レコードショップをオープンした日の話(1/2)
あいまいな音楽・場所・お店づくりの話①
はじめに/SALOについて
神奈川県大磯町の海岸近くに、2022年末オープンしたスペース SALO(サロ)。
「STUDIO AND LIBRARY OISO」の頭文字から名づけられたこの場所は、録音スタジオからなる2-3Fと、ライブラリー部分の1Fをコンセプトにスタートした場所です。
●録音スタジオ/ライブ・イベント会場
●レコードショップ
●食堂とコーヒー、ナチュラルワイン
●ギャラリー
などなど、様々な要素を持っていて、一言では説明が難しい場所でもあります。
昨年から1Fの運営に参加することになった私が、控えめなオーナーになりかわり(笑)、ここでの諸々を日記のように書き進めていきたいと思います。
不定期、できれば週一回程度の更新を目標とした記事ですが、よろしければお付き合いください。
なぜ今、レコードショップなのか
一回目は、SALO 1F内にレコードショップをオープンするまでの話。
20代のころから、レコード店を開くことを願いとして持ってきた。
10年に一度ぐらいの周期でその願望は勢いを増して、その都度1-2年は物件探しや開業資金の工面、商品の海外買い付けなどの準備に取り組んだけれど、色んな問題で実現できなかった。
もう自分のお店を持つことはないだろう、近年はそう思っていた。
正直、心残りもそこまでなかった。
ただ、いつかの正月の書き初めで記した「出店」の文字が、それを張りつけている寝室の隅からときおり目に飛び込んでくる。
なにかの拍子で目が合うたび、もうその話はいい、書き初めも処分しようと思いつつ、なんだかんだで後回しにしては心のどこかに引っ掛かっていた。
そもそもなぜ今、レコードなのか。
10代の頃からレコードが好きで、学生時代から現在に至るまで30年以上、月に30~50枚ほど買い続ける生活を送ってきた。新しく興味を持つジャンルに出会ったときなどはその数がさらに増えて、一日で100枚を超えることもある。
職業としても、20代半ばの4年半ほど、大型CDショップでバイヤーの仕事をしていた時期がある。担当はワールドミュージックとジャズで、お客さんは数十年間そのジャンルを聴き続けてきたというベテランリスナーも多かった。足りない知識を補うため、休日は足を棒にしてレコード屋をまわり、日々寝る時間を削ってレコードを聴き続けた。
10代後半からDJもずっと続けてきたから、自分の興味や表現(おこがましい)の求めるままにレコードを買い集めてきた。
2004年にレーベルNRTを設立してからは、CD・配信をメインに、自ら制作・販売を行い、同時に海外盤の輸入をすることにもなった。
(こうしてみると本当に音楽のことばかりで、浮世離れも甚だしいと心配になったりもするが、それはともかく。)
そんなわけで人一倍レコードに触れてきたけれど、音楽はライブを中心に捉えているところがあり、物質としてのレコード、モノへのフェティッシュな関心や執着は元々あまりないタイプ(といっても、あまり信じてもらえないけど)。
災害か何かで所有しているすべてのレコードを明日失ったとしても、たぶん大丈夫。命が無事でさえあれば。
ではお店を断念したことの唯一の心残りは何だったかというと、
同じ空間のなかで人と人とが一緒に音楽を聴ける場を持ちたい、ということ。
レコードショップがオープンするまで
オープンの日は急に決まった。4月7日、日曜日の12時。
開店直前まで、棚の構成を迷いに迷い、どうしても決まらない。
営業開始15分前、ドアの前にはオープンを待つお客さまの姿。
ところで、どこそこのレコードショップが新規オープンするというときに行列ができたという話は珍しくない。
だからここも、もしかしてそうなるかもとは思っていた。
たくさんのお客さんで店内が賑わう期待感もありながら、同時にもし準備不足が原因で、多くの人の期待を裏切ることになってしまったとしたら。そんな怖さがつきまとう。
都心の店でもそうだが、人口3万人ちょっとの大磯町にあるこのお店で一度でも期待に応えられなかったとしたら、もう二度と訪れてもらえないだろうという危機感がつのる。
連日深夜まで続く品出し準備のさなか、何度も意識を失いかけながら、うーん、そういえばなぜ諦めたレコ屋を始めることにしたんだっけ、、と自分を呪う気分になったことも一度ではなく。
ちなみにレコード店の開業準備といえば、仕入れと品揃えに関することがすぐに思い浮かぶと思うけれど、作業的に一番時間がかかるのは、仕入れと品出しの間にある工程だ。
検品とクリーニング、値付け、コメント書きとその下調べなど、一枚ごとにやることがとても多い。各棚のジャンル分けなども重要だし、もちろん一枚のレコードを聴く物理的な時間も必要になる。
もっとも、Record Shop NRTはいまのところ在庫数が数百枚程度、お店を名乗るには他店の方に申し訳ないほど小さなコーナーにすぎないのが実情なので、この分量で泣き言をいうのもどうかとは思う。
ただしその分、既存店ではほとんど見覚えのないコーナー・品揃えが多い構成になったので、一枚一枚の商品につけるコメント作成、値付けは決しておろそかにできない。
音楽ファンなら誰でも知っているような定番のレコードが一枚もない、こんな品揃えのお店にコメントカードの類が一切なかったとしたら。聴いてみたいと思う一枚を見つけるきっかけさえ、なかなか掴めずに終わってしまう人が沢山出てくるだろう。値段が高すぎても無暗にハードルを上げてしまう一方だ。
