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【教育ニュース最前線】注目の書籍『筑駒の研究』 / 東大学生団体FairWind

:::【教育ニュース最前線! 】:::

日々報じられる教育関連情報から、
教育業界への影響が大きいと思われる内容を、
代ゼミ教育総研 研究員が厳選してピックアップ。
それぞれの分析・私見を述べます。

今回は「筑駒」と「地方高校生」がテーマ。
高校(卒業)生たちのそれぞれの訴えや想いがあります。

教育・学校・入試について関心がある方々の、
考えるヒントとなりましたら幸いです。

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🔽【注目の書籍から読み解く】
 『筑駒の研究』小林 哲夫
 (2023.12.27 河出新書)

今回は教育ジャーナリストの小林哲夫氏の著作より、
「筑波大学附属駒場中・高等学校」について考えます。
詳しくは『筑駒の研究』にてご確認ください。

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\begin{array}{|l|l|} \hline\ \small形態 & \small書籍\ \\ \hline\ \small名称& \small筑駒の研究 \ \\ \hline\ \small出版元・雑誌名 & \small 河出書房新社 \scriptsize(河出新書・2023年12月初版)\\ \hline\ \small著者 & \small小林\scriptsize \small哲夫 \\ \hline\end{array}
$$

 

▷傑出した多士済々を量産してきた「筑駒」の魅力、本質、そして展望

東大合格者数ナンバーワンの高校と言えば開成。
まさに不動のトップに君臨しています。

しかし、現役合格率で見た場合は、違うイメージを持たざるを得ません。

東大合格者数トップ5の高校に限ってみれば、長年、“筑駒”こと筑波大学附属駒場中学校・高等学校が他の高校より高い比率であることはよく知られています。

いいかえれば、
東大現役合格へ一番近い進学ルートは筑駒にあり、
と言っても過言ではありません。

実は、筑駒は学年の定員が 160 人(募集人員;中学 120 人、高校 40 人)と、募集人員が計 400 人(中学 300 人、高校 100 人)の開成に比べるとかなり少人数の学校なのですね。
ですから、人数だけの指標では、目立たなくなってしまうわけです。

そのような小規模の学校でありながら、他の名門校に優るとも劣らず、
各界にたくさんの傑出した卒業生を輩出し続けています

政治家、官僚、学者、企業家・・・・まさに目も眩まんばかりです!

ちなみに、日銀総裁は現総裁の植田氏、前総裁の黒田氏と2代続けて、
筑駒出身なのですね。

本書のページをめくるたび、目に飛び込んでくる著名人の名前に、
えっ!この人も筑駒出身だったんだ、と驚くばかりです。

著者の小林氏は、そうした卒業生たちや、教壇に立った教員たちも含め
100 名以上の関係者にインタビューをし、彼らが語る筑駒(その昔は教駒)の魅力や裏話をもとに、300 頁を超える筑駒のワンダーランドを余すところなく描きだしています。

その学校の本質を知るには、当事者が直に語るエピソードを教えてもらうことに優るものは無いのです!

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1947 年、東京農業教育専門学校の附属中学校として産声を上げ、その後、校名変更や抽選入学導入など、様々な出来事や危機を乗り越えながら、この奇跡の学校が形作られていきました。

その過程には、かつて東京都が導入した学校群制度が大きく作用したことは否定できませんが、国立大学附属という枠組み、つまり自由裁量や先進的教育が認められているという特殊事情が、こうした“自由闊達”の理想郷ともいえる環境を生み出した一つの要因と言えるのでしょう。

しかし、小林氏はこの著作を、単なる“筑駒賛美”には終わらせていない点も敢えて強調しておきましょう。

たとえば、大学受験に関しては、半数以上の生徒が塾に通っている実態を包み隠さず指摘していますし、最終章の「筑駒はどこへ行くのか」では、昨今のダイバーシティ重視の流れ等に対して、果たしてこのままでいいのか、という視点から、卒業生たちの声を交えて考察しています。

💡研究員はこう考える

それにしても、この労作を読み終えると、つくづく
“ 学校 ” というのは、ほんとうに不思議な存在である、と感じるのです。

生徒、教員など、さまざまな人たちが、同じ学び舎の下で、
日々教え、教わり、切磋琢磨する中から、いつしか独自の校風や伝統が生まれてくる・・・まるで、化学反応のように。

