横山悠太の自由帳

試訳、日記などの雑記。著書:『唐詩和訓』(大修館書店)/『小説ミラーさん』『小説ミラー…

横山悠太の自由帳

試訳、日記などの雑記。著書:『唐詩和訓』(大修館書店)/『小説ミラーさん』『小説ミラーさんⅡ』(スリーエーネットワーク)/『吾輩ハ猫ニナル』(講談社)

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  • 留学生にすすめたい短歌

    留学生にすすめたい短歌を集めています

  • 宋詞和訳

    詞とは、歌にのせるものとして作られた詩の一種で、今でいう歌詞のようなものです。宋代に隆盛を極めました。その「宋詞」を日本語の歌詞風(演歌風?)に訳してみようかと思います。

  • 郁達夫 『楊梅酒』

    1930年作の短篇小説。郁達夫(1896-1945)、浙江省富陽県出身。代表作『沈淪』、『春風沈酔の夜』など。

  • 廃名『菱蕩』

    1927年作の短篇小説。廃名(1901-1967)、湖北出身。代表作『橋』、『莫須有先生伝』など。

最近の記事

『コンビニに生まれかわってしまっても』 西村曜

留学生にすすめたい短歌シリーズ 4冊目は、西村曜『コンビニに生まれかわってしまっても』(書肆侃侃房) 繊細ながら平易で、留学生に向いていると思う。 ああ、返してないね。 言葉遊びが巧みでおもしろい。 なんか否定するばかりで、悲しくなってくるというか、むなしいというか、そんな感じですよね。 タイトルにもなっている歌はこれです。

    • 『イマジナシオン』 toron*

      留学生にすすめたい短歌シリーズ 三冊目は、toron*『イマジナシオン』(書肆侃侃房) 見立てがとてもいいんです。 これだけでなく、見立ての短歌で溢れています。 そうそう、あれは疲れたときにダイブしたくなるようなフォルムと色だ。 そういえば、最近電車の広告で、「北海道チーズ蒸しケーキ」のぬいぐるみクッションなるものを見た。 これも共感。 おもしろい。 たしかに「死」が螺旋階段を上るイメージだったっていいし。西洋人はそうだったりするかも。 以下の2首は、個人的に共感

      • 『新しい猫背の星』 尼崎武

        留学生にすすめたい短歌シリーズ 2冊目は、尼崎武『新しい猫背の星』(書肆侃侃房) 自虐的で、おもわず笑ってしまうような歌が多い。 後半の2首はどちらも「〜のに」が使われている。 これ、ときどき私もやる(笑) 身も蓋もないけど、こういうのもいいね。 この歌は一瞬ドキッとさせられるけど、よく読むと、「赤ちゃんがおなかにいますバッジ」がひとつながりの名詞になっていることにあとで気づく。技ありの一首。 あるある(笑)

        • 『サラダ記念日』 俵万智

          話の流れで、日本には短歌という定型詩があって、例えばこんなものがありますよ、と『サラダ記念日』の何首かを留学生に紹介することがあるが、あまりいいリアクションはない。 例えば、これは歌集のタイトルにも使われている代表的な一首だが、あまりピンときてくれない。 でも、千人に一人ぐらいは、「短歌、おもしろいかも」と思う学生もきっといるんじゃないか。そして、これぐらいの、あるいは、これより更にとっつきやすい歌が百、二百と並んでいたら、どうだろうか。日本語の勉強にも、短歌が一役買って

        『コンビニに生まれかわってしまっても』 西村曜

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        • 留学生にすすめたい短歌
          4本
        • その他
          4本
        • 宋詞和訳
          17本
        • 郁達夫 『楊梅酒』
          8本
        • 廃名『菱蕩』
          6本
        • 老舎『断魂槍』
          14本

        記事

          教科書に!?

