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道東原付爆走旅行その1 網走・女満別~知床

真夏の道東を原付で旅した。

連日の猛暑と変化のない日々に疲れ切っていた8月、北海道では少しは快適に過ごせるだろうという期待を上回り、原付で風を切る僕の身体はむしろ冷え切っていた。気温は二十度を切り、時折雨がヘルメットのシールドを濡らした。そして三日間とも天候に恵まれないまま旅の終着点、釧路は幣舞橋へ。世界三大夕日が見られるというこの場所も、笑えるほど見事に灰色だった。それでも広大な北海道の大地を走るのはいいものだった。

夜景を見下ろして羽田に帰り着く。色とりどりの街灯の森をすべるモノレールの中で、久々にイヤホンで音楽を聴いた。原付のエンジン音が鳴りつづける三日間を過ごした後に聞くジャズは、かつて聴いたどんな音楽より心地よかった。エンジン音と草原の世界から雑踏ときらめきの世界に帰って、ようやくそれぞれの世界の別々の豊かさが胸に迫ってきた。旅する前に立ち込めていた心の霧はあざやかに晴れていた。


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noteで「旅する日本語展2019」っていうコンペをやってたので旅の雑感を短く書いてみたのが上の文章だが、この道東原付の旅についてはもうちょっとちゃんと書いておきたいので暇を見て以下に書き足していく。

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ルートはこんな感じ。女満別空港で原付をレンタルし、知床、野付、摩周湖・屈斜路湖あたりを回った。泊まったのは知床と別海町と川湯温泉。原付は川湯温泉で返し、釧網本線で湿原を訪ねて釧路空港から羽田に帰った。原付での旅を始める前に網走監獄も見てきた。冒頭に書いたように天候は良いとはいえない旅だったが、全行程最高に楽しかったです。


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まず女満別空港に降り立った。翌日からは北見で用事があり、それをこなした後に原付で旅をするという魂胆だった。知床まで足を伸ばすことを考えると網走監獄には寄れないので、監獄には用事の前に行っておくことにした。というわけでまずバスに揺られて網走監獄へ。上の写真はそのときに撮ったどこか。

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網走監獄は元監獄とは思えないほどに素敵な場所で、屋外は手入れの行き届いた植物園のようであり、建築は西洋風の瀟洒なものから伝統的な瓦屋根まで取り揃えていた。展示の読み応えも十分で、開拓のかげに多くの監獄労働者の血が流されたことが伺える。二重の星のような桔梗がとても美しかった。施設内を回っているうちに同じく北見での用事で北海道入りしていた同期数人グループと偶然遭遇した。彼らはレンタカーで来ていたので網走まで乗せてもらい、ひとり街でラーメンを食い、駅近くのホテルに宿泊した。惜しむらくはこの時ゴールデンカムイ未習だったことか。


さて翌日は始発で北見に向かう。セイコーマートで買ったカフェオレとパンをお供に電車に揺られる。数日後には原付で旅するわけだが電車の旅も大好きで、ローカル線に乗る時には駅弁と言わずともついつい軽食を持ち込んでしまう。電車の都合、北見には用事の時間よりだいぶ早く着いたので、珈琲館という七時半から開いてる喫茶店(同名のチェーン店ではない)で時間をつぶした。いわゆるジャズ喫茶であったようで、店主が流す音楽のリクエストを聴いてくれた。誰でも良いからヴィブラフォンのやつ流して、と答えた。一時間ほど居座ってたいへん良い気分で店をあとにする。どこの世界に平日朝七時半からやってるジャズ喫茶の需要があるのかという感じだが、自分以外にも一、二名の来店があった記憶がある。よいまち北見。Googleマップのレビューを見に行ったらなんとも言えない低評価で悲しい。いいとこだよ珈琲館。

北見で数泊しラーメンやら回転寿司トリトンやらローカルピーポーの案内してくれた焼肉屋でうまいもんを食った。サッポロクラシックは本当にうまい。そして再び女満別空港へ。この時、網走周辺は大雨警報出るレベルの雨。不穏。空港の立ち食い寿司屋で軽く腹ごしらえをする。店員の兄ちゃんにこれから帰るんですかと尋ねられたので、いえこれから原付で知床の方まで、と答えたところやけに心配された。俺がこの方送ってくんで午後休とらしてくださいよォ〜などと店長に絡む兄ちゃん、意外とトラックの運チャンとか助けてくれないですよ、と冬の雪道でえらい目にあった時の体験などをシェアしてくれた上に、網走のニシンの握りを一貫サービスしてくれた。ハートフル女満別。あざす。


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用事をこなし、いよいよ原付旅の始まりである。オレンジ色のスクーピーというやつ(写真)が相棒となるらしい。雨具も無料で貸してくれるのがありがたい。北海道とはいえ夏だしと思ってそれほど万全な装備を持っていなかったのだが、この雨具が風よけとしても非常に重宝して助かった。そして雨の中知床を目指して行動を開始した。

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時折雨に降られながらひたすら東へ。真っ直ぐ伸びる農道と田んぼを眺めながら距離を稼いでいく。原付にはスマホホルダーのようなものは装備されていないので、停車するたびに記憶したなんとなくの道順を頼りに進路を決めていった。カーナビを装備した車に乗るのがデフォルトで、どこへゆくにもGoogleマップのサポートが得られる世代としてはこれだけでも冒険心を刺激されてしまう。とはいえ北海道の農地の道はかなり単純なので、それほど気をもむこともなく気ままに風を感じることできた。

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↑「天に続く道」付近。28kmほど続く直線の道を見通せる

一日目である今日は知床近くの宿に泊まる。斜里を過ぎ、あとはオホーツク海沿いの道を延々と進むだけである。日の入りが近づき、ようやく太陽が雲から顔を出す時間が増えてきた。寒い灰色のオホーツク海がわずかにオレンジに染まり、原付のナンバープレートを照らす。

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道中に点在するオシンコシンの滝などに立ち寄りつつ、順調に北海道の東の先端に近づいていく。ドラマチックな夕焼けこそなかったが、わずかに太陽の気配を宿した紫色の空は寂しいオホーツク海の情景にあまりにもふさわしく、晴れた日の昼の景色なんてもはや想像もできないほど強く心に刻まれている。

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↑3枚め:本日の宿。明日は世界遺産・知床を観光し、野付まで足を伸ばして別海町に宿泊予定。その2へ続きます。

(↓再掲・今回のざっくりした原付ルート)

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