見出し画像

教育相談の段階について

個別の生徒に対する教育相談は、生徒の状態の段階によって、対応を調整する必要がある。

教育相談には、生徒の不安や不満、悩みを「聞く」というカウンセリング的な場面と、学習や生活、人間関係や進路等について、具体的に「助言する」という場面がある。これらを生徒の状態によって使い分けながら、生徒本人の日常生活の安定を図る支援である。(実態としては、目的は非常に多様である。)

病気の治療で用いられる言葉に、「急性期」「回復期」「慢性期」がある。この用語を教育相談に当てはめるには、多少誤解を招きかねない危険はあるけれども、生徒の状態を言い表すには便利なので、使用する。

教育相談における「急性期」は、何かが起きてすぐの、混乱している状態である。何かとは、外から見て明らかなこともあれば、心の中だけで起きた変化かもしれない。自覚できる部分もあれば、自覚できない部分もあるだろう。

例えば、教師に相談に来た場面で、自分に何かが起きたことに自覚的であり、そのことについて混乱状態にあるため、相談したいという場合があるだろう。また、問題行動を起こして面談することになった場面で、自分に何かが起きたことには自覚的でありながらも、自分が混乱状態にあるとは思っておらず、相談の場に訪れた場合もあるだろう。もしくは、自分に何かが起きたことにも、混乱状態にあることにも無自覚な状態だってあるだろう。

このような段階では、「聞く」ことに集中する必要がある。本人自身が、自分が混乱状態にあることを認識することを助ける。また、考えを確かめ、言語化し、整理することを助ける。

この段階で「助言する」ことは避けたい。この段階で何かを判断したり決断することは避けたいし、助言を適切に理解することもまた難しいだろうからだ。

そこから、少しずつ混乱状態が緩和されていく段階が「回復期」である。この段階は非常に長い期間を要することも覚悟する必要がある。場合によっては数日で混乱状態が緩和されていくが、多くの場合数週間から数ヶ月、数年かかることも珍しくない。

この段階でもまた、「聞く」ことが支援の中心である。混乱は完全に落ち着いたわけではなく、まだ混乱の只中にあるといってよい。ある程度自身を客観的に見つめ、自分の行動や思考をコントロールできるようになってくる。しかし、それらはまだまだ安定的ではない。それはときとして波のように浮き沈みし、それはときとして急激に混乱に戻ってしまう。引き続き「聞く」ことによって、混乱を落ち着かせ、自己のコントロールを取り戻すリハビリ期間である。

この段階でも、「助言する」には時機尚早である。

「慢性期」とは、一旦は混乱が収まり、落ち着きを取り戻している段階である。この段階に至れば、自分の身体や考えをコントロールすることができ、他者の意見にも耳を傾けることができる。

この段階において初めて、「助言する」ことの検討が可能である。ただし、この段階においても「助言する」ことが必須なわけではない。生徒が望む場合、または教師が助言すべきと判断した場合である。相談の希望があった場合にこの段階であれば、具体的な助言を求めてくる場合も少なくないと思うので、その際は助言が有効である。しかし、そうではない場合は、助言を求めていない場合もあるだろう。

注意したいのは、「慢性期」はいつでも「回復期」に立ち返りうるし、また新たな「急性期」を迎えることも大いにあることだ。

特に青年期においては、容易に「急性期」を迎えうる。様々な外界の刺激や、内面の変化によって、「急性期」になりやすいのだ。だから、青年期には概ね「聞く」という支援が中心になり、「助言をする」という支援が有効な場面は非常に少ないということになる。

しかしながら、教師という立場にあると、ついつい「助言をする」という支援になりがちである。これは、多くの条件をクリアしたときに初めて有効な支援方法なのであり、濫用することは控えるべきである。

サポートしていただければ嬉しいです!