は非常にガタイの良い格好をしているのだが、良い意味で子供っぽさがあってそのギャップが非常に魅力的に見えた。今日は舞台本番だというのに昨晩は酒を飲みすぎて舞台裏で寝てしまったり、そして過度の緊張しいで失敗を非常に恐れているのも良いギャップだった。そこを優しく進藤が励ます姿がなんとも心動かされる。
人間としては全然未熟な部分も沢山あるのだけれど、どこか応援したくなってしまう、そんなキャラクターで個人的には大好きだった。そんな役を見事にこなしていた尾上さんは素晴らしかった。

小道具製作の七右衛門役を演じていた新納慎也さんも、とても印象的だった。実は新納さんの演技を生で観劇するのも初めてとなる。
最初登場したときは、あまりの奇抜な衣装に映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャックスパロウかよと思った。それくらい派手でカッコつけな印象だった。しかし、この七右衛門もギャップがあって好きだったのは、小道具製作に非常に高いプライドを持っておきながら、いざ厳しいことを言われるとガラスのハートを持っていて、ピアノの下でうずくまって泣き出したりするのが面白かった。まさに喜劇に登場するキャラクターといった感じで素敵だった。
それと、本番中にステージ上で小道具を製作するってとんでもないパフォーマンス。あれ、毎回新納さんが自作で生首の小道具を作っているのだろうな、そんな演出も面白かったし、新納さんも素晴らしかった。

野原役を演じた峯村リエさんのダークホース感も良い意味でヤバかった。
マラカスを持ちながら舞台裏を駆け回って注意されるくらいならまだ良いのだが、謙信餅を色々な人に振る舞ったり、ビブラスラップを鳴らしたりするあたりから注目の的にどんどんなっていってヤバイ奴感をどんどん露出させていくあたりに、野原というキャラクターの良さを感じた。
そしてそんなダークホースな役を上手く演じ切っている峯村さんが素晴らしかった。峯村さんはKAKUTAの「往転」やシス・カンパニーの「ザ・ウェルキン」で演技を拝見しているが、毎度異なるキャラクターの女性を演じていて素晴らしかった。

木村さん役を演じていた井上小百合さんも素晴らしかった。井上さんは舞台「フラガール -dance for smile-」で演技を一度拝見している。
最初木村さんの役が井上さんだと分からなくて、もっと井上さんてフラガールを観劇した時のイメージだと凛々しいオーラがある印象だったけれど、今回の木村さんでの役は大人しくて真面目そうなメガネをかけた役。でも新米で仕事が出来る訳ではなくて、小道具の生首の顔を台無しにしちゃったのも木村さん自身(本当はその助言を充がしているので、黒幕は充)。
序盤では、周囲の舞台スタッフたちの圧に押されて苦しそうだったが、この本番を通じてスタッフとしてたくましくなっていくあたりに魅力を感じた。終盤では、堂々として度胸が座ったような発言をしていた印象があって、そんな成長の仕方に個人的には魅力を感じた。
大物で巨漢な役者たちや老練な役者たちが沢山いる中で、華奢で若い女性役を見事に演じて上手く舞台空間に馴染んでいた井上さんは非常に素晴らしいと感じた。

最後に、浅野和之さんの代役として、医者の鱧瀬役を演じていた三谷幸喜さん。
三谷さんがステージ上に登場しただけで、客席から笑いがどっと溢れた、それはそうだと思いながら自分も笑っていた。浅野さんが新型コロナのため療養中で出演できないとのことで三谷さんが代役に。三谷さんの公演は、どんな役でも代役に三谷さんが自分で演じられるから面白い。そしてそこを違和感なく演じてしまうから凄い。
今回の鱧瀬役でも、足の悪い老人の医者という設定で、足取りがおぼつかなかったり、うだうだと話し始めた挙げ句に、やっぱり話すことを諦めてしまうあたりに面白みを感じた。鱧瀬は、劇の後半部分に少し登場するくらいなので、実際もっと見たかったなと思ったりした。
三谷さんは、今回の「ショウ・マスト・ゴー・オン」だけでも、小林隆さん演じる充の代役や、シルビア・グラブさん演じるあずさの代役を演じられていて、適応力が凄いなと舞台を観劇して改めて思った。特にあずさ役の三谷さんてどんな感じだったのだろうと色々気になってしまった。