大げさに響くことを承知でいえば、コメントの一枚、値段設定によって、他ではなかなか触れる機会のないこれらの音楽が広まっていくか否か、紹介し続けていけるかどうかの分岐点になるかもしれないのである。
レコードの値付けについて
特に値段は重要だ。
国内である程度の流通量があって、相場が形成されているジャンルについては、良くも悪くもその影響を受けざるをえない。端的にいえば、相場に対して高くするか低くするかの判断になる。
たとえば、顧客サービスのつもりで相場より格安にしたとする。いちユーザーとしてはこういったお店や商品との出会いは嬉しいけれど、現実には転売目的で買われていくことにもなり、そうなると本当に聴きたい人の手元に直接届けることができなくなってしまう。
かといって全てがきっちり相場どおりに設定されたレコード屋ほど、面白みに欠ける店もない(個人的感想)。相場はそのときの需要と供給のバランスにすぎず、短期的な高騰や下落がつきもので、長い目でみれば別の基準が存在し得る。長く愛されるお店にするなら、相場の陰に隠れた情報や価値を見出し提供することで、タイトルごとに比較的安定した値付けをしていくほうが安心して購入してもらえる気がする。
一方例えば、当店で力を入れているポルトガルの器楽曲などは、そもそも日本国内で流通している量がかなり限られる、というか見かけること自体がほとんどなく、マイナーすぎて相場自体が存在しない。
値付けが安すぎると仕入れ可能なペースに対して売れる早さが上回り、安定的に在庫することが難しくなる。買い物をしに来たお客さんにとっては、見るべきものがないお店になってしまうし、店側としても紹介するうえでのライブラリー機能を失ってしまう。在庫商品は、ただ単に売れる前のストックというだけでなく、こういう商品を扱いますよというプレゼンテーション自体でもある。
そういうわけで売れるペースが早ければ早いほどいいという単純なものでもなくて、商品の仕入れや店頭出しのスピードを急激に上回る売れ行きは明日の機会損失にもなりうる。
反対に、需要に対して値付けが高すぎればいつまでも売れ残ってユーザーの手元に渡ることもないので、こうなると紹介するもなにもない。
ところでじっさいにこのポルトガルコーナーはとても好評で、多くの方がここを目当てに訪店し、10枚以上まとめ買いする猛者も数名いらした。
サブスクでも聴ける音源がかなり限られるため、この記事内に音源リンクを貼り付けたりはできないけれど(近年はナクソスなどが少しずつカタログを拡充してはいる)、積極的に紹介していきたい音楽のひとつだ。
こうした一枚一枚の作業の、上位にある諸々も忘れることはできないーー品揃えの方向性や店名の決定なども重要で、これは後から変えることが簡単ではないから慎重にならざるを得ず、何日も迷うことになる。
そんなこんなで告知もSNSのみ、オープン10日前ぐらいにようやく開始したという始末。
あー、これで本当に間に合うのかどうか。そもそもお客さんが来てくれるのかどうか、、
初っ端から長くなりました。
開店した日のことは、また次回に。
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店舗情報
Record Shop NRT
@ SALO (神奈川県中郡大磯町大磯1665-2)
営業日:第1・2・3 土/日
詳細はSALO hp、Instagramにてご確認くださいhttps://www.mynameissalo.com/
https://www.instagram.com/salo_oiso/
取り扱い商品について
SALO 1F内に、レコードショップを常設オープンしました。
アナログ盤を中心としたレコードの販売を行います。
取り扱う音楽の内容はさまざまですが、
キーワードをあげるとすれば
「現代のフォークロア」、そして「あいまいな音楽」。
2020年代のいま、フレッシュに聴ける音楽を集めました。
例えば…
アルゼンチン、ブラジル、北欧のフォークロア音楽。
近現代の器楽曲ーーポルトガル印象主義、アメリカの現代曲、日本の国民楽派。
ニューエイジ・ジャズーー80年代ECM。
SALOに縁の国内外アーティストの作品も、今後少しずつ取り扱いを増やしていければと思っています。
人間の手を介して作られた、その土地の風物を反映した音楽たち。
あるいは、曖昧さ・不明瞭なサウンドとムードをまとった音楽。
EC販売は当面行わず、店舗のみでの取り扱いとなります。
店頭在庫は数百枚程度と、お店を名乗るには決して多くないですが、これから少しずつ出品していければと思っています。
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SALO 1Fでは、地元・西湘素材の美味しい料理、ナチュラルワインやクラフトビール、シングルオリジンコーヒーを提供しています。
レコードまたは飲食のどちらかだけでも、気軽にご利用ください。
2024年4月からは、第1・2・3週の土日が営業日です。
詳しくはSALOのカレンダー、インスタグラムをチェックしてください!
https://www.mynameissalo.com/
https://www.instagram.com/salo_oiso/
ランチの定番、西湘素材の魚のフライとサラダのプレート
コーヒーやナチュラルワインのグラス提供もあります
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