四継/随筆家

随筆家|男性|

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最近の記事

随筆 「 鮭 」

「パパ、あそこにお魚が死んでる。かわいそう」 「そうだね、かわいそうだね」 娘と散歩中、橋の上から川底に沈んでいる鮭の亡骸が見えた。 鮭がのぼる川の多くは上流に孵化場があるが、ここは数少ない自然に孵化することがある川。 「でもね、あのお魚はとても幸せなんだよ。大きなお魚に食べられることなく、生まれたところに戻ってきて、卵をいっぱい産んだのだからね」 鮭は卵を産み、次世代に命をつなぐことでその使命を果たす。 私の使命はこの子を立派に育てあげ、幸せになってもらうこと。

    • 随筆 「サウナ」

      サウナはビジネスツールだ、という人もいるが、まさにその通りだと思う。 以前、仕事で思い悩んでた私は、同僚からサウナを進められた。 なぜにサウナ?と私は思った。風呂に入って心身共にリラックスするのならわかるが、サウナは熱いだけの我慢大会のような気がして昔から苦手だった。 これまでサウナはただ熱いだけとか、水風呂は血圧に悪いとか思い込んで避けてきたが、もっと早くにサウナの入り方を知るべきだった。 実はサウナには入り方があった。 サウナ → 水風呂 → 外気浴 の順番で入り、

      • 寝台列車

        寝台列車で旅に出る。 なぜだろうか、昼間に乗る列車とは違った高揚感につつまれる。 客車列車なので発車も独特だ。 先頭の機関車に引っ張られる感覚。ドフン、という衝撃とともに出発する。 奮発して個室寝台をとった。 部屋でくつろいでいると車掌さんがウェルカムドリンクを持ってきれくれた。車窓からの流れる景色を見ながらワインを飲む。 もう少し飲みたいな。 食堂車に足を運んだ。食堂車は予約制だが21時以降はパブタイムとなり予約なしで軽食とお酒を楽しめる。 ビールとソーセージを注

        • 婚約

          娘、息子ほど年の離れた飲み仲間、その2人が婚約した。 こんな小さな小さな町では男女の出会いの場もほとんどない 遠くから就職で1人この町にきた彼女は、友達を、そして彼氏を探していた 見かねた私の同僚が、同僚自身が監督をしているサークルを通じてお互いを紹介した 気があった2人は程なくして付き合うこととなった ここから200kmほど離れた町にすむ彼氏はこれまでも何度か会ったがなかなかの好青年だ 一緒にお酒を飲んでも人懐こく、ユーモアに溢れ、何より知性がある 「もしかしたら

          英検受験

          何気に受験したtoeicが194点という絶望的な得点を獲得したとき 英語を基本から学びなおそうと思った34歳の夏 英語を学びなおすきっかけは妹のハワイでの挙式 いくらハワイが日本語が通じやすいとはいえ、英語圏へ行くときには英語を学ぶべきだと再認識し、勉強しなおすことにした どうせなら英検の一番低い級から受けることにしよう 英検は5級からある そこから受験することにした 自分なりに勉強した 本当に i have a pen から始まった これならいける 満を持して試験を受

          放送委員会

          僕が中学2年生の時、1年生のその子は放送員会に入ってきた。 ポニーテールの黒髪が綺麗な、どこか品のある子だった。 僕は毎日放送室で給食を食べ、放課後も教室の掃除が面倒なので放送室の掃除を嘘をついては、常に放送室に入り浸っていた。 そして、その子も暇なのかわからないけど、頻繁に放送室にきていた。 気さくな子で僕はその子とすぐに打ち解けた。 時には先輩が放送室でアナウンスしている最中、僕とその子は後ろから先輩の頭めがけて空の牛乳パックを投げつけるいたずらをしては二人で笑ってい

          学区

          僕は決意した 明日、小学校の学区の外に遊びに行くことを 親と一緒でなければ学区の外へ出ることは校則で禁止されている もし学区外に行ったことがバレたら先生に怒られるだろう バレないためにはルート選択が重要だ 道路を普通に歩いていたら誰かに見られるかもしれない なので国道沿いにある鉄工場の裏道から学区を抜け、その先の街中を流れる川のところへ行く そして川を下流に向けて歩みを進め海にでる 完璧な計画だ 翌日、予定通り計画を実行に移す 僕は鉄工場の裏道を進み、いよいよ学区の境

          国際線

          それはコロナが流行する前、韓国からの帰路。 ソウルで食べた韓国料理は最高だった。 店員さんが焼いてくれる「サムギョプサル」をサンチュで包み一気に口に頬張る。最高だ! 別の日は韓国の水炊き「タッカンマリ」に舌鼓をうつ。 席に着くや否や、タッカンマリの入った鍋がドカッと置かれた。この有無を言わさない姿勢が素晴らしい。食べ方がわからないので周辺を見渡しながら食べた。 そしてドーム型のサウナ、汗蒸幕(ハンジュンマク)でリフレッシュ、自分的には日本のサウナよりこちらの方が好みだ。

          鮨屋

          久しぶりに早く帰れるな、そう思いながら足早に会社を後にする このところずっと遅かったが、なんとか今の企画の見通しが立たってきた ようやくひと段落といったところ、だな 駅に向かう途中、雰囲気の良さそうな寿司屋が目に入った せっかくの金曜日だ、このまま帰宅するのもなんだし、久しぶりに酒でも呑みながら鮨を楽しむのもいいかもしれない ふらりと立ち寄った初めて入る店 広すぎず狭すぎず、程よい高級感に包まれた店内だが、それでいて決して敷居の高を感じさせない店だった どうやら落ち

          家族

          明日も釣りに行こうよ、と息子が言った 今日のボウズがどうしても悔しかったようだ 必死に釣り道具のメンテナンスをしている姿を見たら断れないな 明日は予定があったのだがキャンセルし、もう1日息子に付き合うことにした お兄ちゃん、おっきいのを釣ってきてよね 期待を込めて娘が言った 最近、娘は妻の料理を手伝うことが増えた どうやら料理が楽しい様子 母から娘へ伝わる数々のメニューレシピはこうして自然と受け継がれるのだろう 妻にはいつも感謝している 2人の子供の育児や家事全般をこ

          哀悼

          2011年6月 あの日の3ヶ月後 僕は被災地に赴いた この未曾有の事態を 目にやきつけておきたかった インフラ整備に携わる 技術者の端くれ として 壊滅した街で 惨劇を写真に収めた 惨劇を誰かに伝えるために 夢中で撮った その横で車がとまった 降りてきた方は 街を望みながら 目を閉じ 静かに手をあわせた 自分を恥じた 惨劇を撮ることだけに集中し 哀悼を忘じていた自分を 心の底から恥じた あれから10年 ご冥福をお祈り致します

          16歳

          16歳 それは 盗んだバイクで走り出す 失礼、それは15歳だった 16歳 女性が婚姻できる年齢 同級の女の子たちが16歳になったとき 嫉妬した 僕らより先に婚姻が認められることに対して 僕らより大人として認められる権利を得たことに対して 思想的なものじゃない ただただ早く大人になりたかった ただそれだけのこと それから月日は流れ 2022年4月 女性が婚姻できる年齢は18歳へと引き上げられる