他にも、触れておきたい役者さんは沢山いるがここまでにしておく。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

本当に今作は、私が年内50本以上観劇した中でもNo1ではないだろうかというくらい、沢山笑ったし最高に楽しませてくれた舞台作品で大満足だった。
ここでは、私が感じた「ショウ・マスト・ゴー・オン」の魅力について述べていく。

先述したように、私は学生時代に演劇創作側にいたり、アルバイトで舞台設営の経験があるので、演劇の裏舞台をなんとなく雰囲気だけでも掴んでいる節が元々あった。演劇活動をしていると、途中で人がフェードアウトしてしまったり、進行を乱すようなキラーが現れたり大変だったことはよく分かる。別に人がフェードアウトするのは演劇界隈だけでなく、どんな業界でも起こりうるピンチだと思うが、替えの効きにくい演劇であると人のフェードアウトは本当に致命的である。
今作でも、若手演出助手が一人この舞台作品からフェードアウトしているとの描写があった。そこが、たしか舞台監督の進藤によるパワハラチックな行いによる実家療養だったと思われる。若いとちょっとのことで心が傷ついて精神的に病んでしまう。しかし、そうやって若い頃に揉まれて成長するのが社会人というものだろうという進藤の価値観が、若干古いのだが、そこを若い舞台監督助手が指摘する点に、脚本としてのアップデートを感じた。
今作の初演版を私は拝見していないので、どの箇所が今回の再演によってアップデートされたのかを良く知らない。しかし、間違いなく1990年代はiphoneやLINE、というかスマホは登場していないので、木村さんのくだりはかなりアップデートされていると感じたが、それに加えてこの進藤の舞台監督としての仕事の流儀の古い価値観と、若手舞台監督の現代的な価値観の対立は、きっと今回の再演でアップデートされた点なのではないかと思う。そもそもこういったパワハラ問題が、こうやって問題としてクローズアップされたのがここ最近なはずなので。
そういう点でも、三谷さんはこの「ショウ・マスト・ゴー・オン」という名作を、今を生きる観客にも受け入れやすくするために効果的なアップデートをされていて、さすがは腕のある脚本家だなと感じた。

今作の魅力といったら、三谷さんのような舞台での現場を知っている人でないと書くことが出来ないネタが沢山盛り込まれている点だと思う。
例えば、本番直前だというのに主役の宇沢が酒を飲みすぎて寝てしまっていたり、野原のような裏方が折角頑張って良い形に持っていこうとするのを阻止したり、尾木のような声の届かないスタッフさんがいたり、脚本家がこれでは全然台本と違うと怒りを顕にしたりと、エピソード一つ一つに説得力があってリアリティが凄く伝わってきた。
特に、脚本家の栗林が、様々なバックステージでのアクシデントをごまかすために台本と演出がどんどん変わっていって憤慨しているシーンが観ていてとても面白かった。今年(2022年)9月に上演された玉田企画の「영(ヨン)」でも、こちらはテレビドラマの製作現場だが、脚本家があまりにも原作と違う製作のされ方をしていて憤慨するシーンがある。そこを思い出してしまったりして、脚本家と製作現場の対立って結構あるあるなのではと思ってしまった。
個人的に好きだったのは、様々な方の差し入れが舞台裏で溢れかえる感じと、それがなかなか食べられないという現状。野原が皆に配らないと賞味期限を切らせてしまうという台詞もなんとなくよく分かる。色々な人から差し入れを貰えると、なんだか色んな人から支援されている感じがあって温もりを感じる。

とにかく今作を観劇して、非常に三谷さんの演劇愛を感じた。演劇好きならもちろんのこと、演劇を普段観ない人にとっても十分楽しめる公演だと感じるので、多くの人に観てほしいと思った。


↓三谷幸喜さん演出作品


↓峯村リエさん過去出演作品


↓今井朋彦さん過去出演作品


↓井上小百合さん過去出演作品



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