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新星・データサイエンス学部の誕生は、既存の学問における手法・理論、さらに文・理の境界の見直しにつながるか・・・

期待の新学部、あらわる

中世ヨーロッパで生まれた大学は、その誕生から今日に至るまで、
実に多くの学問を生み出してきました。

神学、法学、医学や、自由学芸7科(文法、修辞学、倫理学(弁証術)、算術、幾何学、音楽、天文学)からはじまり、現在では、綺羅星のごとく様々な学問が誕生し、世界中の大学で研究されてます。

そして、21世紀。
コンピュータの発達とICT技術の進展とともに、ビッグデータ時代が到来。
“21世紀の石油”とも称される膨大なデータ群を分析し、そこから有益な価値を見出して、地球上の諸課題を解決するために役立てる・・・
そうした重要な責務と期待を担った新学部「データサイエンス学部」が誕生したのです。

学問間の境界、あるいは文系・理系の壁を突き抜け、パラダイムシフトを起こす可能性を秘めた新学部について、最新のトピックスから、その姿に迫ってみたいと思います。


国内でも新設ラッシュ

国内でもデジタル人材の不足が叫ばれ、これに呼応するように、全国の大学では「データサイエンス学部」の新設ラッシュが起きています。

2017年の滋賀大学(滋賀県)を皮切りに、その後、横浜市立大学(神奈川県)や武蔵野大学(東京都)など、全国各地に続々と誕生し、学科まで含めると多くの大学にデータサイエンス学部・学科がすでに設置されています。

そこに来春、注目のデータサイエンス学部が、新たに誕生します。
社会科学の殿堂とも称される一橋大学(東京都)の「ソーシャル・データサイエンス学部」です。

一橋大学にとって1951年に法学社会学部を改組して4学部体制にして以来72年ぶりに設置する新学部です。


“社会科学の殿堂”ならではのスタンス

文科省からこのたび正式な設置認可が下りたのを機に、11月5日には、オンラインでオープンキャンパスが行われました。
 
一橋大学の新設学部が、これまでのデータサイエンス学部と一線を画す点は、データサイエンスに「ソーシャル」を冠として載せていることです。
 
学部長就任予定のソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター・センター長の渡部敏明教授は、次のメッセージを寄せています。

本学部・研究科では、現代社会における新たな課題を解決できる人材を養成するため、社会科学とデータサイエンスが融合して生じた「ソーシャル・データサイエンス」の教育研究を推進します。我々と共に学び、新たな学術領域を共に切り拓いていく意欲のある方々に、是非本学部・研究科に進学して頂きたいと思います。

一橋大学ホームページ ソーシャル・データサイエンス学部 メッセージより

新たな学術領域を切り拓く——
この言葉にはデータサイエンスによって既存の学問の可能性を広げてほしいという願いが込められていますね。


他学部生も受講可能に

一橋大学は、商学部など、既存4学部に入学した学生も、データサイエンス学部の講座を受講できるカリキュラムにすることを打ち出しました。データサイエンスはすべての学生が学び備えておいてほしい大切なスキルということで、他学部の学生にも門戸を開けています。

新学部の開設は、既存の4学部(商・経済・法・社会)への好影響も期待されます。本学では、伝統的に学部間の垣根が低く、他学部の授業もほぼ自由に履修することが可能です。そのため、特定の社会科学領域の理論を深く学びたい新学部の学生は既存4学部の授業を履修し、データサイエンスの技術を学びたい既存4学部の学生は新学部の授業を履修することで、本学のすべての学生が、現代社会の課題を解決に必要な知識・技術を身に付けることができるようになります。

一橋大学ホームページ ソーシャル・データサイエンス学部 学部・研究科紹介より 

ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター・副センター長の
七丈直弘教授も、オープンキャンパスの講演のなかで、社会科学の側からみても、データサイエンスが、多くの分野で大きな変革をもたらしていることを報告しています。

「単に分析がより早く行われるようになったり、幅広く行われるようになっただけでなく、理論そのものもいま再構築されようとしている」

理論そのものの再構築―—着目したいメッセージですね。


社会科学系大学が設置する意義とは

今回、注目すべきは、何といっても、社会科学系大学の頂点に君臨する一橋大学が、一見、理工系とも見えるデータサイエンス学部を設けた点でしょう。

では、データサイエンスと社会科学のかかわりは、果たして何か?

