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言葉には、「奥の顔」がある

わたしたちは毎日、インターネットを通してさまざまな言葉を目にしています。

ものすごい速さで、ものすごい量の言葉を流し見ていると言ってもいい。

発言した人や文脈と切り離され、言葉だけが一人歩きしてしまっている場面もよく見かけます。

そんなとき大事なのは、流れてくる言葉の断片に反射的に飛びつくのではなく、その「奥」を想像すること。

「君とはやっとれんわ」は、究極のプロポーズ

先日、テレビで松本人志さんが好きな言葉として、漫才師が口にするこんな言葉をあげていました。

「君とはやっとれんわ」

ニュアンスが難しいのですが、あえて標準語にすると「あんたとは付き合ってられない」といった感じでしょうか。

みなさんは、この言葉からどんな情景が浮かびますか?

呆れた感じ? 諦め? 愛想を尽かしている?

松本さんはこれを漫才師が相方に対して言うものだとして、「(言った本人は)ホンマにやっとれんわけではない」のだと、だからこの言葉が好きだ、と紹介していました。

千鳥の大悟さんがこれは「お前のことが好きや」「むちゃくちゃなお前のことを嫌いになられへんねん」という意味だと言い換えると、松本さんも「ある種プロポーズに近い」と同意していました。

わたしはこのとき、ハッとしたのです。

「君とはやっとれんわ」は、字面つまり表の顔は完全否定であるのに対し、その奥には「お前のことが好きや」という全肯定が隠されている…!

図にしてみると、こう。

完全否定の奥に隠れている全肯定

「君とはやっとれんわ」をそのまま拒絶だと受け取ってしまうのか、奥にある「お前のことが好きや」に気づけるのかは、大きな違いです。

これは、目に見えない文脈を読めるかどうかにかかっている。

言葉というのは突然、空から降ってくるわけではありません。

「君とはやっとれんわ」は、つぶやいた本人と相方が築いてきた長年の関係性の中から、言葉が紡ぎ出されている。

松本さんや大悟さんは同じ漫才師として、そうした文脈を読み、一見すると相手を突き放したように見える言葉の奥に隠された愛をキャッチしているのです。

英単語6つが小説になる理由

みなさんは、アーネスト・ヘミングウェイが書いたという言い伝えのある「世界一短い小説」を知っていますか? 

英単語6つで構成されている、こんな文章です。

For sale : baby shoes, never worn.
赤ちゃんの靴売ります。未使用。

これがなぜ小説とされているのかと言えば、「君とはやっとれんわ」と同じように、言葉に奥行きがあるからです。

今でこそ、サイズが合わなかった、思っていたのと違ったという理由から、フリマアプリで未使用の赤ちゃんの靴を売ることは珍しくない。

でも、この小説が書かれた時代にそんな便利なサービスは存在しません。個人が出すお知らせは、新聞の隅に小さく載るものでした。

必要だから買った靴なのになぜ一度も使うことがなかったのか、それを手元に置いておかずに売ってしまうのはなぜかを考えてみると、どうでしょう。

多くの人が、赤ちゃんを亡くしてしまった家族が悲しみに暮れる様子を思い描くのではないでしょうか。

もしかしたら、同じ情景でもそれをミステリアスな物語だと感じる人もいるかもしれません。

いずれにしても、たった6つの英単語に一本の映画が始まりそうなほどイメージをかき立てられる。

これが言葉がもつ奥行きなのです。

言葉は、表の顔を見て、奥の顔を考える

言葉には、目に見えている「表の顔」だけではなく、目には見えない「奥の顔」がある。

むしろ、その「奥の顔」に、真実やその人自身の気持ちが隠れているかもしれない。

ふだんから言葉の奥行きと向き合い、考えることで、奥が深い言葉を書く力を養えると思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。面白かったよ〜と思ってくださった方はスキやフォロー、コメントをぜひ。よろしくお願いします。

文:シノ

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