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小説

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高校時代から今にいたるまで
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桜の質量



大切な人の体が、病に侵された。
それは二十四歳になってすぐのことで、その病気の治療法なんて一つも見つからない。だって、特殊な病気すぎて前例が今までにないものだったのだから。私の恋人、楢橋朔也とはもう言葉では言い表せぬほどの縁で結ばれていた、ように感じる。朔也とは高校に入学してから出会った。四月九日。桜満開だけど少しだけまだ肌寒さが残る入学式。私は学校に行くまでに経由するとある公園の桜の木の下

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ごめんねバウムクーヘン

金木犀の花が鼻腔を擽るそんな秋晴れの空の下で結婚式はしめやかに行われた。
純白のドレスに身を包んだお嫁さんの美しさもさることながら白いタキシードで凛然と新婦をエスコートする新郎が神々しく見えたぐらいだ。そんな新郎が恨めしく思えてしまうのもボク自身の不甲斐なさからだろうか。そもそも僕は人の幸せを祝福してやれないほど心に余裕のないやつではなかった。高身長、見た目からわかる教養の高さ、新婦を何一つ戸惑わ

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メロンパン泥棒

夏休み十四日目の午前九時三十八分。僕は台所から持ってきたメロンパンを片手に目の前のスマホに夢中だった。家には誰もいない。昨日から両親は仕事で家を空けている。その上泊まりで。つまり自由の身だ。あいにく、出された課題をやるつもりはないしましてやこそっと連れ込むような彼女なんている筈がない。好きな時間に起きて好きな時間に食べて好きな時間にゲームをして。そんな怠惰な生活に誰も嘴を入れてくる人間がこの一つ屋

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桜だなんて

                 
同室にとんでもないイケメンがいる。その事実が入院中の私にとって唯一のいい事だった。別に極端な面食いというわけではないし彼氏いない歴イコール年齢とかでもない。それでもドラマで顔立ちがいい人をみると心が弾むし、アイドルだって追いかけてたりする。もしかしたらこれを面食いというのかもしれないけれど。それは現実だって一緒だ。イケメンは正義。目の保養なのだ。同室にいるとんで

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充電器

                    
「はあ、金足りっかな…」
電柱の明かりだけが辺りを照らしている。人影の乏しいコンビニエンスストア。電気だけが存在するコインランドリー。どこかから聞こえるバイクの音。そんな中に一人、俺はない行く先を探して迷っていた。そう。いわゆる俺は家出少年なのである。簡単に言えば、親と進路の方針が一致しなかった。医学部に行って自分の後を継いでほしい父と、法学部に行って弁護

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