今回のオープンキャンパスでも具体的な説明がありましたが、一橋大学が専門とする社会科学の領域には、実は膨大なデータが存在するのです。
たとえば、日々世界中で生み出される株価や為替といった金融データから、企業の財務諸表、国家・国際レベルでのマクロの経済データ、そして、社会にあふれるメディアやSNSなどの文字データ、画像データなども含めたデータ等々・・・

様々な社会課題を解決するためには、これらのビッグデータが大切であり、それを分析し、そこから有益な解決策を導きたい、ということです。

「社会科学とデータサイエンスの「融合」による現代社会の課題解決」を標榜する新設学部は、「急速かつ複雑に変化する現代社会の課題を解決するため」に、「適切な課題を発見・定義し、必要なデータを収集・分析して、そこから得られた示唆を社会実装すること」をミッションとしているのです。

ここに、他大学のデータサイエンス学部との大きな違い、があると
強調しているのです。


理系分野の専売特許ではない

もともと「データサイエンス」という単語からは、理系や理工分野というイメージを抱きやすいのではないかと思います。
しかし、一橋大学の事例でもおわかりのように、データが存在する領域はすべてデータサイエンスの研究対象となり得る、ということです。
データサイエンスの対象領域は自然科学だけでなく、
データサイエンスは決して理系分野だけの専売特許ではないのです!

一橋大学の新学部の例が示す通り、経済学・経営学・法学・政治学・社会学といった社会科学系分野はもちろんのこと、人間の内面に関する研究分野を有する人文科学の分野、例えば心理学なども、豊富なデータが存在する限り、十分に対象になる可能性があるということです。


従来の心理学を超える

2022年4月に開講した愛知学院大学(愛知県)の心理学部は、HPで、
「心理学×データサイエンス」をメインテーマに掲げ、データサイエンスと心理学が切り離せない関係であることを強調しています。

見たり触れたりすることができない人間の心理に迫るために、心理学では
アンケートやインタビュー、実験・観察といった手法を用います。
こうして収集したデータを正しく処理・分析し、得られた情報を
根拠(エビデンス)として研究を進めます。
データサイエンスとは、大量のデータの中から意味のある情報を取り出すための科学と技術
心理学とは切り離せない関係にある学問です。

愛知学院大学ホームページ 心理学部特設サイト 
コラム なぜ「心理学×データサイエンス」なのか。より

 そして、重要なのは、従来の心理学の領域を超えた学びの可能性を示している点です。

「従来の心理学の領域を超えた幅広い学び。
心理学的実証データを有効活用し、ビジネスや産業、研究・開発分野において活躍できる知識・スキルを身につけます。」


スポーツ×データサイエンス

スポーツの世界もデータサイエンスとは無縁ではありません。

立正大学(東京都)のデータサイエンス学部では、世界で活躍するデータサイエンティストを招聘するなど、データサイエンスの力をビジネスや社会、さらには観光やスポーツなどの幅広い世界で生かせるカリキュラムを提供しています。

たとえば、スポーツの分野では、AIやIoTなどの最先端技術を駆使し、選手の動きやコンディション、チーム状況に関するデータを解析、活用して、スポーツ界をデータサイエンスの力でさらに発展させる力を身に付けさせることを目指すとのこと。

 同学部の永田聡典講師は、思い込みや身体のオーバーユースを防ぐことなど、スポーツにおけるデータの有効活用の事例を具体的に紹介しています。

 

パラダイムシフトを起こす可能性も

ビッグデータと一見かけ離れていると思われていた世界や領域も、
データサイエンスによってつながり、学問領域そのものが広がっていく。

そうしたプロセスのなかで、これまで構築された理論や、正しいと思われていた原則が見直される可能性がある、というわけです。

長い研究の歴史を有する学問領域であっても、データサイエンスの手にかかると、ひょっとすると、パラダイムシフトが起きて・・・
と、学問研究の新たな展開を予感させます。

大いに期待しましょう!
 

次回は、データサイエンス学部の入試の特徴を探り、
長年続く「文・理分け」の問題にも分け入ってみたいと思います。

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