          小野小町 与謝野晶子 井伏鱒二 大岡信 俵万智 と来て…… 思わず、妻と2人で爆笑してしまいました。 大修館書店から出ている今年の高校の教科書です。

          史達祖  「綺羅香・詠春雨」

          寒気を連れて 咲こうとする花をいじめ 靄をかけて 柳の枝をぐったりさせる 千里の雨は 過ぎゆく春を なんとか遅らせたいのだ 朝から晩まで 暗く霞んでいて 愁いのなか 舞い飛ぼうとしては 急に止んだりする 蝶は濡れた自分の羽の重さに すくんで西園に落ち 燕は巣作りの泥の湿りに 喜んで飛びまわる それより何より 逢瀬の邪魔をされるのがつらい 道がぬかるんでいて あの人の車はついに来なかったよ 見渡すかぎり 川面に霞が立ち込め ここへきて春の潮も 急に激しくなり

          史達祖  「綺羅香・詠春雨」

          秦観  「江城子」

          城の西の柳が 柔らかな春を揶揄うように ゆらゆらと揺れる そのさまに 別れの悲しみが思い出され つい涙が溢れてしまいました 今も覚えています あなたはお別れの舟を ここに留めてくださいましたね 緑の野原 朱塗りの橋は あの日のままなのに あなたの姿はもうなくて 川だけが虚しく流れています うるわしき春は 若者のために留まってくれぬのに この果てのない別れのつらさは  いつになったら止むのでしょうか 柳絮が舞い 花びらが散るとき  わたしは高台に登ります

          秦観  「江城子」

          王沂孫 「天香・龍涎香」

          岩礁には 雲が立ち込め 波には 月影がきらめくときに 人魚は夜 黒龍の鉛水を求め 龍宮へ忍び込む  風に吹かれて 筏が遠くまで運ばれ 龍の涎は夢のなかで 薔薇の露と配合され 悲しみを誘う 心字香となる 紅の香炉で ゆっくり焚けば 氷のように 透きとおった指輪や 美しい女の指に 見えたりもする 簾にまつわる 翠の煙は 海上をたゆたう 雲気のようでもある 香焚く部屋のなか あの女はいつもほろ酔いで 肌寒い春の夜 切っては花と散る灯芯を ふたり過ごした 故

          王沂孫 「天香・龍涎香」

          呉文英 「浣渓沙・門隔花深夢旧遊」

          閉ざされた花園へ 夢のうちに訪れました 夕陽は物言わず 燕は悲しげに飛び去ってゆきます ふいに微かな香りが漂うのは か細い君の指が 簾を巻き上げたからでしょう 音もなく舞い散る柳絮 それは春の涙です 雲は恥じらう月のため 影を落としてやります 春風は夜ともなれば 秋にも増して 冷たく感じるのです 門隔花深夢舊遊 夕陽無語燕歸愁 玉纖香動小簾鉤 落絮無聲春墮淚 行雲有影月含羞 東風臨夜冷於秋

          呉文英 「浣渓沙・門隔花深夢旧遊」

          呉文英 「風入松・聴風聴雨過清明」

          風音 雨音と共に 清明節を迎えながら 庭に散る花びらを 葬る銘文を刻んだ  高台の前 あの緑の木蔭で 君と別れたね あのとき 柳の枝えだは 優しく揺れていた 肌寒いなか 酒を煽ったところで 朝の鶯に 春の夢は破られてしまった 西側の庭で 来る日も来る日も林亭を掃き 晴れあがった春の景色を 昔と同じように眺めた ブランコに乗っていたら そのロープに蜜蜂が群がってきた あのときの 君の手の香りが 今もここに残っているのだ 鴛鴦の刺繍靴を履く君は もう訪れること

