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郁達夫 『楊梅酒』

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1930年作の短篇小説。郁達夫(1896-1945)、浙江省富陽県出身。代表作『沈淪』、『春風沈酔の夜』など。
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記事一覧

郁達夫 『楊梅酒』 (1)

楊梅酒  病床に伏すこと半年、この足は病室から一歩も出ておらず、近ごろは起きるなり、自ず…

郁達夫 『楊梅酒』 (2)

 彼——この我が旧友——とはもう七、八年のあいだ会っていなかった。話せば長くなるのだが、…

郁達夫 『楊梅酒』 (3)

 彼の風貌は七、八年前と少しも変わっていないばかりか、東京の大学予科に入学した当時と比べ…

郁達夫 『楊梅酒』 (4)

「あれ、きみはいつ来たんだい?」  ここに来てようやく彼も驚きの表情とともに、いつもぼん…

郁達夫 『楊梅酒』 (5)

 ここまで話したところで、彼は顔の向きを変え、私のほうには目もくれず、外の日の当たるほう…

郁達夫 『楊梅酒』 (6)

 二杯の楊梅酒が運ばれてくると、彼は眼をとじ、後ろの板壁に背をあずけ、片方の手でハンカチ…

郁達夫 『楊梅酒』 (終)

 彼にこんなふうに言われてしまっては、寝心地さえも悪くなる。でも、この夏の盛りの楊梅酒二杯と、半日がかりの列車旅で、疲れは限界にきていたので、すぐにでも近くの旅館を探してひと眠りしたくなった。このときちょうど彼は眼を開けて私に三杯目を強いた。私もそのはずみで目醒め、両眼をかっと大きくひらき、彼と張り合って一杯飲み干した。この甘そうで甘くない一杯の酒が腹に落ちてくるまで待っていたら、私もさすがに立っていられなくなるので、勘定を済ませようと店員を呼んだ。彼は店員がやってきて、私が

¥100

郁達夫 『楊梅酒』 (翻訳後記)

「旧友訪問系」の短篇は、日本の明治、大正、昭和初期によくみられた話ではないかと思う。 郁…