市内RPG 23メロンパンレディ現る
ぼくらレベル9。戦士、勇者、魔法使い、僧侶のパーティーは平岡パン工場の4階を探索している。
2階ではアンパンくんを倒し、3階では辛口カレーパンさんをやっつけて、エスカレーターで4階へやって来た。
4階は、一面黄緑色。絨毯も黄緑色。壁紙も黄緑色。カーテンも黄緑色。
「バッタか、河童が喜ぶな」
戦士ヤスが適当なことをつぶやいた。
「バッタですってーーーーーー。失礼なーーーーー」
「それ、また魔物になるんじゃない?」
僧侶のカナは心配しながら、ぼくが持っている紙袋を見た。
カナの予想通り、紙袋は動き出して膨れあがっていく。
「うわあ」
ぼくは紙袋を投げ捨てた。
「買ったパンすべてがバケモノになるなんて。なんて店だ」
ヤスが言った。
落ちた紙袋からメロンパンが転がって、どんどん大きくなり、人型になった。
「わたくしがメロンパンレディーざます」
メロンパンレディは、マントをひるがえしながら言った。
「今度はメロンパン。ランチがなくなったじゃない」カナが言った。
「女だって容赦しないぞ」ヤスが飛びかかった。
「メロンパンに性別はないざますーー」
メロンパンレディは、ヤスが打ちかかるバトルステッキを、杖でなぎ払った。杖の先にはメロンパンがのっている。
「だって、レディなんだろ」
ヤスがまた言った。
「メロンパンに性別はないざます。わたくしは、美しいと思った格好をしているだけざます」
「そうよ、そうよ。女だからとかを理由にするなんて、おかしいわよ」
カナはいつの間にかメロンパンレディの味方になっていた。
「おい、おい、カナ、、、、」
「ごめん、あまりに、正しいことを言うから」
ぼくらは、気持ちを切り替えて、メロンパンレディに対峙した。
「メロンドローーーップ」メロンパンレディが杖を頭上で振り回した。
「いててててて」
なんと上から、大量のメロンが落ちてきた。
「ミナアツッ」
魔法使いヒラが火の全体呪文を唱えた。
落ちてきたメロンが黒こげになった。
「あーあ、もったいない」カナは悲しそうだ。
「メロンドローーーップ」メロンパンレディは再び呪文を唱えた。
「ミナアツッ」ヒラが火の全体呪文で防ぐ。
黒こげのメロンが転がった。
「ヒラ、また水の呪文が効くかも」
ぼくはヒラに叫んだ。
「ミナツメタ!」
水の全体呪文。またずぶ濡れだ。
大きな波がメロンパンレディとぼくらを飲み込む。
「きゃーーーー」
メロンパンレディが叫び声を上げた。
効いている。
弱ったところを、ぼくがヒノキボーで打ちかかった。ヒノキボーが腕に当たると、メロンパンレディはメロンの杖を床に落とした。
そして、がっくりとひざを落とした。
カナが優しく話しかけた。
「もうやめましょ。力が入らないはずよ。どうして魔物なんかになったの」
メロンパンレディは濡れていた。ぼくらも濡れていた、3度目だけど。
「わたくしの負けざます。わたくしたちは売れっ子パンざます。みんながおいしい、おいしいと言って食べてくれるざます。でも、わたくしたちはそのおいしさを知らないざます。食べてみたい、食べてみたいと念じていたら、ある日「人型にしてやろう」と青い光が言ったざます。それからは、ときどき人型になってパンを食べていたざます」
「それが魔王かも」ヒラが言った。
「魔王はもういないざます。エオンの方に飛んでいったざます」
「エオンかーーー」
子郡市のショッピングセンターだ。
「もう悪さをするなよ」ぼくは言った。
「おいしく食べてくださいざます」
メロンパンレディはそう言うと、もとのパンに戻った。
ヒラがそれを拾って、紙袋に入れた。
「しめったあんパンとカレーパンとメロンパンになっちゃったな」
ヤスが言った。
「終わったわね。写メして」カナが言った。
「経験値1500、1000円獲得」すぐに返信があった。
「おなかすいたよ」ヒラが言った。
「今回はヒラが大活躍だったね」ぼくはヒラの肩をたたいた。
「みんなずぶ濡れになっちゃったけどね」カナも微笑んだ。
「暑いから丁度いいよ。流水プールみたいなもんだ」ヤスも笑った。
「気を付けます」ヒラは肩をすぼめた。
「さあ、1階でランチにしましょう」カナが元気に言った。
やっぱりカナはランチのことばかり考えていたんだ。
ぼくらは1階で、メロンパンとカレーパンとあんパンとサンドイッチを買って、おいしく食べた。
これなら食べたくなるな。メロンパンレディの言葉の意味がよくわかった。
紙袋はカナが持って帰った。
実家がお寺のカナはお経を上げたあとに、レンジであたためておいしく食べたという。
「とてもおいしかったわよ」カナは、後日そう話した。
前回はこちら。
おひまなら、こちらもどうぞ。
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