見出し画像

郁達夫 『楊梅酒』 (4)

「あれ、きみはいつ来たんだい?」

 ここに来てようやく彼も驚きの表情とともに、いつもぼんやりと鼻先を見つめるような二つの眼を上げた。彼は左手で私の手を握り、右手で袋から濡れた黒いハンカチを取り出して額の汗をぬぐった。

「授業に熱中しすぎて、きみが上がってくるのも聞こえなかったよ。それにしても、きょうはたいへんな天気だな。きみの病気はよくなったのかい?」

 彼は続けざまに私にいくつもの質問をしてきたのだが、これは彼の興奮状態の表れであり、これも学生時代と変わらない。私は手短に答えてから、このあと授業があるかどうか聞いてみた。彼はこう言った。

「Aクラスの学生はもう卒業しちゃったから、きょうはこのBクラスが残っているだけなんだ。ぼくの担当の数学はいま終わったところで、きょうはもう授業はないよ。次の時間は英語で、校長が自分で教えることになってるから」

「じゃ、ちょっと湖のほとりでも歩かないか?」

「ああ、いいよ。いまから行こう」

 そこで私たちは湖のほとりに行き、この四流五流の小さな店に入ったのだった。

 テーブルにつくと、手頃な料理を何皿か注文し、楊梅やまももしゅも何口か飲んでから、別れ別れになったあとの日々について話し込んだ。

「最近はどうやって生活してるんだい?」

 まず彼は、私の仕事を尋ねてきた。

「仕事はないし、どうしょうもないほど貧しいんだけど、衣食等々はまあ、なんとか持ちこたえてるよ。きみは?」

「ぼく? 見てのとおりさ、まあ元気でやってるよ。この夏期講習で一ヶ月教えて、十六元の金が入る」

「じゃ、夏期講習が終わったら、どうするつもりなんだい?」

「そこの小学校でずっと教えるつもりだよ。幸いにも先生はぼくと校長の二人だけなんだ。一月ひとつき十六元はたぶん変わらない。きみは本を書いているって聞いたけど、お金のほうは大丈夫なの?」

「よくはないけど、十六元から六十元ぐらいのお金は毎月もらってるよ」

「上海の養老院に入院してるってのは、だれかの作りごとだってことだけど、このペテン師はどうしてまた、きみやぼくのような人間の名を使おうと思ったんだろうね?」

「それはたぶん、このペテン師が少しばかり教育という毒を食らっちまったからじゃないか。彼もきみやぼくのように多少は知恵があるから、それで道をらしちまったのさ」

「うーん、そうだなあ、知恵の正しい使い方ってのは、今でもよく考えることだよ。ぼくの応用化学の知識は、帰国してから一日も使ったことがないけど、でもね、今度はきっとうまくいくんじゃないかな」


〈原文〉

    “噢,你是几时来的?”

  终于他也表示出了一种惊异的表情,举起了他那两只朦胧的老在注视鼻尖的眼睛。左手捏住了我的手,右手他就在袋里摸出了一块黑而且湿的手帕来揩他头上的汗。

    “因为教书教得太起劲了,所以你的上来,我竟没有听到。这天气可真了不得。你的病好了么?”

  他接连着说出了许多前后不接的问我的话,这是他的兴奋状态的表示,也还是学生时代的那一种样子。我略答了他一下,就问他以后有没有课了。他说:

    “今天因为甲班的学生,已经毕业了,所以只剩了这一班乙班,我的数学教完,今天是没有课了。下一个钟头的英文,是由校长自己教的。”

    “那么我们上湖滨去走走,你说可以不可以?”

    “可以,可以,马上就去。”

  于是乎我们就到了湖滨,就上了这一家大约是第四五流的小小的饭馆。

  在饭馆里坐下,点好了几盘价廉可口的小菜,杨梅烧酒也喝了几口之后,我们才开始细细地谈起别后的天来。

    “你近来的生活怎么样?”

  开始头一句,他就问起了我的职业。

    “职业虽则没有,穷虽则也穷到可观的地步,但是吃饭穿衣的几件事情,总也勉强的在这里支持过去。你呢?”

    “我么? 像你所看见的一样,倒也还好。这暑期学校里教一个月书,倒也有十六块大洋的进款。”

    “那么暑期学校完了就怎么办哩?”

    “也就在那里的完全小学校里教书,好在先生只有我和校长两个,十六块钱一个月是不会没有的。听说你在做书,进款大约总还好罢?”

    “好是不会好的,但十六块或六十块里外的钱是每月弄得到的。”

    “说你是病倒在上海的养老院里的这一件事情,虽然是人家的假冒,但是这假冒者何以偏又要来使用像你我这样的人的名义哩?”

    “这大约是因为这位假冒者受了一点教育的害毒的缘故。大约因为他也是和你我一样的有了一点智识而没有正当的地方去用。”

    “嗳,嗳,说起智识的正当的用处,我到现在也正在这里想。我的应用化学的知识,回国以后虽则还没有用到过一天,但是,但是,我想这一次总可以成功的。”

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?