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【座談会】東大女子は「女子枠」に賛成?反対?メリットと課題について考える

みなさんこんにちは!#YourChoiceProjectライターのききです。

2024年3月、京都大学が2026年度の入学者選抜から、女性比率を向上させるため理学部・工学部に特色入試(女性募集枠)を設定したことを発表し、賛否の議論を巻き起こしました。その他、東京工業大学や東京理科大学でも2024年度入試から「女子枠」を実施。全国の国公立大学に「女子枠」導入の動きは広がっています。

多様性確保のための制度?しかし、結果として女子生徒を優遇していることにはならないのか?今回は団体メンバー4名で「女子枠」について考える座談会を実施しました。(当記事における発言は、あくまでもメンバー個人の意見で、団体の見解ではありません。)

対談メンバー

きき:ファシリテーター&筆者。文科三類2年。
おりがみ:文科三類2年。
きなこ:文科一類2年。
ゆう:文科三類1年。
全員東京大学の女子学生です。

はじめに

きき:京都大学が2026年度から理学部と工学部で、いわゆる「女子枠」を設けると発表しました。このことについて知っていますか?

おりがみ:ニュースとかでは見るけれど、詳しい内容は知らないです。

きなこ&ゆう:同じくです。

きなこ:東工大とか京大とか、レベルが高いとされる大学で*導入が進んでいるんだなという印象があります。そういう社会情勢になっているのを感じますね。

おりがみ:個人的には「女子枠」推進派ですが、批判があるんだろうなというネガティブな印象が先行しました。トレンドになっている、トレンドになっていくと捉えている人もいますが、個人的にはそこまで現実的なものとしてイメージできていません。

きき:私も、正直、女子枠が受け入れられている未来はイメージできません。

ー解説ー

*導入が進んでいる:朝日新聞社が2024年4〜5月に行った調査によると、入試に女子枠を導入済み、導入予定または導入を検討している国立大学は4割に達することがわかった。導入済みが、東京工業大や熊本大など12大学。導入決定が、京都大や千葉大など17大学。また複数の大学が導入の方向で検討していると明らかにしている。
「国立大4割に『女子枠』 入試に導入『男女比、偏り是正』 主に理工系、総合・推薦型で 朝日新聞社調査」朝日新聞2024年6月14日朝刊。

女子枠のメリットとは?

きき:批判はあるとはいえ、女子枠の導入が進んでいるのだから、女子枠に何かいい面があるのだという前提に立つとすると、何が挙げられると思いますか?

おりがみ:強制的に確実に女子が増えるのはいいことだと思います。数が少ないと、どうしても女子の立場から話をしなければならないことが多いので。もっと、いち個人として話せるぐらい女子の人数がいれば、自分の意見として話せるのに、と思うことはよくあります。

きき:いわゆる*クリティカル・マスの問題ですね。集団の中で3割に満たないと、マイノリティとしてその属性の人を代表する意見として受け取られてしまう、という課題があります。

たとえば男女平等に関していうと、集団の中で3割以上の女性(または男性)がいることで初めて、十分な発言権が確保され「女性として」ではなく「個人として」意見をいうことができると考えられています。反対に、女性が1割程度しかいないと、その女性たちに求められる象徴としての役割が強くなると言われます。

ゆう:私は中高のときよりも東大に入ってからのクラスの方が女子の割合が多いという特殊な状況に置かれているんですよね。だから、今の方が意見を言いやすいかも、と感じています。「女子」として扱われにくくなるというのはあると思います。

おりがみ:他にも、今の学生の属性が偏っていることに関して、少しでも是正できる可能性があるとは思います。

きき:東大で生活していて偏っていることって感じますか?

ゆう:文三のクラスでは個人的には、あまり感じないですね。

おりがみ:浪人に対する考え方の相違とか、学内をぱっと見て男子生徒と思われる人が多いなとか、中高一貫校出身者が多いなとか。

きき:少なくとも、東大内の環境が「今の日本の平均ではない」というのは忘れてはいけないような気がします。

ー解説ー

*クリティカル・マス:意思決定の場にマイノリティを増やしていく際に、集団の中で存在を無視できない、発言権が確保できるグループになるための分岐点があると考えられており、その分岐を超えたグループを「クリティカル・マス(Critical Mass)」と呼ぶ。その分岐は約3割と考えられている。もちろん1割でもマイノリティが関わることに意義はあるが、象徴的存在に陥ってしまう可能性も高いといわれている。

↑座談会の様子

女子枠の問題点は?

きき:実際、女子枠の制度にも課題があって、反対派がいるのも看過できない事実です。

ゆう:本来なら(従来の入試のシステムであれば)入学できなかったはずの人が入学できたり、反対に入学できたはずの人が入学できなくなるという状況が生じてしまうので、批判が生まれるのはわかります。でも、そうでもしないと女子生徒が増えるという状況にならないのなら、導入が必要なのかもしれないとも思います。個人的には賛成派とも反対派とも言えません。

おりがみ:ですが、「本来なら」っていうのは、今のシステムが公平だという前提に立っていますよね。だからそもそも、現在の状況が公平かどうかを検討することは必要だと思います。

