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「これって何のための校則なの?」校則の見直しから、先生と生徒の信頼が生まれた【みんなのルールメイキング 前編】

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筆者は中学、高校生の時に無条件で校則を受け入れていたが、振り返ってみると設置理由がわからないルールもあった。厳しい・理不尽な校則などが話題になる中、学校のルールを生徒が主体的に見直す機会は必要なのではないだろうか。

特定の髪型の禁止、靴下の色の規定。「これって何のための校則なの?」。中学、高校生活を過ごす中で、そう疑問に感じていている/感じた人はいるのではないだろうか。

認定NPO法人カタリバ(以下、カタリバ)では「みんなのルールメイキング」という活動を行っている。「ルールメイキング」は学校の校則・ルールの対話的な見直しを通じて、全員が主体的に関われる学校をつくっていく取り組みだ。例えば、全校生徒を巻き込みながら変えたいルールを話し合い、先生、保護者、地域の方々の意見も取り入れながらルールを見直していく。

この度はルールメイキングプロジェクトの記事を前編と後編に分ける。前編となる今回は、高校時代にルールメイキングに取り組んだ経験があり、2023年2月時点では「みんなのルールメイキング」の大学生サポーターとして活動されている山木結衣さんにプロジェクトについてお聞きした。


(写真=Zoom取材に応じてくれた山木結衣さん。筆者撮影)

インタビューを受けてくれた方:山木結衣(やまきゆい)さん:帝京大学1年生。広島県広島市の高校に通っていた。現在、カタリバ「みんなのルールメイキング」の大学生サポーター。

山木さんの高校で行ったルールメイキングは、以下のような流れでプロジェクトを推進した。大きく分けて、「ステップ1、2、3=話し合う校則を特定する段階」。次の「ステップ4、5、6=新たな校則の案を考える段階」だ。その後、出た案を元に先生と話し合いを行い新ルールの合意をおこなう。カタリバのサポートの元、生徒が主体となってこれらの活動をおこなう。

(ルールメイキングの流れの図。山本さん提供)

目標は校則を変えるのでなく、みんなが暮らせる学校を

ーー山木さんは高校時代にルールメイキングに参加されましたが、どのようなきっかけで始まったのですか?

「他の学校に通う学生の校則を聞いてると、私たちの校則がおかしいと感じたことがきっかけです。他の学校と比べると厳しいんじゃないかっていうところが多かったです。

同時に、副校長先生もそこに問題意識を持ってくださっていました。副校長先生がカタリバの人と繋がりがあったことも重なり、ルールメイキングをやってみないかというお話をいただきました。カタリバが生徒を支援する形で、私の通っていた高校がルールメイキングの実証校の第1校になりました」
 
ーールールメイキングはどのように進んだのでしょうか?

「ルールメイキングの話が来たのが高校1年生の冬で時期的にもうすぐ学年が新しくなるので、春に向けてまず生徒会でルールメイキングについて生徒にイメージを持ってもらう形でプロジェクトを何個かやってました。

新入生に対するルール、校則説明会とかを、一応オンライン上で行ったりしました。ルールメイキングを行う前にルールについてみんなが知ってないと、考え方が『絶対もう変えよう』っていう動きになってしまう。それはルールメイキングとしての目的がずれてしまうから、まずはルールについて、きちんとした認識を持とうってところから始めました」

ーー変えることは目的じゃなくて、再検討などが目的という形ですかね?

「そうです。自分たちの1番の目標が、生徒、教員、 保護者と、学校の周りに住んでる方々が幸せに過ごせる学校を作ることでした。変えること自体が目的になってしまうと、多分生徒の意見が強すぎて、とても緩いルールになってしまうので。 先生が生徒に対して信頼を持ち、保護者も学校に対する信頼を持てて、地域の方々も『この学校っていい学校だね』っていうイメージを抱いていただけるような校則にしようってことだったので」

ーールールメイキングの最初の段階では具体的にはどのようなことをしたのでしょうか?

「意見とデータ収集に特に力をいれました。 取り組むルールを決めるSTEP1と2(上の図を参照)の際にも、アンケートを取って変革がほしいルールを3つに絞りました。 例えば1番問題になってたのは、情報端末の取り扱いについてです。最初は持ち込み自体が禁止だったんですよね。 でも、自分たちの学校は公共交通機関を利用して通学する生徒が多かったので、遅延とかで学校に遅れる状態が生まれてしまいます。そのような時に親にも連絡ができないし、学校にも連絡ができない場合、生徒の安全が伝わらないじゃないですか。
 
保護者の方にもアンケートを何回かお願いして、『校則についてどう思うか』と、『これからどうなって欲しいか』を聞きました。 やっぱり保護者の方からの意見は、自分たちからはあまり出てこない意見が出てきたので。例えば、GPS機能を持った携帯を持たせた方が自分としては安心できるっていう意見もありました。その自由記述欄に書いてくださった意見がかなり、貴重だったというところもあります。
 
次のSTEP3が分析のところで、自分たちが今後集めた意見をどういう方向に持っていくか、どういう新校則を提案するのかとその意見に関する証拠みたいなのを集めていこうっていう感じになりました」

(ルールメイキングで利用したアンケート回収BOX。写真=カタリバ提供)

話し合いの中で気づいた先生たちの信頼

ーー次のステップ7、8で新校則について学校との対話や合意などがあると思うのですが、先生などとの意見のすり合わせなどを行う形でしょうか。そこで少し困難があったりとか、話し合いがあったのでしょうか?

