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【エッセイ】10年ひと昔

「十年ひと昔」とはよく言ったもので、その頃の経験を今やっと落ち着いて話せるようになった。
 Amazonプライムで『Fukushima 50』という映画を観た。言わずもがな2011年の出来事。
 当時の僕は広告代理店という立場から、億のカネを操り、原子力のPRをする仕事をしていた。2010年頃の日本はまさに「原子力ルネサンス」の絶頂期。目に見えて予算も増額していった。
 チェルノブイリやスリーマイル島の事故は既に風化。東海村のもんじゅのことも。そして常任理事国の核実験も一通り終わった。フランス領ポリネシア。アメリカ・マーシャル諸島。太平洋を汚すだけ汚し、研究者はデータを抱え本国に去った。当時大騒ぎした人々も、もうすっかり影を潜めていた……
 その後大きな原発事故はなく、むしろ、京都議定書やCOP〇〇といった地球温暖化対策の動きが加速。CO2を出さない発電方法としての原子力は再び輝きを取り戻しつつあった。その波に、僕も乗った。
 重要な関係者として核燃料プールの目の前まで数十回と招かれた。そこで真面目に働く数千の原子力村の人々を横目に、安全担当者から何度もその対策を聞いた。そしてそれを、メディアを使い、広く国民に伝えることを託された。
 映画の中にも出てきた専門用語の数々。分かる。懐かしい。違う意味で涙がこぼれた。
 複雑な構造。無関心の的。口に出すことさえはばかられていたその問題に、僕は毎日取り組んでいた。

 2021年。

『復興五輪』と言われていたのに、もはやその灯はマラソンの聖火にしかないように見え、逆にむなしい。
 別に語り部になるつもりはない。それでも十年も経てば、利害関係者は個人的関係者になった。
 機会さえあれば語ってもいい気がする。ひと昔前の、あの話。

クスっと笑えたら100円!(笑)そんなおみくじみたいな言霊を発信していけたらと思っています。サポートいつでもお待ちしております。