そして、毎年新たな若人が呼び寄せられ、新たな息吹が吹き込まれていく・・・。

学校イコール教育機関、というありきたりな定義を超え、
あたかも生き物のような現在進行形・未来形の文化装置である、
ということの素晴らしい実例を、この『筑駒の研究』は教えてくれるのです。

魅力溢れる筑駒が、これまでの実績を踏み台にしながら、
これからどのように飛躍していくのか、ますます楽しみになってきました。


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都内にこのような東大現役合格率トップ高校がある一方で
地方から東大を目指す高校生もいます。
つづいてのトピックでは、そんな彼らを支援する東大生の団体を取り上げ
地方における情報・環境格差について考えます。

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🔽東大生のFairWind

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令和5年度に一般選抜で入学した東大生2,997人のうち、東京出身者は1,008人、関東出身者は1,725人で全体の約57%を占めます。

首都圏の大学を目指す地方在住の高校生に立ちはだかる数多くの壁を
取り払い、誰もが自由に進路を選べるようになってほしい――

このような思いを抱えた東大生が運営する団体「FairWind」(フェアウィンド)は、今年で創設15年目を迎えました。

▼地方高校生の「壁」、首都圏大学受験の情報・環境格差に挑む東大生団体の願い ロールモデル不在や予備校不足など課題は山積(東洋経済・5/12)

FairWind ウェブサイト

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2023年度 10 月時点で 150 人を超えるメンバーが活躍しており、その多くは地方出身者です。

彼ら彼女らも首都圏との情報格差や環境格差に悩みながら、FairWindと接点を持ちました。

コロナ禍では活動の制限を余儀なくされましたが、東大キャンパスツアー、地方出張セミナー、オンラインセミナーなど活動は多岐に渡り、2022 年度は、52 校、2,482 名の生徒に企画を実施しています。

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💡研究員はこう考える

▷異なる世界の存在を知り、差異に触れることで生まれる可能性

大学進学をめぐる地方の課題は様々ですが、そもそも、情報が少ないです。
大学自体が遠い存在であり、マスメディアで学生の優秀さが強調される東大は別世界の存在です。

大学生と話す機会もないかもしれません。
高校教員にも進学指導のノウハウがないことがあり、難関大を目指すための塾・予備校もありません。

もちろん、大学進学が全てではありませんし、皆が東大を進路の選択に入れなければならないということもありません。

また、社会にはそもそも様々な差異があり、均質、同一の環境が実現することはありません。

しかし、違いがそのまま放置されてもよいでしょうか。
社会全体のポテンシャルを上げることを考えた場合に、どうでしょうか。

そして、歴史を見てみると、文化や社会は、異なるものとの遭遇と交流によって、影響を与え合い、変化し、新たな可能性を見出してきました。

私は、大切なことは、

首都圏にいようと離島にいようと、自分がいる場所とは異なる世界が存在し、差異に触れることで自己や取り巻く環境がより豊かになる可能性があると知っていること

だと思います。

自分という生き物も、自分が所属する文化や社会も、未来永劫変わらないものではありません。

「絶対」ではないのです。

他なるものに接し、より面白く、より幸せになる可能性があります。

大人の若者に対する役割はそれを教えること、自らが率先垂範することではないでしょうか。

異なるものとの出会いの喜びを率直に語ることが必要です。

地方の高校生の「追い風になりたい」というFairWindの活動には、
大いに期待したいです。

これは東大に限った話ではありません。

教育委員会であれ、教員であれ、教育界以外の誰であれ、
生まれ育った場所を愛しながら、しかし囚われずに越境、挑戦する素晴らしさを若者に伝えたいものです。



◆編集部後記

いかがでしたか。
立場の異なる視点からの「教育への想い」に触れることで、
改めて教育の多様性や格差に考えを巡らすきっかけになれば・・・
と願っています。



vol.05-1はこちら👇

次回、vol.06 もお楽しみに📓

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教育ニュース最前線「研究員はこう考える」ライター、
林 正憲がパーソナリティを務めるラジオ番組のご紹介❕

毎週木曜日の午後9時から代々木ゼミナール提供、
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よろしければ、ゆる~く、お聴きください。

電波が届かないところでもインターネットで視聴できます。

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