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鮨屋

久しぶりに早く帰れるな、そう思いながら足早に会社を後にする

このところずっと遅かったが、なんとか今の企画の見通しが立たってきた
ようやくひと段落といったところ、だな

駅に向かう途中、雰囲気の良さそうな寿司屋が目に入った

せっかくの金曜日だ、このまま帰宅するのもなんだし、久しぶりに酒でも呑みながら鮨を楽しむのもいいかもしれない

ふらりと立ち寄った初めて入る店
広すぎず狭すぎず、程よい高級感に包まれた店内だが、それでいて決して敷居の高を感じさせない店だった

どうやら落ち着いて鮨を楽しめそうだ
腕時計を外しカウンター席に座る

ふと思った
そういえば初めて鮨屋に入ったのは今から30年くらい前だったな
就職して間もない、まだ回転寿司がほとんどなかったあの頃、同僚と初めて鮨を食べに行った

今みたいにインターネットで情報がすぐ入手できる時代ではない
とにかく値段が高いというイメージだけが先行していた我々は、半ば怖いもの見たさのような好奇心で鮨屋に入った

壁のお品書きには値段は書かれていない すべて時価なのだろうか?
若かった当時の我々に緊張感が走る
ただ、我々は秘策を用意していた。「並」を注文することだった
セットメニューの安価なやつにしておけば大丈夫だろう、きっと

ただ、心配もあった。店に対して失礼に当たるのではないか、店の人に嫌な顔をされないだろうか

恐る恐る注文した
「並」を人数分ください、と
もちろん嫌な顔など一切されず、見事な手さばきで握ってくれたのを覚えている

あれから30年、出世したってほどではないが、そこそこのポジションを任され、独り身ということもあってか、たまに食べる鮨はあまり値段を気にせず注文できるくらいにはなった

何にしましょうか?

私は「並」をお願いした

それは懐かしさとか、お代が気になったとかではない。色々食べてみた結果、自分にとって「並」が一番好みだとわかったからだ

あ、それと日本酒と刺身を少し、お願いします

「並」+「少量の刺身」+「日本酒」、初めて寿司屋に入ったあの日から30年、辿り着いた自分の黄金比。

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