          呉文英 「風入松・聴風聴雨過清明」

          辛棄疾 「醜奴児」

          若い頃は 愁いなど知らぬくせして 好んで高台に登った 好んで高台に登っては 一丁前に詞をこしらえ 愁いに浸る ふりをした いまは年をとり 愁いも知り尽くしたが それを吐露したくてもできない それを吐露したくてもできずに かえって こんな言葉がついて出る 「涼しくて、いい秋ですなあ」 少年不識愁滋味 愛上層樓  愛上層樓 為賦新詞強說愁 而今識盡愁滋味 欲說還休  欲說還休 卻道天涼好個秋

          辛棄疾 「醜奴児」

          李清照 「永遇楽」

          夕陽は 溶かした金の眩しさ 夕雲は 壁の輪の輝き あの人は 何処へ 柳を染める靄は いよいよ濃く 梅歌の笛の音には 怨みがこもる 春の情緒は 如何ばかり 元宵の佳き日 穏やかな晴れを迎える けれどもすぐに 嵐がやっては来まいか 立派な車馬が 迎えに来ても 宴会はもう お断りです 中洲の地が賑わっていたころは 閨ぐらしにも ゆとりがあり この元宵では 大いにはしゃいだ カワセミの羽の帽子や 金糸の髪飾りなど 粧し込んでは オシャレを競った 今や

          李清照 「永遇楽」

          李清照 「声声慢」

          追いかけて 追いもとめても さむざむ ひえびえとして つらくて 悲しくて やりきれません 暖かくなったと思えば すぐまた冷えて このごろは 身も休まりません 薄酒を二杯三杯 重ねたところで 夕ぐれに吹きすさぶ この風を 凌ぐこともできません 雁が飛んでゆきます つれないのですね きみとは昔から顔なじみだというのに いちめんに散りしかれた菊の花 すっかりやつれ果て 今となっては 摘みに来る人もいません ひとり窓辺で  ただ夜を待っているなんて とて

          李清照 「声声慢」

          周邦彦 「六醜・薔薇謝後作」

          [散り落ちた薔薇] いまや単衣の 新酒の味を試る季節 わたしは旅の身 いたずらに時を過ごしている しばし留まれと願うも 春は帰りを急ぐ鳥の翼 ひとたび去れば 跡形もない 花はどちらへ と尋ねてみる 楚国の美女は 夜の嵐に葬られ 落ちた簪に香りを残し 桃の小道にみだれ散り 柳の通りに舞い飛ぶ この花を惜しんでくれる者などいない ただ蜂や蝶だけが 言付けでもするかのように しきりに窓の格子をつついていた ひっそりとした東の庭は いつしか深い緑がこんもり

          周邦彦 「六醜・薔薇謝後作」

          周邦彦 「蘭陵王・柳」

          [柳のうた] まっすぐな柳の蔭 薄もやのなか 碧の細い枝がゆらゆらと 隋堤のほとりで いくたび見たことか 水面を払い 柳絮を飛ばし 人を見送る柳の姿を 高台から故郷のほうを眺めてばかりいる 誰も知る者はいまい 都住まいに倦み疲れた この旅人のことなど 宿場通りで 来る年も来る年も 柳の枝を手折っては人を送り その長さはもう 千尺を越してしまった 足にまかせて 昔遊んだところを訪ね歩いた またしても 送別の宴席に出くわす 哀しい弦の調べ 街の灯のなか

          周邦彦 「蘭陵王・柳」

          周邦彦 「瑣窓寒」

          柳の薄暗がりに鴉が鳴いている 単衣一つで佇む 小さな簾をあげた朱塗りの戸口 半畝ばかり咲き乱れ 庭をひっそりと包み隠す桐の花は 憂いの雨に濡れている その雨は誰もいない階段にも降りそそぎ 夜更けになっても止みそうにない きみと窓辺で ろうそくの芯を切りながら 楽しく語りあったのはいつのことか 日が暮れるころ 長江のほとりに宿をとり 灯火が風に揺らめくのを見ていたら あの頃の旅情を ふと思い出した 今やわたしも歳をとった この歓楽の地は どこの宿か

          周邦彦 「瑣窓寒」