「生徒が提出した新校則の案を受け、先生たちが新校則案の改正案を出してくれました。先生たちの中で何回も話し合いを重ねて下さったと思います。ちょっと厳しくなる時もあれば、もうちょっと生徒を信用して緩くしてもいいんじゃないでしょうかってなったこともありました。

先生と生徒で何回かやり取りを繰り返してる間に、 生徒指導の先生と一緒に、生徒が提出した校則についてどう思うかという話し合いもしました。その時はかなり難航した部分もあります。

生徒が、自分自身を信用してない部分も情報端末の時とかはあって…。自分たちの最初の提案では、スマホを持ってきたら朝の時点で先生が回収して業務室に持っていくというのがルールだったんです。だけど先生としてはそれだと先生の負担が増えるし、鍵付きの個人ロッカーで貴帳品を管理するルールが既にあるから、わざわざ預けなくても信用をしたいという気持ちがありました。

先生たちが信用してくれることも嬉しいけど、自分たちとしては、自分たちが作った校則なんだから、ちゃんと守れる状況をまずは作りたいという気持ちが強かったです」


(学校のルールメイキングの様子 写真=カタリバ提供)


ーー先生は、意外と生徒たちのことを信頼してくれている状況がわかったっていう感じですかね。

「そうですね、なんか『信頼されてたんだ!』みたいな感じで。生徒指導の先生って、いつも自分たちのことを疑心暗鬼に見てるっていう、謎の偏見を抱いてたんですけど、 意外と信頼してくれていました。

話し合いを重ねていく中で、先生たちの間でも校則に対する疑問視はあったことを知りました。ルールメイキングに対して実は生徒指導の先生が一番積極的だったんです」

お互いにルールに向き合って築いた信頼

ーー先生は元々生徒に対しての信頼は厚かったのですかね。それとも、このルールメイキングを進めていく中で、信頼が深まったという形でしょうか。

「自分の考えなんですけど、多分ルールメイキングをする前は、生徒自身も校則に対して疑問心を持ってただけでした。校則が変わらない前提で校則に対してとやかく言ってたと思います。自分たちで行動を起こそうなんて思ってなかったから、先生との話し合いの機会が想定できず、先生との信頼関係も作れなかったんじゃないかなって思ってます。

ルールメイキングで、自分たちが校則について考えるようになったし、校則をちゃんと守っていかないと、ルールメイキングできなくなるんじゃないかっていう危機感も、自分たちの中ではあったので。
 
先生たちのルールに対する見方も変わったけど、自分たちも見方が変わって…お互いがちゃんとルールと向き合おうとしたから、信頼感が深まったのではないかと思ってます」

大学生サポーターとして現在の活動

ーー現在は学生サポーターを行っているということで、どのような活動をしているのでしょうか?

「自分がサポートしている学校はかなり離れたところにあるので、オンラインで活動を行っています。向こうの中学校は生徒会が中心になって、ルールメイキングを行ってるみたいです。今行ってることとしては、Zoomを通して、 ルールメイキングについてどう思ってるのかとか、これからどうしていきたいのかっていう確認をしています。

あとは、 オープンチャットで自分たち学生サポーターと生徒が会話できる状況にしてるので、そのチャット上で、進捗状況を尋ねてアドバイスをしてます。主に活動を進めていくのは中学生の子たちで、自分たちはそこにアドバイスをして、その子たちの活動をより良くしていく行動活動を今はしてます」

ーー学生サポーターだからできることはどのようなことがありますか?実際にどのようなアドバイスをなさっていますか?

「自分たちが高校生の時に、ルールメイキングでお世話になったカタリバの方々たちがどう支援をしてくれたかに注目して、生徒達自身が活動が進められるようにアドバイスをしています。

例えば、生徒の意見を集める時にアンケートの紙だけだと生徒も答えるのが嫌になるかもしれないです。自分が高校生の時に学校でやったのが、意見を書いたポスターを貼って街角のアンケート調査のように賛成する意見にシールを貼ってもらう形式でした。シールだけだったら貼ってみよっかなみたいな軽い気持ちで参加してもらえます。生徒の参加しやすい活動で『こういうのもあるんじゃない?』みたいな感じで、 アドバイスをしたりしました」

(山木さんの学校でのシールを利用したアンケート調査の様子 写真=山木さん提供)

学校が一つの居場所になるためにもルールメイキングをみんなに知ってほしい

ーー最後に読者にメッセージなどあればお伺いしたいです!

「このルールメイキングの活動を広げて欲しいです。ルールメイキングがニュースに取り上げられてても、この活動を知らない人はまだかなりいます。

校則が厳しくて、学校生活が合わないから学校を辞めた人も中にはいるんですよ。そういうのをなくすためにも、その時代にあった学校作りの一部として、ルールメイキングは大切です。生徒のニーズにも合わせた校則作りができるようになったら、不登校の生徒も減るし、 子どもたちも過ごしやすい環境が生まれるんじゃないかなって思ってるので。
 
このルールメイキングという活動をまずは知ってもらう。で、そこから良いなって思えば、色んな人にこういう活動あるんだよっていうのを広めて欲しいなとは思います」


執筆者:河辺泰知/Taichi Kawabe
編集者:原野百々恵/Momoe Harano、石田高大/Takahiro Ishida、森青花/Aoka Mori



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