ゆう:他にも、女子枠の制度で入った人に対しての偏見が生じる可能性もありますよね。

きなこ:実際自分だったら、女子枠の制度を使わないと思います。他の学生と対等に戦っていないと感じて、入学してからも引け目を感じてしまいそうですよね。

現状の入試システムと導入の方法

おりがみ:どのような導入システムかによっても、意見は変わってくるような気がします。推薦入試に近い形で実施するのか、一般入試でボーダー付近の調整を行うのか。

きなこ:そもそも今の入試システム自体、運の要素が強いですよね。当日の点数で測られるって。

おりがみ:推薦入試のような導入であれば、本人が言わなければ女子枠で入学したことはわかりません。それに、現在の東大の推薦入試合格者に対する態度を見ても、そういった人たちに対して偏見があるようには思われないので、杞憂かもしれません。でも、学力のテストを通過していないことに対する、ある種不平等な感じは残りますよね。

一方で、ボーダー付近での調整をすれば、誰が女子枠を使って合格したかがわからない点でいいのかもしれません。あ、でもそれって、女子枠で入学した個人ではなく、女子生徒全般に差別が向く可能性が生じることになりますね。そこに不毛な分断を生むのはいやです。

女子生徒にとっても最終的に「女子だから」という理由で合格したとなると、苦しいですね。

きき:2023年度の*駒場祭で実施した座談会のときにも出た話ですが、薬学部教授の後藤由季子先生は「ボーダー付近で受験生同士の実力差はない、であれば集団全体の多様性を増大させる入試システムにしてもいいのではないか」という趣旨のことをおっしゃっていました。

上記の運か実力かという話にもつながりますが、実際、ボーダー付近の実力差は大してないんですよね。これは、ボーダーラインでの調整に関して、反論できるかもしれません。

おりがみ:ただ、それって合格者の多様性は高くなるかもしれないですが、受験者の多様性に影響を及ぼすことができるかと考えると、正直そこまではできないのではないかと思います。今すでに受験にハードルを感じている人に対しても、アプローチできるといいですよね。

きき:今まであがった課題に対して、何か解決策はありますか?

おりがみ:もし現時点で、女子枠で入学した生徒に対して偏見を感じる人がいるなら、その意識を変えるのはとても難しいと思います。それに、賛成派と反対派とで真っ向から対立しているというよりは、重視している観点が違いますよね(*フレーミングの違い)。だから、完全に両者が納得することは難しいと思います。

きき:本来は集団全体のための制度であるはずなのに、個人その属性の人のためのものとして見られてしまうという問題があるなと感じました。でも確かに、受験は当事者にとっては現実ですからね。

ー解説ー

*駒場祭で実施した座談会:#YourChoiceProjectは、2023年度駒場祭で教育系8団体の集いの一員として、中高生のための進路相談&座談会に参加した。企画の際、団体はパネルディスカッション「なぜ地方女子は東京大学に進学しないのか」を実施し、ゲストに元東大王の紀野紗良さんと薬学部教授の後藤先生をお招きした。パネルディスカッションでは、メディアが形成する東大のイメージとその弊害、東大によるジェンダー問題への取り組みについて話し合った。

*フレーミングの違い:フレーミングとは、問題を切り取る視点のこと。同じ問題に対する別の問題の立て方がされるために解決が難しい問題は数多く存在する。例えば、ダイエット中の人にとって、ラーメンは美味しい(利点)がカロリーが高い(欠点)。このとき、利点の立場は味の要素を切り取り、欠点の立場は身体・健康への影響を重視するという、切り取り方すなわちフレーミングの違いが生じているため、しばしば解決が難しい。

まとめ

きき:今までの議論を踏まえて、どう思いますか?

ゆう:うーん、難しいですね。

きなこ:女性の割合が低い、そのことによって弊害が生じているという課題を世間に訴えることができる点ではいいことなのかもしれないなと思います。

おりがみ:確かに、今の中高生と地方女子の問題を語ろうとすると、たぶん問題の概要から説明をしなくてはならないような気がします。まだ、進学におけるジェンダーギャップの問題が世間に知られていないという課題はありそうですね。

ゆう:世代を経て、ジェンダーに対する価値観は変化しつつあると感じます。女子枠についても、少しずつ受け入れられているという印象はありますね。

おりがみ:でも、このスピードでいいのか、とも言えます。

きき:*スティグマ(偏見)などの問題を乗り越えられないうちは時期尚早だと感じずにはいられない、一方で、だからこそ導入すべきという考え方もありますよね。

おりがみ:気持ちとしては賛成に近いけれど、積極的に推進を打ち出せない自分がいます。批判に対して、自分の中で解決できていない部分があると感じます。

きなこ:そもそも、なぜこのような女子率になっているんだろう?理科一類とか特に女子率が低いですよね。

きき:まずは、現状生じているジェンダー問題とその原因について、社会全体で考えていく必要がありそうです。

ー解説ー

*スティグマ:社会的な偏見や差別の対象となる特徴や属性を指す言葉。ここでは、「女子枠で入学した生徒」というレッテルを貼って、一般的な学力試験を通過しなかった者として偏見や差別の対象とすること。

最後に

筆者から見た団体メンバーは、賛成・反対どちらの立場につくべきか決めきれていないと考えていると同時に、一方の立場につくことの危うさを意識しているように感じました。筆者も、一方の立場に固執してしまうと、見えなくなる課題が多いのではないかと思いました。

今なお男女共同参画社会が達成されていないとしたら、その原因が何にあるのかを考えることからスタートしていかなければならないと思います。その上で、そこへのアプローチ方法が適切かを吟味していく必要があります。1999年に男女共同参画社会基本法が制定されて、四半世紀が経ちました。今一度、男女共同参画社会の実現方法とその課題について考えてみてはいかがでしょうか。

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