RPG 18勇者、横熊山遺跡へ

蛙神社の青いウシガエルを倒したぼくら勇者パーティーは、次の目的地、横熊山遺跡を目指す。

レベル8になり、自信もちょっとついてきた。

「蛙こわかったー」
お寺の娘の僧侶カナは首をすくめて言った。

「木魚が戻ってきてよかったね」
そんなカナに魔法使いヒラが言った。

「う○こ花火買っててよかったな」
戦士ヤスは自分の手柄のように言った。 

さて、目指す横熊山遺跡。

横熊山遺跡は光沢にある小さな遺跡だ。
住宅地の真ん中にある。
遺跡とは、わからないくらい。

二師鉄電車の線路沿い。

ちょっとした高台になっている。
きっと昔は周りも何もなかったのだろう。
緑だけの平野に遺跡はぽつんとあったはずだ。
しかし、住宅開発が始まって、砂山の砂が周りから削られるように、緑が失われていった。
結果、高台の遺跡だけが残って、周りは住宅地という風景が生まれた。

本当に緑だ。松くらいしかない。何もない。
だからと言って、草が生い茂っているわけではない。きっと遺跡だから、誰かが管理しているのだろう。だから、緑の他に何もないのだ。高台にあるので、市民の憩いの場所にもならない。ただ緑が残されているだけなのだ。

「わぁ、これ、登るの?」僧侶のカナは言った。

「結構、急だな」戦士ヤスが言った。

「登れば、きっと手がかりがあるはずだよ」魔法使いヒラも言った。

登り切るのに、5分もかからなかった。

登り口がただ急勾配なのだ。ぼくらは植えている松の幹を支えにして登って行った。松にとまって鳴いていた蝉がびっくりして、飛んで行った。

ようやく開けた場所に出た。見晴らしがいい。住宅地の真ん中にあるだけあって、屋根ばかりが見える。

「本当に何にもないな」戦士ヤスは不満顔だ。

蝉がまた鳴き始めた。たくさんのアブラゼミがジー、ジーッと鳴いている。
「まお、、、た、、、ば、ひ、、、、、け」

「シーッ。今、魔王って」僧侶カナがぼくらを遮った。
蝉の鳴き声の中に「魔王」という言葉が繰り返されている。

「こっちみたい」魔法使いのヒラが声のする方に注意深く進む。

そして、止まった。
「これ、見てよ」

ヒラが指差したのは、立派なアブラゼミだったのだ。
しかも、ピンク。ピンク色した虫が松の木の根元にしがみついている。大きさは30cmくらいある。身体が太くごつい。周りのアブラゼミはジー、ジーと激しく鳴いているのに、そいつは黙っている。

「これはメスだな。だって鳴かないもん」ヤスが言った。

すれと、その立派なアブラゼミが鳴き始めのだ。人間の言葉で。
「まおたをさばひらをかぱんにいけ」
「まおたをさばひらをかぱんにいけ」
「まおたをさばひらをかぱんにいけ」

そして、その言葉を言うたびにデカくなっていく。
「鳴いてるから、オスだ、オス」
戦士ヤスはどーでもいいことにこだわっていた。

「オスでもメスでもどっちでもいい。とにかくヤバいやつかも」

魔法使いヒラがヒノキボーを構えた。


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